第9話 死神と提案

(何でも願いが叶うんだろ?なら白根さんを生き返らせて元の生活に戻してやってくれ)

『……………ちょっと待て、本当にお前はそれでいいのか?このままだと死ぬんだぞ?それにあの娘は…』


骸骨を見詰めながら竜一は一つの確信をしていた。

今の言動からこいつは何かを隠している、そしてそれはこいつにとってとても重要な何かである。

更にこの焦り様を見れば骸骨は竜一自身が自分の傷を治す等の願いを言わなければ困るのだろう。


(白根さんがデスゲームのマスターって言うのなら分かってる、それでも俺の願いは彼女の命を戻すことだ)

『ち、違う!待ってくれ!これは何かの間違いだ!』


この言葉に骸骨は何かに怯えだした。

言葉が明らかにおかしくなり気付けば竜一に向かって話していないのだ。

次の瞬間、骸骨は青い炎に包まれた。


『ガァァァァ…そん…な……』


その言葉を最後に骨が砂に変化したように骸骨はその場へ崩れた。

それを目で追った竜一はゆっくりと目を閉じる…

一体何が起こったのかは分からないが骸骨が消えたのと同時に意識が消えるように遠のいていく…

そこにあるのは一切の無…

竜一は何もない空間に立っていた。


『おや?もしかして君は…ふむふむ…』


声がして振り向くとそこには顔だけが出せるように開いているウサギの着ぐるみを着た金髪の男性が立っていた。

振り向いた竜一を気にすること無く腕を組んだままブツブツと何かを呟いていた。


『そうか、こんな結末もあるんだな!』


目を大きく開いて竜一の眼前に顔を持ってきた金髪の男。

楽しそうな表情を浮かべながら何かを思い出した様に両手を合わせて頷く。


『突然でビックリしてたんだよね?ごめんごめん、何せ話をするのなんていつ以来か思い出せなくてね』


竜一は口を開いて何かを言おうとしたが声が出ずにそれは伝わらない。

その様子に気付いたウサギの着ぐるみを着た男は人差し指を立ててウサギの耳を押した。

すると周囲の景色が一瞬で変わって何もない空間にだったのに何処かの家の部屋の中に居た。


「なん…だ?!」

『君たち人間は空気がないと声が出せないのを忘れてたよごめんごめん』


まるでさっきまで居た場所は空気がないみたいな事を言われ驚く竜一の口から声が出た。


『よしよし、それじゃ改めて。僕の名前はイナバン、君達が死神って呼ぶ存在さ』


軽い口調で自己紹介された内容に戸惑いを隠せない竜一は固まる。

遊園地やサーカスに居そうな目の前の人物が死神だと名乗っているのだ。


『さて、色々聞きたい事もあるだろうし時間は止めてあるから何でも聞いてよ』

「時間を…止めてる?」

『ん?あぁ、こんなんでも一応神の端くれだからね』


笑いながら相変わらず軽い口調のイナバン。

竜一は生唾を飲み込み質問を口にする。


「さっきのあいつは?それに願った白根さんは…」

『あぁ、あの出来損ないの天死はルールを犯したから処分されたよ。本当は願いを聞いてからそれを叶えるための対価を使うのがルールなのにアイツは君の両親の命を既に使って居たからね』

「まて…今なんて…」

『ん?あっそっか、君の意識を起こし意志疎通をするのに君の父親の命を、君の傷を完治させるために君の母親の命を勝手に使用してね』

「父さんと…母さんの…いのち???」


謎の事件で唯一生き残った瀕死の息子に両親が会いに来ない理由がこれであった。


『まぁそれに関しては最後に相談があるから今は置いといて、白根さんってのは君と一緒に居たあの娘だね?安心してください、彼女はこちらで願い通りに天死の命を対価にして生き返らせてます』

「白根さんが…そうか、よかった…」

『しかし、不思議ですね。どうして君は彼女の蘇生を望んだのですか?』

「彼女、俺を巻き込んだって後悔していたんだ。涙流して本気で謝ってた。彼女がデスゲームのマスターであの天死に取り付かれていたんだろ?吊り橋効果なのかは知らないけどさ、あの時の彼女の涙にコロッと…ってあれ?俺何言って…」

『あは…あはは…あはははははははは!!いや、ごめんごめん本音が聞きたかったからちょっと力を使ってここを隠し事が出来ない状態にしたんだ。悪い悪い、でも……あはははは』


着ぐるみの腹部を押さえながら笑うイナバンに少しムスッとする竜一だが白根さんは無事に生き返ってるという話に安心していた。

先程イナバンはここを隠し事が出来ない状態にしたと言った。

つまりイナバン自身もウソを言ってないだろうと信用したのだ。


『あーこれが人間なんだね、凄く刺激的だったよ。さて、それじゃあ最後の提案だ。君のために使われてしまった両親の命を君の寿命を分け与える事で生き返らせるってのはどうだい?』

「でもそれじゃ俺は…」

『残念だけど対価が無ければ我々は何かを行うことは出来ないのだよ、だからこれは提案だ。君は異世界って興味ない?』

「もしかして、良くある異世界転生ってやつですか?」

『ををっよく知ってるね!なら話は早い!君は新しい世界で新しい人生を楽しめるし君の両親も生き返る、会えはしないけど全てが上手くいく形だと思わないかな?』

「…それしか、無いのかな?」

『これでも最大限の譲渡なのだよ、君の命一つで二人の人間を救うと言うのは本当は無理なんだけどね、こちら側の失態だし、なにより君の望む相手が全て生きている上に別世界だけど君も生きていられる方法ってこれしか無いのさ』

「…………」


少し考え込んだ竜一であったが他に何かを対価にすることも出来ないと言う言葉に納得は出来ないが理解するしかないと判断した。


「分かりました。それでお願いします」

『おっけー!それじゃ君の魂は一度体に戻すね、今夜の24時にその命を対価に両親を生き返らせるから。それじゃね』


そう言って周囲が再び無に返った。

その無の中に竜一は沈むように溶け込んでいった。








「もしもし?えっ?!はぁ?!?!」


病院の外に出て鳴っている携帯電話に出た白根さんの父親である白根真は向こうから伝えられる内容に驚き困惑していた。


「娘が生き返って直ぐに外へ出ていった?!」


まるでゾンビ映画のワンシーンみたいなのを想像する真である。

そして、その頃離れた場所では…


「う、嘘だよね…坂上君…」


病院を目指す白根さんの姿があった。

死んだ時の学生服を着たまま裸足で泣きながら歩く彼女、空に星が浮かび時刻はまもなく23時になろうとしていた。

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