第2章

エピソード26《セカンドレース》


 5月3日午前11時、神城(かみしろ)ユウマの話題は拡散しており、スポーツ新聞の記者も駆けつける程の展開となった。

しかし、目撃証言のあった場所には神城の姿は既にない。

記者の動きを察して移動したのかどうかは定かではないが――記者からは残念な声が聞かれる。

「あの箱根で見せた走りを生で見たかったが残念だ」

「生身で走るのとパワードスーツを装着している状態では、色々と勝手が違うだろう。箱根と同じとは限らない」

「神城以外にも駅伝からパルクールへ進出した選手は複数いる。そちらを探すのが先じゃないのか?」

「元陸上選手、元野球選手等も多数出ている。中には、パルクール・サバイバルトーナメントを体力トレーニングの場にしている者もいるらしい」

「今年のトライアウトは、さりげなくパルクール・サバイバーの参加者で元プロ野球選手も―」

「そこまでは甘くないだろう。パルクール・サバイバーをスポーツジム代わりに利用しようと考えると、後悔をする事になる」

「予算的な意味か? それとも、別の理由?」

「パルクール・サバイバーにはランカー勢が存在する。そのランカー勢からは『スポーツジムの代用品ではない』という声が出ている。そう言った利用方法は本来の趣旨に反するからという事だが」

 最終的には、集まった新聞記者も半数以上が別の場所へと移動をしていった。

その中で、1人だけ移動をしない記者がいた。彼はデジタルカメラを片手にコースの撮影を始めている。

彼は神城の方には興味がなく、以前に取材をしようと考えていた阿賀野菜月(あがの・なつき)に関して調べていた。

周辺エリアは取材禁止と言う訳ではなく、写真を取る事には問題はない。

「すみません、あなたは追いかけないのですか?」

 神城と並走した男性選手が新聞記者に声をかける。

しばらくして写真を撮るのを中断し、彼の方を振り向く。

その後、新聞記者は「追いかける気がない」と一言――再び写真撮影に戻った。

彼が何のためにコース撮影をしていたのかは定かではないが、ライバルARゲームのデータを参考にして新作を開発しようとしているスタッフ説もある。



 同日午前11時30分、北千住では再び未知のガジェットによるランキング荒らしが再び問題となった。

以前に同じ騒動が起こった際は調整を行うと言う事だったが――。

【あのガジェットは明白的に未知のガジェットだな】

【あれは最近になって稼働したばかりのゲームに使われている物だ】

【審査を通りぬけて運用をしようと考えた、と言う事か】

【サマーカーニバルかサマーフェスティバルの行った事か?】

【違法ガジェットに対する対策が厳しくなった結果、未知のガジェットを利用してランキング独占を考えたのだろう】

 つぶやきサイト上では、該当する動画に対するコメントが浮上し始めている。

この事から、超有名アイドルファンが違法ガジェットではなく、未知のガジェットへシフトしてガジェットチェックを通過しようと考えているのかもしれない。

【そう言えば、サマーカーニバルもサマーフェスティバルもプロデューサーは同じだったか?】

【確か、同じようなサマーなんとかの派生グループは海外でも展開するというニュースがあったかもしれない】

【どちらにしてもややこしいな。某36とか某20は数字で区別できたのに、サマーなんとかで略されると――】

【そうなると、カーニバルなのかフェスティバルなのか……ファンを見分けるのも難しいぞ】

 ネット上では、サマーカーニバルとフェスティバルに関する話も出ていた。

どうやら、芸能ニュースで海外進出と言う話が出たらしい。

【そう言えば、ネット上には様々な事件に関してのまとめサイトがあるようだが――】

【そちらよりも重要なのは――パルクール・サバイバーだ。他の芸能ニュースは単純に芸能事務所をタダで宣伝するような物――触れるべきではない】

 このつぶやきが拡散されて以降、サバイバーと無関係な芸能ニュースは途切れたと言う。



 同日午前12時、お昼のニュースを見ながら動画をスマートフォンで見ていたのは人物がいた。

彼が見ている動画は、神城の走ったレース――パルクール・サバイバルトーナメントの動画だったのである。

制服を着ている事から、おそらくはガーディアンなのかもしれない。

「飛行によるショートカット禁止レース、仮に10秒以上短縮できるショートカットコースを使ったとしても、あれほどのスピードを出されると勝ち目は――」

 レースの方は神城が終始リード、2位との差も20秒差近い記録も出ている。

フルゲート16人が出走したのだが、彼に付いていけている選手は不在と言うのが大きいだろうか?

しかも、彼は普通に道路のコースを使って走っており、これでは普通に駅伝やマラソンと同じように見えた。

一方で一部の選手はパルクールならではのショートカットや障害物突破を披露するが、それでも神城へ近づくのは容易では――。

「秋月以上の脅威は、ここにもいたという事か――」

 神城は箱根を走った事もあり、辞退はしたが山の神と名乗っても差し支えのない実力を持つ。

陸上競技の優勝請負人という事が言われていた秋月よりも、おそらくは運動神経などは一回り以上にあるだろう。

男女の埋められない差はあるのかもしれないが――。

動画の方が終了する頃、ニュースではパルクールに関するニュースが流れていた。

『次のニュースです。国際スポーツ連合は、2020年に東京で行われる国際競技大会の種目にパルクールを採用する事に関して、環境が整備されているとして種目として採用可能であると――』

 以前、似たようなニュースは見かけたような気配がするが、本当に行うのか疑問視されていた国際競技大会におけるパルクールの採用に関するニュース、これには落ち着いてはいられなかった。

「やはり、この動きは超有名アイドルグループおよびアイドル投資家が主導した物か――」

 今回の動きに関して彼は犯人の目星がついていた。

それは、超有名アイドルの上層部とアイドル投資家と呼ばれるファンとは別物の存在である。

アイドル投資家はCDを1000枚規模で購入してCDチャートを上昇させ、CDランキングを株式銘柄のリストと勘違いしている集団の事を指す。

しかし、こうした考え方は反超有名アイドル勢力のみであり、国民全体の考えではないと超有名アイドルファンや運営は否定している。

ネット炎上を考えている炎上請負人やアイドル投資家、他のジャンルの勢力は、どのような意見で動いているかは不明だが――超有名アイドル商法に関しては陰謀論という説も浮上していた。



 同日午前12時30分、秋月彩(あきづき・さい)は別の会場で神城に敗北した。

その差はわずかに2秒。それでも、3位の選手とは30秒近い大差が付いており、この2人だけが能力のケタが違うと言及される事になった。

「箱根の山の神――まさか、あなたがパルクール・サバイバーに来るなんて」

 秋月はメットを外して息を整える。それに対して、神城の方は疲労したような表情を見せない。

一種のポーカーフェイスと言う訳ではなく、ほとんど疲労していないのだ。それ程の体力差を見せつけられた瞬間でもある。

「山の神は返上している。それに、今の自分は箱根の時とは全く違う。お前も陸上の優勝請負人だったとか」

 秋月の疑問に対し、神城はあっさりと答えた。神城の方も秋月に一つ質問を返す。それに対し、秋月は無言でうなずく。

確かに神城の言う事も一理あるのは当然だが――。

「それは過去の話よ。今は、ネット上にあるパルクールの知識で何処までたどり着けるか……」

 息を整えようとするが、まだ若干荒く感じられる。姿勢はうつむいたままと言うか――。

最終的に何とか落ち着いた秋月は、シャワーを浴びる為に別のエリアへと向かった。

それに対して神城の方は別のレースへとエントリーしようとタブレット端末を操作するのだが、その操作途中でショートメールが来た事を知らせるアラームが鳴る。

【あなたではパルクール・サバイバーを制する事は出来ない。その証拠となる動画リンクを発送する】

 差出人の記載は名無しとなっていたが選手ID等から誰かと判別できるメッセージだったのは間違いない。

しかし、神城には他の選手が何を言おうと自分の走りを続ければ問題ないという考えがある。

「箱根の時も出雲の時も……そこに走っているという感覚はなかった。走らされていると言うよりも、何か別の気持ちを感じた」

 神城は箱根及び出雲の駅伝では監督の指示で走っていた。

自分もパルクールのトレーニングになると考えての利益の一致だったが、実際は監督側に大幅な徳があったようにも見える。

出雲は弱小とも言われていたチームがシード権獲得するまで成長、箱根の方は彼が往路で叩きだした記録の影響もあって、9区で8人一斉繰り上げスタートという前代未聞の悲劇を生み出した。

箱根の一斉繰り上げスタートに関しては、コース変更だけではなく別の部活からの引き抜き禁止までルールに加えるべきと言う意見も飛び出すほどだった。

「この動画は、まさか!?」

 動画を見た神城には覚えがあった。実は、こうした動画には作り物が多いパターンもあると考え、視聴する事は控えていたのだが――。

教習後は数試合を自分の目で観戦、そこから得た情報を積み重ねてサバイバーへ挑んでいる。

その結果は秋月とは違って初戦で1位を獲得と言う常識では考えにくいレースだった。

 この時には強豪ランカー不在、半数近くが超有名アイドルのランキング荒らしと言う理由もあったのだが、彼の運動神経は周囲の予想よりも超越した物だったのだ。

その後は複数のコースで記録ラッシュを樹立し、拡散されたニュースに至る。

彼がショートメールで送られてきたメールの動画URL、それはあるセミプロのパルクールプレイヤーがサバイバーで苦戦しているという内容だった。

この結果はランカーである夕立が勝利を収めるが――。

「セミプロでもこの状況なのか。サバイバーに何か魔物でも存在する証拠――」

 神城は動画で若干気になる部分はありつつも、それを言葉にすることなく別のコースへと移動を始めた。

魔物が潜んでいるのであれば、直接確認するとでも考えているのかもしれない。

「なるほど。あの運動能力も駅伝の選手だったとすれば、納得がいく」

 神城の過去に走った動画をゲーセンに置かれているサテライトモニターで確認していたのは、小野伯爵である。

他のギャラリーも神城の動画を所望していたので、その内の一つを再生していたのだ。伯爵の意匠に関して、指を指すような人物は見られない。

こちらに関しては、周囲のギャラリーも空気を読んでいるのだろうか?

「現役アスリートでも、元力士は見かけない。それ程、サバイバーには持久力が求められる……」

 神城の持久力は異常であり、それに合わせて別の何かがシンクロしている気配を感じる。

しかし、それが瞬発力的なものではないのは動きを見て明らかと考えていた。

「格闘家の様にパワーファイターでも成功例はあるが、上位に入った事はない。それ程、ガジェットをうまく運用する事が勝利の鍵なのか」

 しばらくして、伯爵は姿を消していた。

彼が何処へ向かったのかは不明だが、少なくともアンテナショップへは向かっていない事だけは――。

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