エピソード15《暗躍する第3勢力と――》


 その頃、今回の一件に反応するかのように動きを見せる勢力も存在した。

「別の部隊は倒されたか」

「あの程度の能力ではガーディアンに対抗できない事は織り込み済――」

「我々が打倒すべきは、超有名アイドルに疑念を持つ者を倒す事。それがナイトメアへの忠誠の証でもある」

「我々を邪魔しようと言う勢力は――」

 北千住の商店街近辺にある公園へ集まっている数十人規模の集団、それはパルクールのチームと言う訳ではなく、特定の超有名アイドルグループのファンが集まった物だ。

エリアによっては超有名アイドルグループによって占拠されている場所もある位で、一種のテロ組織とも認識されているのが現状である。

彼らのようなブラックファンを放置した芸能事務所側にも問題があるのかもしれないが、問題視されていたのは『そこ』ではなかった。

「これだけの順位を独占しておけば、CDの宣伝としては問題ないだろう」

「超有名アイドルに金を落としてくれれば、日本は経済大国へ再びのし上がる事が出来る。バブルの再来も夢ではない」

 しかし、彼らの動きは超有名アイドルの宣伝だけではなく、単純に『目立ちたい』や『構って欲しい』と言う部分が表面化している物――いわゆる承認欲求を求める個人に過ぎないだろう。

一連の動を起こす勢力は、純粋なアイドルファン等に嫌われているのが現状であり、彼らのような勢力はアイドル投資家と差別化されている現実もあった。

 こうしたファンも純粋なファンもひとまとめにして超有名アイドルファンとして扱い、ネット上で炎上しているのも事実――と言わざるを得ない。

それだけではなく、彼らの行動はパルクール・ガーディアンや一部の勢力に超有名アイドル排除の口実を与える結果となった。

「貴様、いつの間に!?」

 ある男性ファンがガーディアンとは違う人影を発見する。

デザインはSFモチーフというアーマー、更に強化されたオールレンジメット、背中に装備されたバーニアユニットは市販品とは違ったワンオフ、使用しているガジェットはビームサーベル型。

これだけの装備を見るとガーディアンの夕立を思わせるのだが、目の前にいる彼女の場合は決定的に違う装備を持ち合わせていた。

「悪いけど、コンテンツ正常化の為にも超有名アイドルは不要なのよ!」

 その一言と共に次々と周囲のファンを気絶させていく。

その際に使用された武器は手持ちのビームサーベルではなく、右腕に固定されたビームパイルでアーマーにショックを与えて機能停止させるパイルバンカーと呼ばれる武装だった。

「その武装は、まさか!?」

 別のファンが彼女の正体に気付いたのだが、それを周囲に伝えさせない為に使用した手段は――。

「バカな! 通信が出来ない」

「ジャミングはパルクールでもレギュレーション違反のはず!」

「一体、何が起こっているというのか?」

「奴の装備はパルクール・サバイバーを考慮していないだと!?」

 彼女が使用したのは、何とジャミングシステムである。

パルクールのレース中にはナビゲーションの妨害を目的としたジャミングやシステムへのハッキング、サイバーウイルスの類は原則禁止――。

これらの技術は一歩間違えれば、外部ツールよりも危険性が高い為だった。

 なお、ジャミングシステムは一種のチートや違法ガジェット等とは別であり、ARFPS等では使用可能となっている。

それらを使用したペナルティも一番重い物が適用されているが、このようなケースで失格になった選手は存在しない。

 その一方で、ロケテストや正式競技ではないデモンストレーションではナビシステムの不具合と言う物が何件か報告されており、運営側でも試行錯誤が繰り返されている証拠だろう。

しかし、ジャミングをするにしてもシステムを完全に把握している必要性があり、運営は「システムの完全把握はありえない」の一言で却下している。

これに関しては運営が何かを隠したくて意図的に却下申請をしているとネット上で書き込みがあるのだが、どのような意図で却下したのか経緯は明らかになっていない。

それに加えて、ARガジェットの技術が海外へ流出した際の損害を踏まえ、この辺りは慎重になっている説まであるほどだ。

「悪いけど――これはパルクールではない。普通のARバトルよ」

 ジャミングが起動している中、全ての超有名アイドルファンを気絶させたのは阿賀野菜月(あがの・なつき)だった。

実は、彼女もパルクール・サバイバーのプレイヤーだったのだが、それが判明するのは後の話……。



 午前12時、阿賀野が超有名アイドルファンをせん滅させた件については、速報で流れる事になった。

このニュースが拡散する事で他のアイドルファンをけん制する効果を期待している人物がいる一方で、下手に刺激をすれば他の勢力が過激な行動を取ると懸念する動きもある。

「今回の一件、別の勢力に口実を与える結果にもなっている」

「このままではコンテンツ業界は、文字通りのカオスとなるだろう」

「何としても超有名アイドルとBL勢の過激派を全て沈黙させなくては」

「炎上商法を法律で規制する方が手っ取り早い可能性がある。何故、それを実行しないのか?」

「規制法案ありきのやり方では、単純に魔女狩りと言う認識を広める事になるのは明らかだ」

「正常な経済成長を促すには、規制緩和も必要だが一定の自由化も必要になる」

「しかし、自由と無法地帯は全く違う。超有名アイドルやBL勢が行っている事は無法地帯その物だ」

「暴走したファンだけを締め出しても、第2、第3と出てくる可能性は否定できない」

「どうすれば、全てを解決できるのか…」

 ネット上では、このようなやり取りが展開される位に超有名アイドルファンが抱える問題は拡大している。

アイドルに関する規制法案の改正もまったなしと言う状態は、目の前に来ているのだ。

「やはり、この流れは変えられないのか。ペンデュラムも……」

 都内某所、黒マントを脱いでいる小野伯爵は右の掌に地球上の技術とは思えないようなタブレット端末を置く。

次の瞬間、そこから浮かび上がったのは青の水晶で彫刻されたと思われる振り子である。しかし、これはあくまでもAR映像であり、周囲野人物には見えない物だ。

「アカシックレコードの技術が流血のシナリオに使われた時、それは全次元の消滅を意味している。それだけは……止めなければ」

 小野伯爵の目的、それはアカシックレコードの悪用阻止である。

しかし、ダイナマイトが本来の目的と違う用途で使われた経緯などを踏まえると、彼の目的が達成できるかどうかは不透明である。



 午前12時15分、ある人物が芸能事務所前に姿を見せた。

その人物は全身が鎧姿であり、芸能事務所を訪れる来客としては異常と言えるだろう。

当然だが、周囲を警備していると思われる警備員も駆けつけた。しかし、警備員の方はある人物の連絡を受け、この人物を拘束する事はなかったのである。

【ここでは目立ちすぎる。地下駐車場に迎えを用意する】

 鎧の頭部はヘッドバイザーになっており、そこに表示されたメッセージは地下駐車場へ来るようにと言う物だった。そして、鎧の人物が指定された場所へ向かうと、そこにはある人物がロケバスの前にいたのだ。

この人物は緑の背広を着ているが、顔を確認しようと鎧の人物が彼の方向を向くと、突然のノイズがバイザーに発生して顔を映しだせないという不具合が発生した。

どうやら、バイザーを通して彼の顔を見る事は出来ないようだ。しかし、ここでバイザーを脱ぐと言う事は作戦の失敗を誘発する可能性がある。その為、鎧の人物はバイザーを外す事はなかった。

『貴様は何者だ? お前が、例の迎えか?』

 鎧の人物は、顔が見えない事に関しては言及しない事にした。下手に正体を自分からばらすという自爆をするつもりはない。そして、若干落ち着いた口調で彼に名前を尋ねる。

「私の名はイリーガル。下の名前は営業に影響するので、君には明かさない事にする」

 イリーガルと名乗った人物は鎧の人物を信用していないらしく、本名を明かす気はないらしい。そして、彼が指を鳴らすと別の黒服がコンテナを複数個用意して、その中身を見せた。

中に入っていた物、それはARガジェットである。しかし、正規流通品と箱に関しては変わりなく、一見すると偽物と見分けがつかないかもしれない。しかし、これらは偽ブランド品と言う意味での偽物ではなく、別の……。

『この違法ガジェットを売れ、と言う事か』

「違法とは失礼な事を言う。探せば、ネット上には君よりも信用出来るバイヤーはたくさんいる」

『その言葉、信用するに値しない』

「こちらとしても、鎧で顔を隠すようなやり方をフェアと思うほどお人よしではない」

『顔を見せればガーディアンに顔が割れ、更にはレーヴァテインと呼ばれるハンターに狩られるのは確実。それは、あの事件を知っていれば分かるはずだが』

「レーヴァテインは、こちらでも把握はしている。しかし、彼はパルクールともパルクール・サバイバルトーナメントとも無関係。こちらへ手を出す事は出来んよ」

『過去の事件は、そうした慢心した芸能事務所が次々と標的にされた結果、規制法案が成立寸前になった……違うか?』

「規制法案を作るべきなのは、ドローンに代表されるような兵器転用される可能性のある物。我々アイドルが大量破壊兵器になるような事案は、せいぜいフィクションの世界だけだ」

『そうした発言こそが慢心とは思わないのか?』

「我々アイドルは、政府の後ろ盾も存在する正当なコンテンツだ。夢小説やBL勢を生み出しているコンテンツの方が問題を抱えているのでは……」

『これ以上は平行線になるだろう。用件だけを聞きたい』

 その後も2人の話は10分近く続いたと言う。そして、鎧の人物はイリーガルの指示通りにガジェットバイヤーになるという条件も受け入れる。

『覚えておいてもらおうか。下手にコンテンツ業界を炎上させるような事をすれば、自分の身を滅ぼす事になる』

 鎧の人物、ソロモンは忠告にも似たような言葉を残してイリーガルの用意したロケバスに乗り込み、コンテナを指定エリアへと輸送。しかし、ロケバスに乗り込む時もソロモンが鎧を外す事はなかった。

ソロモンを見送ったイリーガルはその他の勢力を警戒するように別の人物へ指示を出す。

その人物は、超有名アイドルであるサマーフェスティバルのメンバーでもあった。

どのような指示を出したのかは、イリーガルと該当するメンバーしか分からない。この情報には守秘義務が存在したからである。



 午前12時20分、とあるつぶやきが話題となっていた。それは炎上屋という存在に関しての話題なのだが――。

【他の超有名アイドルを潰しているのは、ある漫画作品のファンらしい】

 この発言を見て、反応するユーザーもいれば、いつもの炎上屋と思う人物と反応は2種類ある。その中でも炎上屋と判断した人物がそのつぶやきに関して反撃を開始した。

【超有名アイドルファンのマッチポンプは相変わらずだ。結局、超有名アイドル2強によってコンテンツ業界は支配され、最終的には彼らが政治の世界に進出して、全てを牛耳る世界が現実になる】

 この書き込みは明らかに誰かと特定できる物だったのだが、その誰かを特定する人物はいなかった。

分かっていて書き込まない、事件に巻き込まれる恐れがあって書き込まないという説が多い。

「この書き方は阿賀野ではないか。だとすれば、別の炎上屋が阿賀野を演じているのか、それとも……」

 阿賀野菜月(あがの・なつき)と見せかけた書き込みに見えるのだが、何かが違う。

そう断言したのは上条静菜(かみじょう・しずな)だった。彼女は西新井にあるアンテナショップ近辺からつぶやきを監視している。

【マッチポンプは今に始まった事ではない。超有名アイドルとタニマチによる自作自演のアイドルバブルは、何十年前にも展開されていた】

【超有名アイドルファンは、自分達が行っている事を棚に上げて他のコンテンツが同じ事をするのは非難する】

【結局、国会は超有名アイドルファンが政権を握っていると海外へアピールしているのと同然】

【その状態が続けば、いずれ日本は破滅するのに―これこそが茶番と言える】

【AI事件を含めた超有名アイドルによる不祥事をスルーした結果が、今回の事件だと言うのが分からないのか?】

【悲劇は繰り返すという事か】

 その後のやり取りも見たが、これこそ茶番と言えるような物だった。上条は途中でつぶやきをチェックするのを止めて、ゲーセン内へと入って行った。

「今の音楽業界を牽引できるのは、超有名アイドルではない。音楽ゲームのオリジナル楽曲かもしれない」

 このつぶやきは半分冗談で出てきたような物だが、これが予想外の人物に聞かれた事が後に重大な事件を起きるきっかけになるとは――。

この地点の上条には気づかなかったのである。それに加え、この書き込みはとある存在が参考になっていた事も――。



 午前12時25分、運営もニュースに関して把握し始めた。

炎上屋の存在も気になるのだが、それ以上に別の超有名アイドルグループの動向を気にしているようでもある。

「一体、彼らの狙いは何なのか」

「阿賀野の姿も確認できたという情報がありますが、その目的は不確定だと聞く」

「炎上屋がコンテンツ業界を混乱させ、超有名アイドルによる政権を望んでいる事は確定的に明らかだろう」

「超有名アイドルによるコンテンツ支配は、一部のタニマチによる支配と同じ。そのタニマチも政治家と言う話を聞く」

「つまり、市民の税金で超有名アイドルコンテンツを拡大させていると言うのか?」

「どちらにしても、コンテンツ流通の正常化をする為にも超有名アイドル依存となっている現状を打破しなくてはならない」

「コンテンツ正常化はガーディアンが行っている事と同じ。我々が、それに続く理由はない」

 さまざまな情報を考慮し、会議では今後のガーディアンに関しての議論が行われているのだが――会議は平行線となっている。

「我々が行うべきはコンテンツ流通の正常化。その為には、引き続きガーディアンを警戒する事。それで異議はないでしょう」

 話を統括したのはリーダー格と思われる中村(なかむら)提督と呼ばれる男性で、青をベースとした軍服を着ている。

彼以外にも提督はいるのだが、特に意見を述べようと言う人物はいなかった。

「君の話は理解した。しかし、超有名アイドル勢が武力で全てを制圧するような手段に出れば、地球を消し去る事も造作もないだろう。それ程のチートを持つ勢力に、どう立ち向かうつもりだ?」

 会議に参加している他の提督も中村提督の意見には簡単に従えない。

それ程に超有名アイドルの能力は異常であり、チートであると言って過言ではないのだ。

財力は国家予算に匹敵ともネット上で書かれているような特定芸能事務所だが、それが事実と分かるようなソースはない。

結局、提督たちもネット上のフェイクニュースを仕分ける段階で苦戦していると言えるだろう。

「チートと言っても、所詮は付け焼刃。楽して全てを勝ち取ろうとする物が手にした違法と言える危険物なのは間違いない。それらを全て管理下に置き、封印する事こそが正しい動き―」

「待ってもらおうか。中村提督、君はチート能力が存在するべきではないと言うのか?」

 意見したのは、紫色の制服を着た提督だった。他にも、チートを違法な力と決定するのは時期が早いとする提督もいる。

それ程、チートと言う力は身近に溢れすぎていたのだ。

独占禁止法的な意味でも、不正競争と言う意味でも――チートと言う存在は違法と言う認識が広まりつつある。

「確かに、存在してもよい力はあります。しかし、全てのコンテンツを終焉させて超有名アイドルによる政権支配にチートが悪用される……そのような力は排除するに値するでしょう」

 中村提督は確信している。超有名アイドルの使うチート、それはパルクール・サバイバルトーナメントを崩壊させる危険な物である、と。

そして、違法なチートはコンテンツの面白さを半減させ、滅亡へ導くのは確定的なのは過去の事例でも実証済み。

その後、議論を続けたのだが彼のチート駆逐に関して同意しようという提督は少数であり――提案は不発に終わった。

一方で超有名アイドルファンを初めとした勢力が使用する違法ガジェットの取り締まり強化、サバイバルトーナメントを更に面白くする為のイベントを用意する事などは反対なしで決まったのである。

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