第3話 故郷との別れ、旅立ちの日

 翌日、太陽が高く昇るころに目が覚めた。太陽が照りつけているというのに、地面は厚い雪に覆われて、肌寒かった。Tシャツにパーカー、短パンという格好で裸足の状態だった私はとても肌寒かった。ひとけはもちろんなく、風の音だけがきこえる。それが余計に寒くさせた。あてもなく、街であった廃墟を歩き回った。瓦礫となった家からは黒煙がかすかにでて、あちこちに血痕があった。そして、いたるところに転がっている遺体は無残な姿で血まみれで雪に埋もれていたり、壁に寄りかかっていたり、何よりも死体のにおいが漂っていて、吐きそうだった。泣きそうだった。誰も生き残っている人がいないとわかり、屋敷へ向かう。


 この国は、一つの島にできた、王国であった。街は整っていて、住みやすく、華やかなところだった。それが、たった一夜にして、失われてしまった。残されたのは、私ただひとり。そして、始めに神城家の屋敷を襲った黒魔術教団の仕業だけでなく、私が魔法で、この手で直接、王国の人たちを、大切な人たちを殺した。私の罪はとても重く、この命だけでは償えない。私は・・・


「・・・どうしたら、いいの?私も、そっちにいっていいの?」


 いつのまにかまた、雲が立ち込めた灰色の空を見上げる。風が強くなったきた。廃墟のとなった屋敷をしばらくみて、瓦礫となった壁に寄りかかって、座った。


「寒い。おなかすいた。誰か、だれかいないの?どうすればいいの?助けて。」


 膝をかかえて、ただひたすらに泣いた。泣き続けた。そして、そのまま眠ってしまった。


 次の日の明け方に目が覚めた。空は厚い雲に覆われて暗く、強風による地吹雪だった。

 ここでようやく私は、この島を出ることにした。特に準備をするものもないので、そのまま歩き始めた。ここは島の中央の盆地に位置していて、港に行くには結構遠い。歩いていくには、まる一日はかかる距離だった。でも、今の私には、魔法というものがある。私は、魔法を展開させ、出現した剣を手に取ると、飛翔した。空はとてもさむかったが、1時間ほどで港に着いた。港にも雪が降り積もっていて、そして、当然のごとく人もなく静かだった。海は空よりも黒く、波も荒れ、不気味だった。それでも私は、近くの船に乗り、適当に操作して、島を出た。生まれてから一度も国を出たことがなく、船にも乗ったことがなかったが、怖くなかった。これよりも怖い経験をしたばかりで、その記憶は忘れることはできないだろう。目的地もなく、ただ船を荒れた波を進ませる。後ろを振り向くと、どんどん遠ざかっていく港が見える。幸せな時間と絶望と恐怖の時間を過ごした、自分の故郷に感謝と別れを告げて、再び前を向いた。もう一生戻ることはないとそのときなぜか確信した。


 ―数時間後、嵐の海に船は飲み込まれ、私は、冷たい海水に流され、そのまま意識を失った。あの時、意識が薄れるなか、見た月の光は、とても美しく見えた。

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