第45話 晩餐会②

「ど、どういうことだよ? サイラスが婚約者? いつの間にそんな話になってんだ!?」


 食って掛かって来たザックを嗜めるように、アルベルトが口を挟んだ。


「おや、ザック君。今日のパーティの主旨を知らなかったのかい? 今日はラシェル君とサイラスの婚約お披露目パーティなんだよ。僕も初めて聞いた時は驚いたけどね……」

「はあ!? まじかよ!? おいラシェル、こんな血も涙も無さそうなやつと本当に結婚する気なのか? 考え直せよ!」

「こんなやつ……とは、酷い言われようだな」


 肩をすくめたサイラスに、ラシェルも咄嗟にフォローした。


「そ、そうよ。ザック、サイラスさんに失礼なこと言わないで! サイラスさんは意図しない結婚をさせられそうになった私のために、偽装婚約をしてくれたんだから!」


 するとザックは豆鉄砲を食らったような顔をしてから、大きなため息をついた。


「なんだ、そういうことかよ。吃驚したじゃねえか……! さんざんこっちはお前に色んなことを相談してたのに、お前はサイラスとそういう仲だってことなんか一度も言わなかったから、信用されてねえのかと思ったぜ」

「えっ? あっ……ごめんなさい」


 ザックも彼なりにラシェルのことを信用し、心配してくれてくれていたようだと気付いて、ラシェルは慌てて詫びた。


「もし私に気になる人が出来たら、その……まず先に、ザックに相談するから」

「ああ。その時は俺が、しっかりと相談に乗ってやるから……」


 そこまで言ってから、ザックがふと言葉を止めて、考え込んだ。


「ザック?」

「いや、何か……お前に気になる奴が出来たら、おもしろくねーな、って……」

「え?」

「いや、俺自身、何でこんな風に思うのかよくわからねーんだけどよ……」


 困惑した顔のザックと、きょとんとしているラシェルに、アルベルトがにこやかに声をかけてきた。


「何というか……青春だねえ。こういう甘酸っぱいやり取りを、僕は久しくしていないから、傍から見ているとあたたかな気持ちになってくるよ」

「だ、団長。変な言い方しないで下さい!」

「からかっているわけではないんだよ? むしろ、こういった感情は尊いものだからね。恥ずかしがらずにいくらでもやってくれていいよ……と言いたいところなんだけど、そろそろにしておかないと、君の婚約者が拗ねてしまいそうだね」


 それに、サイラスが不機嫌そうな顔を向けた。


「誰が拗ねるんだ、誰が」

「ははは。でも、僕の見立てによると、君もそれなりに満更でもないのかと思ったんだけど、気のせいかな?」

「……さあ、どうだろうな」


 わずかに言葉を濁したサイラスの真意が解らず、ラシェルが不思議そうな顔をしていると、そこにかかってきた声があった。


「失礼する。中に入りたいので、そこをどいてもらえないだろうか」

「あっ、すいません」


 言われてみれば確かに、舞踏会場の入り口前で長々と話し込んでいては、他の来客達の通行の妨げになる。

 それに気付いて男性陣を追いやるようにその場から移動しようとしてから、改めて声をかけてきた人物を見て、ラシェルははたと動きを止めた。


「あれ……リュークさん!?」

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