変態元勇者と貧乳魔王の異界征服録

森崎駿

第1魔『勇者は魔王軍に寝返る様です』

 世界は常に表と裏、光と闇。必ず一つが生まれればそれに相反する存在もまた現れる


 かの世界に人間という生命体が生まれて数千年の時が流れた頃だったす

 表を人間とするならば…裏となる存在、魔族が人間界に攻め入ってきたのだ


 人間と魔族の戦争は3000年という永きにわたり続けられ、互いに決定打を打てずにただただ時間を浪費していった


 そんな中、人間界に一筋の希望が生まれ落ちた


 その男は魔族を討ち滅ぼすため世界を旅し、様々な出会いを経て、四天王や六幻魔等の魔族の幹部を倒し。遂に魔王の喉元に手が届く寸前に達した―――。


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 人間の骨格と同じでありながらも、その体からは黒い炎のオーラを常に発生させ、その空洞の眼の奥には赤く揺らめく光が目前の勇者を視認する


「はぁ……はぁ……やっぱ強い。あの凄まじい強さを誇る人達が従えるのにも納得です」

「ですが……それもここまでです。その命…この勇者が貰い受けます」


 目前にいる魔王には如何なる名工が打った剣であっても傷一つ付けることはできない

 だがしかし、天界の秘宝の一つ《聖剣エクスカリバー》は唯一魔王を殺す事ができる剣である


『――勇者よ。』


 魔王はドクロの口を動かさず、勇者の脳内に直接響くように語り掛ける


『確かにこのままでは我は亡びるだろう。だがしかし、汝はそれでも良いのか? 我を亡ぼすことが真なる望みなのか?』


 正に悪魔の囁き、いや魔王の甘言というべきだろう。常人ならばこの言葉に耳を傾け油断を誘えるだろう


 格闘家リンダや僧侶エルシエラ…剣士ハガン等の数々の仲間たちを魔王城に最も近い町に残し一人覚悟を持ってやってきた勇者には無駄な行為だ


 だが勇者は七日の時もの間、死闘を繰り広げた相手に一言も言葉を交わすことなく殺すのはハガンと約束した戦士の流儀に反する行いである


 その為、勇者は常に殺気を全開にし視線を一切逸らさずに魔王の問いに答える


「僕の望みはただ一つ。お前を倒し人間という種族に勝利を収める事のみ。話は終わりですね? ならば……斬り捨てる!!」


 勇者は聖剣を振るい魔王の首めがけて一閃する……だがその時、魔王は口を開き大声で笑い出した


『クククク……ふはははは!!」

「その一途な勇者の覚悟。面白い…面白いよ君は。やはり確信した…わたしは君に惚れてしまった様だ…勇者。一つ提案がある」


 それは先程まで、いや七日の時を過ごした魔王の声とはうってかわって。まるで幼き女児のような声がドクロの口から聞こえてくる


「勇者。人間の世界を征服した暁には君にその世界の半分をやろう…」

「その代わり。君はわたしの下僕となり手足となり…引いては全世界の征服に力を貸すのだ。わたしは君を殺すのは嫌なんだ…君が欲しいのだ。わたしだけのものにしたいのだ」


 言葉が続くにつれてあらゆる動物の骨に金メッキを貼り付けた悪趣味な玉座に座していた魔王の姿がみるみる内に変化する


 3メートル強はあった背丈も縮んでいき骨しかなかった腕や足、露出している肋骨などに肉が血管が、小麦色の肌が作り出される


 魔王が着ていた黒のボロボロのローブの様な布は徐々に、まるでおとぎ話に出てきそうな程繊細に作られた黒のドレスに変わる


 眼球など無かった目には、左にはレモン色右には瑠璃色といったオッドアイとなり勇者を見つめる


 頭からは紫色の髪が流れ落ち、頭には金色のティアラが被せられ、頭の先からはまるで釣り竿のようにしなるアホ毛が飛び出る


 完全に人の子の様な姿に変わった魔王らしき童女は悪趣味な玉座の肘掛に肘を置き頬に杖をつく


 目の前で起こった不思議な変化に目をぱちくりとさせる勇者の口から出たのは驚きの声でも、冷徹な勇者としての冷ややかな言葉でもなく


「かわいい…こんなの殺人的過ぎるだろ…」


 勇者の口から零れたのはただ目の前に映る童女に対しての素直な心の声

 その言葉を聞いた童女も一瞬頬を赤らめ視線を逸らすが、直ぐに勇者は冷静さを取り戻し聖剣を突き付ける


「僕が童女の姿なら斬れないとでも思っているのか魔王。幾ら超絶かわいい褐色ロリに変化した所で斬る事には変わらんぞ」


 そう言われた童女は突然大きなため息を吐き勇者に向けて言う


「これがわたしの本来の姿で、あのドクロの姿が変化した姿なのだよ。まぁいい。わたしがこの姿に戻った理由は君と立場上完全にとはできないがある程度対等な目線で交渉したいからだ」


 そう言うと童女は肘をついていない方の手で勇者の聖剣の切っ先を握り締め己の心臓の前に持っていく


「後数センチこの剣を動かせばわたしを殺せるだろう。だが、ほんの少しでもわたしに対する敵意以外の情を君が持っていてくれているのなら、人間ではなくわたしを選んでくれるのならば―――」


 童女はそこまで言うと途端に息が詰まり先の言葉が出なくなる。だが、童女は直ぐに無理やり口角を上げ勇者に語り掛ける


「―――わたしのモノになってくれ」


 その瞬間、勇者の中の何かが音を立てて崩れ落ち聖剣がカランカランと魔王の間の床に落ちる


 勇者は静かに片膝をつき童女の素足に手を添えて顔を近付ける


 しかし童女は顔を赤らめ声にならない声を上げながら足を振り上げ勇者の顔面を勢いよく蹴りあげる


「ななな…何をする気だ君は!!!」


 頭から湯気を出しながら玉座の背もたれの上にそそくさと登り床に伸びている勇者に問いかける


「何をするも何も、お前が下僕になれって言うから下僕は下僕らしくご主人様の足にキスをしようとしたまでだが?」


 勇者はさも当然の様に起き上がりながら返答し鼻血が出ていないかを確認する


「きき…キスとは君は気が早すぎるぞ!! 大体ご主人様って……え? もしや本当にわたしを……」


 そう聞かれた勇者は何言ってんだこいつと言わんばかりの表情で床に落ちた聖剣を拾い上げ鞘にしまいながら声高らかに宣言する


「下僕になれって? いいですとも!!!」

「この勇者は魔王童女の下僕として世界を征服しちゃいますよっと」


 その宣言を聞いた魔王は感極まり声も出さずに涙をこぼし始める。だが直ぐに落ち着きを取り戻し玉座から降り、ドレスの裾を持ちながら自己紹介を始める


わたしは三代目魔王だ……勇者よ。共に世界を征服し、共に世界を駆け抜けよう」


 まるで貴族の令嬢の様に気品溢れるお辞儀をされた勇者は不格好ながらに片手を前に出して礼をする


「俺は勇者…いや、魔王のモノになった元勇者だ。これからよろしく頼むぜ」


 その名乗りを上げた瞬間、腰に携えた聖剣の柄に埋め込まれた宝玉の輝きが失せたと同時に勇者の首に下げたネックレスが粉々に砕かれる


「ん? なんだ…急に力が抜け…て……」


 勇者は頭から床に倒れ込み全身の力が抜けていく。物凄い脱力感と倦怠感から指先すら動かす事もできなかった


 心配した魔王は倒れた勇者に駆け寄る。息苦しそうな勇者を見た魔王は今し方復活を終えた四天王の一人の《タマモ》を呼び出す


 すると、虚空に人魂が2個3個と増えていきその人魂が一箇所にまとまると三本の尾を生やした少女が現れる


 その山吹色の髪から飛び出た二つのケモ耳はぴょこぴょこと辺りを観察し始める

 山吹色の尻尾はゆらりゆらりと風に舞い、水色と紅色の振袖と共に揺れる


 たゆんたゆんと動く度に揺れる豊満な胸を揺らしながら魔王の元に歩み寄る


「魔王様? 妾に何か御用ですか? わては直ぐにでも自室に帰り一服吸いたい気分やのに、魔王様も人使い…いや、タマモ使いが荒いお人やわぁ」


 コロコロと鈴が鳴るように笑いながら魔王に聞いたタマモは魔王から溢れるオーラから大体を察する


「なるほどなるほど…魔王様、あくまでわてが知る限りやけど…これは天界の呪詛やなぁ」

「恐らくやけど…これは万が一魔族の甘言に引っかかってわて達に寝返った場合に発動して即座に息の根を止める呪詛や。しかも天界の特別性…解呪は不可能やなぁ」


 それを聞いた途端に魔王は膝から崩れ落ちボロボロと大粒の涙を流し始める。自分のせいで勇者が死んだと思い泣き叫ぶ


 そんな魔王の姿を見てやれやれと思ったタマモは着物の懐から一本の小さな小瓶を取り出す


「これは《人殺し》ゆうてなぁ。普通に使えば猛毒の毒なんよ。でもこれを数滴と魔王様の魔力を込めればちゅう毒になるんよ」


 魔王の固有スキルに《魔物無限創造》というスキルがある。これを使えば魔王の魔力がある限りその名の通り魔物を大量生産可能なのだ


 更に、ある程度込める魔力を強めれば死んだ幹部達を生き返らせることも可能

 つまり、タマモの持っている毒を細工し今の勇者を殺しまた蘇らせるというのだ


「やけど…生き返った勇者が前と同じ性格、思考とは限らへんよ? 本当にまったくの別人格になるかもしれへん」

「それでも……ってもう覚悟は決めてしまってるやないの。仕方ないわぁ」


 タマモはビンの封を開け杯に垂らし始める。少しづつ垂れている《人殺し》に魔王は固有スキルを発動させながら魔力を込める


 その後、タマモは杯の中にある毒を倒れている勇者の口に運び飲ませる

 すると、勇者は激しく苦しみ出しもがきだす


「成功やなぁ。おんや? 目を覚ますのが早いなぁ。主は何者か言ってみるがよい」


 起き上がった勇者は辺りをキョロキョロと見渡し魔王をジロジロと見た後にタマモを見る。


「―――……だろ」


 ぼそっと呟いた一言は初めは聞き取りづらく魔王とタマモは再度言うように頼んだ時、勇者は立ち上がり天に向かってガッツポーズを決めながら叫びだす


「目が覚めたら目の前に貧乳褐色ロリ童女にケモ耳着物巨乳ロリとか…反則的かつ暴力的過ぎるだろうが!!」

「君たちあれだぞ? マジで君たちはお兄さんの股間にジャストミート。だが安心してほしい!! 俺が君たちの純血を汚すことは決してないのだから!!」

「YESロリータ、NOタッチ! それこそが真なる紳士の掟であり天に定められた宿命なのだ!! 世界中の紳士諸君、共に目の前のロリを崇めようじゃないか」


 まるで嵐のように魔王の目の前で繰り広げられる勇者の饒舌かつ理解不能な言葉の数々に魔王は困惑し、タマモはケラケラと笑う


「あ〜…君は勇者…だよな? わたしの事を覚えているか?」


 魔王は恐る恐る自分たちに向かって手を合わせ崇めている勇者に話しかけると勇者は顔を上げ頭にクエスチョンマークを浮かべる


「勇者? 一体なんの事だ? 俺はザパル村の一農民である《ライン》だけど…人違いじゃねぇの?」


 その言葉を聞いた途端、タマモは失笑しながら扇子を扇ぎ一言呟く


「これは…本当にまったくの別人格が根付いているみたいやなぁ」



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※ステータスが更新されました


【勇者】

年齢:19歳

身長:176センチ

体重:68キロ

魔法適正:地,光

出身:天界

称号:人類の希望ラスト=ブレイブ

   世界に選ばれた者

一人称:僕


身体的特徴

細マッチョ

黒髪のパーマがかったショート

翡翠の目


生い立ち

・勇者に選ばれたったの二年で四天王、六幻魔を討伐し後一歩の所まで魔王を追い詰めた



【魔王】

年齢:312歳

身長:150センチ

体重:44キロ

魔法適正:闇

出身:魔族界,魔王城

称号:三代目魔王

   闇を極めし地獄の王シャドウ=インフェルノ

一人称:わたし


身体的特徴

褐色肌

AAカップ

紫色にロングに先が丸いアホ毛

左レモン色、右瑠璃色のオッドアイ


生い立ち

・二代目魔王が流行病で亡くなり僅か12歳の若さで三代目魔王となる



【タマモ】

年齢:4020歳

身長:153センチ

体重:不明

魔法適正:火,水,地,雷,風,光,闇

出身:亜人界,獣人ノ里

称号:永久に続く遊戯ロストチャイルド

   夢からの追放者

一人称:わて


身体的特徴

ケモ耳

三本のケモ尻尾

山吹色くせっ毛が強いボブカット

黒目


生い立ち

・初代魔王の時代から四天王として魔族に使え、勇者以外には負け無しの戦績を誇っていた

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