短編

翠玉

炭酸

ゴトン、と大げさなほどに音を立てて落ちてきた赤の缶。それを少しかがみながら取り出す。

この暑いくらいの暖かさに当てられたのか、普段は飲まない炭酸を買ってしまった。歩きつつ缶を開けると、他では聞けない、プシュっという音が出てくる。

前に飲んだのはいつだったか、なんてぼんやり考えながら飲むと、喉に電気が通ったような感触に驚き、とっさに抑えてしまう。

そんな仕草を見られてはいまいかと辺りを見回すと、幸いなことに誰一人としていない閑散とした道がそこにあるだけだった。しかし、それでもなんだか気恥ずかしくて、ついつい早歩きで進んでしまう。

もう一口飲んだ時には、さっきみたいに押さえるなんてことせずにぐいっといけた。喉を潤していく甘く、痺れる液体。

ねぜこうも、この不思議な飲み物は僕らを虜にするのだろう。好んで飲まなくても一度この味を知ると、たまにどうしても飲みたくなってしまう時期がある。それは麻薬に似ている。刺激的で、とても甘い。

もちろん世の中には炭酸が飲めない人だってたくさんいるが、きっと炭酸中毒の人たちだって同じくらいたくさんいるだろう。

そんなこと言う僕だって、きっとその一人だ。頻繁には飲まないがそれでも、飲まないわけではない。

いつ、この味を覚えたのか。遠い日の記憶を探ってみる。正確には覚えていないが、小学校の頃にはすでに飲んでおり、身近な存在だった。

こんなこと考えて歩いている人なんて僕くらいなものだろう。やめやめと、ちょうど飲み終わった缶を一メートルほど先にあるゴミ箱に投げ入れた。

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