第十章 黒と白
「……なにこれ」
登校した私は、目に映った景色に絶句する。学校のすぐ外にまで、黒が迫っていた。まるで学校のグラウンドに張り巡らされている柵が、その黒を食い止めているようにも見える。
そんなことはどうでもいい。黒曜はどうなったのだろうか、と不安に思う。まさかあの黒曜のことだから、この黒に巻き込まれているということはないだろう。
だろう、というのは推測か願望、どちらなのだろうか。
ここまで黒が侵食しているとなると、この世界の終焉、ひいては私の終焉もそう遠くはないのだろう。もう少し、生きていたいと思う。
黒曜の力を借りて、再びあの黒と対峙する。私にできるのは、それだけだった。
黒曜がやって来たら、力を貸してくれと言おう。そんな思考を抱きつつ、私は黒曜を待つ。黒曜は、まだやって来ない。
さらに待つ。……やって来ない。
さらに、さらに待つ。…………黒曜の影も形も現れなかった。
わかっているのだろう? と私の冷静な部分が囁く。黒曜は、あの黒に呑まれたのだと、無慈悲に分析して言ってくる。
うるさい黙れそんなわけはないだろう。あの黒曜だぞ? いつも冷静で、そしてけっこう気障なところがあって、それでいて涼しげな雰囲気を常に纏っている黒曜が、こんな間抜けな黒に呑まれるわけがない。
そんな私の思考は、きっと願望なのだ。無事でいてくれという、祈りなのだ。
そしてその願いを叶える者は、その祈りを聞き届ける者は、いつまで経っても現れない。
どれくらい待ったのだろうか。その間、黒の侵食は止まっていた。まるで、私を待っているかのように思える。
私はかつて、あの黒の中に何度も消えていったはずだ。それは厳密に言えば私ではないのかもしれないが、この世界における“私”を演じていた人たちは、あそこに消えていった。
おそらく、その記憶は私の中に薄っすらと残っている。私という連続した思考体と、あの海に消えていった彼女たちは違うかもしれない。しかし、初めて黒曜と出会い、そしてあの黒に触れた日、私はあの感触を知っていた。
だからどうした、という話かもしれない。しかし、これは大事なことだ。初めてのことならば、やること為すこと全てが及び腰になってしまう。
しかし、私はすでにそれをやっているのだ。望まない形とはいえ、何度も何度も、やっているのだ。
かつて私は生きたいと黒曜に言った。その願いは、今もしっかりと抱いている。
しかし、それには前提条件がある。この世界には、私以外にもう一人が必要だ。
この世界に黒曜がいること。それが大前提だ。今の状況は、その大前提が崩れ去っている。
黒曜がいない世界に、何の意味があるだろうか。
黒を見る。全ての終焉を見る。
あそこに、黒曜がいる。そう確信した。
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