4-12【自分はみんなを救いたいっス】
☆ファイター
「なるほど、な」
ギャンブラーの話を聞きながら、穴を掘る。土で手が汚れていくが、そんなこと気にならなかった。
ギャンブラーの話というのは気になる点しかなかった。突然思い出したトラウマによって、サイコロを振ることができなくなったとのこと。
そしてそれによりジョーカーと戦うことができず、最悪の結果——ガンナーを死なせてしまったということもだ。
「お前は、ガンナーの信頼を裏切ったのか」
「あぁ」
「……そうか」
返す言葉が見つからない。いや、返すことすらできない。間違った言葉を言ってしまったら、それだけでギャンブラーが壊れてしまいそうだから。
ファイターにも、彼女の気持ちはわかる。トラウマ……それに近いものは、ファイターにもある。いや。トラウマというより、縛られている存在。というものか。
ギャンブラーはサイコロ。対してファイターは兄への
ギャンブラーのことに対して文句を言える立場でもないし、自分もすでに同じような失敗をしてしまっている。その結果、アーチャーが何処かに行ってしまった。
なぜここまで兄に執着するのか、それはファイターにもよくわからない。消えた記憶が何か、関係しているのだろうか。
いつの間にか、手が少し赤くなっていた。小さなため息をつきつつ、それを拭う。
「ふ、二人ともー!」
大きな声が近づいてくる。誰かと思うと、スコップを人数分携えた、クリエイターであった。
ようやく帰ってきたと思ったが、なにやら様子がおかしい。肩で激しく息をしながら、その場に彼女は座り込んだ。
「ぜぇ……ぜぇ……じ、自分……ジョーカーに目をつけられたかもしれないっス……」
「……なに?」
クリエイターはそう言って顔に暗い影を落とす。二人な微妙な空気を、変えることができるかもしれない。そう考えたファイターは彼女の言葉に耳を傾け始めたのだった。
◇◇◇◇◇
☆クリエイター
クリエイターは二人に話をし始めた。内容は先ほど見て聞いた事を、一つ一つ丁寧に。
その間に掘っていた穴は、人一人埋めることができる大きさになっていた。後のことはギャンブラーに任せて、クリエイターとファイターは少しだけ離れる。
「……成る程。このゲームは……ジョーカーをさらに強くするために仕組まれたのか」
「……はいっス」
本当は違う。このゲームはあの子というもののために開かれたのだ。しかし、そんなことファイターには言えない。
もしかしたらそのあの子がファイターかもしれないのだ。だから、詳しく話すわけにはいかない。何個か、ぼかすべき。
これもソルジャーが言っていた覚悟ということの意味なのだろうか。誰かを殺す覚悟というのは、実はまだ持っていない。
敵になるかもしれない存在に嘘を教える。それはつまり、ファイターを殺すことができないと言っているようなものだった。
「……蠱毒か。ここで生き残っている魔法少女をジョーカーという大物が食らう……成る程、理にかなってはいる」
「……そうっスか」
「だが、もちろんやっていいというわけではないがな」
ファイターはそう言って腕を組み始める。彼女はなにを考えて、なにを思っているのかはわからない。しかし、なぜ彼女はこのふざけている現状をすんなりと受け入れているのだろうか。
(もしかしてファイターさんが……?)
一度疑うと、人間は沼に落ちていく。ズブズブと、考えを巡らせるほど底がない世界に落ちていくのだ。
手を伸ばしても、そこから出ることは叶わない。クリエイターの中では、ファイターはすでに疑わしい人物トップに名乗り出ていた。
だが、暗闇に伸ばした手は、ひとつの光をつかんだ。いや、光に掴まれたという方が正しいか。
あの時から肌身離さず持ち歩いていた、ソルジャーの刀に手が当たる。その時、心がすっと軽くなったような気がした。
(……でも、ここで疑い続けるってのは……ソルジャーさんの言葉に反することっスよね……それに、自分はみんなを救いたいっス……ファイターさんがあの子でも、そうじゃなくても……)
「どうした、クリエイター?」
ファイターがこちらを向いてくる。ソルジャーに少しだけ力を分けてもらったクリエイターはいっしゅんだけ、視線を逸らし、意を決して口を開けようとした。
「——あ、あの!」
「まった……!」
しかしその声は、ファイターに遮られる。彼女は口に指先を当てて、辺りをキョロキョロと見渡した。そして、耳に手を当て始めた。
なにをしているのだろうと思い彼女の方に視線を向けていたら、風に乗って何かの音がクリエイターの耳に入ってきた。
間違いない。この音は——
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