1-10【一人来てくれたみたいー!】
☆シンガー
銃声が聞こえた時は、流石に今やってることは間違いかもしれないと、一瞬思った。でも、もうやめるわけにはいかない。
後ろにいるアーチャーに視線を向ける。彼女はガクガクと震えているが、視線はぶつかった。そう、今この場には観客がいるのだ。逃げるわけにはいかない。
一流のアイドルになる。それがシンガーの思いであり願い。こんなところで逃げ出すくらいなら、私はアイドルになんかなれない。
怖い。テレビ番組だと思う自分と、いや。これはノンフィクションだという自分がいた。二人の声を聞いて、どちらが答えかはわからない。
でも、叫ぶしかない。想いは伝わる。この言葉はきっと、みんなの耳に届いている。それがシンガーのスキル【メガメガホン】
カツンカツン
【……っ!ありがとう!一人来てくれたみたいー!みんなも来てー!怖くないからー!】
後ろから聞こえてくる足音を聞き、シンガーは笑顔で大声を張り上げる。一人がくれば、みんなが一気に来てくれるはずなのだから……
その時後ろから騒ぎ声が聞こえてくる。アーチャーと喧嘩でもしてるのかと思った矢先、アーチャーの叫び声が聞こえて来た。
【な、何!?】
シンガーは慌てて後ろを振り向く。そこには、赤い床を少しずつ広げているアーチャーの姿と、こちらを見ておそらく笑う魔法少女の姿だった。
カツンカツン
先ほどのような足音を出しながら、魔法少女がこちらに近づいてくる。そして、ゆっくりと間を空けてから、声が聞こえて来た。
「楽しそうなことしてるね。ジョーカーも混ぜてよ!」
「ひっ……!!」
シンガーは小さな悲鳴を上げて膝から崩れ落ちる。目の前にいるのは、ジョーカーだ。シンガーたちが狙おうとした相手であり、そして、狙われる相手。
血のついたトランプカードを振りながら、ジョーカーはこちらにくる。先ほど聞こえた足音はもう、地獄に導く死神が出してるように聞こえた。
ヒュン。風を切り、ジョーカーの手からトランプが消えていた。何が起こったかと思うと同時に、ベシャリと何かが落ちた音がする。
ゆっくりとしたを見ると、そこに誰かの右腕があった。誰のだと思うのとと何かがおかしいと思うのは一緒で、シンガーは自分の右腕の方に手を伸ばす。
そこには、何もなかった。あるはずのものが、ない。シンガーは口から突然叫び声が聞こえて、びくりと体を跳ねさせた。
現実だ。これはまぎれもない現実。痛みが、そして脳がそれを伝えている。逃げないと、早く逃げないと。
「んーそういえば、シンガーってまるでアイドルみたい……よーし、じゃ、ジョーカーが盛り上げてあげる!」
ジョーカーは距離を一瞬で詰める。そして、シンガーが握っていたメガホンを奪い去り、それをシンガーの口に当てる。
そして、ジョーカーは、シンガーの方をしばらくみた。シンガーがゴクリと生唾を飲むと同時に、彼女は指でシンガーの目を貫いた。
【あぁあぁああぁ!!】
「うんうん。まるでステージ見たいだね!さぁ、次は……」
ジョーカーはそう言ってシンガーの肩にトランプを突き刺す。そして、ふふっという笑い声が聞こえた後に、彼女はそれを思い切り下にスライドした。
血が飛び散る。それと同時に、シンガーの叫び声も辺り一面に響き渡る。彼女のメガホンは、ただ無慈悲に今起きてるのを周りに伝えている。
【いやだぁ!いたいよ!!やめ、やめてよ!!】
「あははぁ!だめだめ!!アイドルは歌わないと……ね!」
【いやぁぁあぁああ!!やめて!!いたいよ、誰か助けてよぉぉぉぉおぉぉ!】
「うふふ……それじゃ、最後は……やっぱりファンの人に刺させるのが一番かな?」
そういうと、ジョーカーは後ろに倒れているアーチャーに向かってトランプを投げた。床に刺さると、アーチャーは慌ててそこから飛び退いた。
生きていたのか。安心するのと同時に、何故助けてくれなかったのかという怒りも湧いてきた。
「い、いや……!!近寄らないで……!!」
「だめだめぇ……ねぇ、アイドルは握手会ってやつがあるらしいじゃん?ねね、アーチャー。シンガーの
「ひっ……!!や、やめ」
「お前には聞いてない」
【がぁぁあああぁぁあ!!!】
アーチャーはなにが起きてるか把握していく。そして、シンガーにもわかる。彼女がなにをしようかということも。
こんなところで終わりたくない。いやだ、死にたくない。そうだ、二人で戦えばきっと助かる……そうに決まっている。
だから、アーチャー……お願いだから……。
「その弓から、手を離してくれない……?」
◇◇◇◇◇
【メールが届いたよ】
【大変大変!歌姫の胸に深々と矢が突き刺さったよ!でも大丈夫!最後の最後に大きな花を咲かせて、歌姫様もきっと幸せさ!】
【残りは17人!みんな、気張ってこー!】
◇◇◇◇◇
☆アーチャー
「ふふふ。うまくいったなー」
ジョーカーの声が聞こえてくる。アーチャーは自分がしたことの重みを理解していた。体の震えが止まらないのも、それが理由だ。
「あ、アーチャー。君は逃げていいよ。大丈夫、ジョーカー嘘つかない!」
ジョーカーに言われて、アーチャーは走り出した。どこまでも、どこまでも。そして走るたびに、色々な思いが重なっていく。
そして、城から出て近くの森に転がった時、彼女は答えを見つけていた。空を虚ろな目で見上げ、彼女は言葉をだした。
「ああしないと私が死んだ……仕方ない、生きるためには仕方ない……仕方、ない……」
アーチャーはフラフラとした足取りで歩きだした。ウェディングドレスについた赤い血は、ゆっくりと、白いところを赤く染めていった。
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