有川 景 短編シリーズ
有川 景
深夜の親娘
もうこのコンビニに勤めて6年になる。
54歳の時、それまで勤めていた会社が倒産し、再就職先を探したがこの年齢では警備員くらいしかなく、面接を次々と受けて全て落ちた。かといっていつまでも無職でいられない。家族もいるのでなんとか収入を得ないといけないので探したあげく見つけたのが今の職場であるコンビニだった。
シフトは夜勤にしてもらった。夜勤手当がつくので収入がいいのである。昼夜逆転の生活は身体に堪えたが生活のためなので仕方なかった。店にとっても人の集まらない夜勤希望者なので願ってもない事だった。
勤めを始めた頃、毎日午前3時に来る親娘に気づいた。母親は髪を茶色に染めていて娘は4、5歳に見えた。この時間はほとんど客も来ないし、毎日来るので印象に強く残った。
「こんな時間になんでだろう、小さい子を連れて」と最初は思った。この店は繁華街が近いので深夜は水商売関係の人がよく来る。恐らく飲食店での勤めを終えた女性が24時間やっている保育園に迎えにいって帰宅する際に買いものするために寄るのだろう。買うものも大概はカップ麺と菓子パンで、娘には必ずチョコレートなどのお菓子を買ってあげていた。
清算のとき、娘が自分の顔より高いレジ台に一生懸命手を伸ばしてお菓子を差し出すのが可愛くて仕方が無かった。
深夜勤務に慣れて来た頃、毎晩来るこの親娘と自然と会話するようになった。
「毎晩お迎え大変ですね」
「ありがとうございます。でもこの子も来年小学校に入るのでやっと安心できるんです」
「そうですか、それはおめでとうございます。でも夜のお仕事ならそれはそれで大変じゃあないの?」
「私もお昼の仕事が見つかったので、この生活もあと少しなんです」
「それは良かった、夜の仕事ってしんどいですもんね」
そうか、この時間に来るのもあと少しなんだと思うとちょっと寂しくなった。
それから半月後、テレビのニュースで殺人事件を知った。飲食店に勤めるシングルマザーが元夫から復縁を迫られ、断ったあげくその娘共々元夫に刺し殺される痛ましい事件だった。まさかと思ったが、住所は店の近くだったし、映し出された顔写真はまさにその母親だった。
あれから6年になる。
親娘は今でも午前3時に店に来る。
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