エピソード13《レーヴァテイン》


 2017年1月、突如として公式ホームページを含めて電撃発表された『パルクール・サバイバルトーナメント』だが、順風満帆と言えるようなスタートではなく、最初は手探り状態が続いたのだと言う。

以前から何回か行われたロケテスト、ガジェットのコンパクト化、フィールドを提供してくれる市町村を探す等の苦労が連続した。

「より安全に、よりスタイリッシュに」

 このキャッチコピーが考えられたのも、この辺りと言われている。

それ以前に考えられて、没になっていた物をサルベージしたとも考えられるが、ネット上に裏付ける証拠はない。

 1月中旬から2月上旬辺りにかけて『ある事件』が発生した事で全ては変わったと言われている。

それは、パフォーマンスを目的として危険なアクションを披露する集団が出現した事だ。

命綱なしで高層ビルに上るような分かりやすい物ではなく、空中浮遊に近い物、ビルとビルの間を飛び乗る――更にはビル内におけるランニングなどが該当する。

パルクールとは関係のない高層ビルを登る等の危険行為は過去にも目撃例があったが……それを加速させるような結果になったのは皮肉な話なのか……?

 別件ではあるが「道路の追加舗装が必要になった」や「家の瓦が何枚か割れてしまい、何処に請求すればいいのか――」と言う声も寄せられたと言う。

これに関してはARゲーム自体を認めた足立区に関してもクレームが相次いだらしい。

 極めつけとして【パルクール・サバイバルトーナメントを廃止して、超有名アイドルの博物館を作る署名を集めよう!】というつぶやきが一時期に広まり、これに対して鎮静化を求めるファンもいた位だ。

それでも、一部で前代未聞的な事件が起きていたのだが――そちらを触れるような記述は存在しない。

その記述は黒歴史と言う事になったのかどうかは不明である。

 しかし、その事件を知る人物はARゲームが大きな事件になる事も知っていた。

このままでは社会問題になる事も避けられないと判断した運営は、遂に奥の手とも言うべき物を発表する事にしたのである。

 2017年2月、当初の計画を前倒しにする形でランニングガジェットの正式版を発表、今後はランニングガジェットを必須にするという発表を行った。

「これによって、危険なアクロバットパフォーマンスが減る事を祈る」

 これが根本的な解決策になるかどうかは疑問の声が上がった。

ランニングガジェットの安全性は非常に高く、大事故が起こる可能性は減るだろう。

それでも事故は起こる可能性は否定できないし、怪我人が劇的に減るとも考えにくい。

実際、過去にも歩きスマホやスマホをしながらの運転で事故が起こった事例は存在し、これらを例に挙げるまとめサイトもあった位だが――。

こうしたまとめサイトの一例はアフィリエイト利益や超有名アイドルの株を上げる為の工作と言えるかもしれないが、事故が起こると言う部分は注目されている。

 結局、データだけでは分からない事も多いと断言するネット住民も多いのは事実だった。

ネット住民が求めているのは『本当に事故は起きないのか?』という裏付け証拠である。それを見せれば、不安はおさまるだろう。

【どう考えてもSFで見かけるようなパワードスーツじゃないのか?】

【それに加えてブースターユニットも必須となると、パルクールには不向きになりそうだ】

【スポーツ番組でもパルクールに近いようなアクションが求められるような競技もある。それを踏まえても、これはおかしい】

 パワードスーツに関しては賛否両論があった。

アクションには足かせになると言う意見が大半で、賛成派は非常に少ない。デザインがかっこいいと言う少数派もいるが、この辺りはスルーされる宿命である。

「これではパルクールではなく、特撮物アトラクションだ」

 パルクールを日本に広めようと考えている人物も、こうした意見を残す位だ。

しかし、実際のニュースでは反対派よりも『住民の意見を取り入れてくれた』や『スーツのデザインがかっこいい』といった意見を拾っており、反対派の意見は意図的に消されたとまで。

そんな中で、ランニングガジェットのトライアルを撮影した動画が流出と言う事件発覚した。2月上旬の事である。

【これが、ランニングガジェットなのか?】

【あれだけの動きが出来る物とは思わなかった】

【反対派の意見が嘘みたいに動く。それに加えて、環境にも配慮された太陽光システムの装備も大きい】

 動画に対する意見は反対していた勢力が、賛成派に寝返るような手のひら返しが行われ、それが逆に注目度を上げる結果となった。

こうした意見が圧倒的となり、ランニングガジェットも最終的には受け入れられる流れとなる。

アンテナショップでの予約開始のニュースでは長蛇の列が報道番組に取り上げられ、それも予約数増加に貢献した。

その一方で一連の動きをマッチポンプだと考える勢力も出始め、それに加えて炎上狙いの超有名アイドルのファンも騒動に参戦、パルクール・サバイバルトーナメントを巡る争いは激化していく流れとなった。

ランニングガジェットの運用を早期に行うべきという流れになったのは、やはり2月中旬に起こった無人ガジェットの暴走事件かもしれない。

こちらに関してはアイドルグループのCD宣伝と言う形になっているのだが、真相はいまだに調査中だ。



 2017年3月、プレイヤーに混ざって超有名アイドルファンが炎上目的で違法ガジェットを使用、ランキングを荒らしていくようになった。こうした動きを未然に防げたはずなのでは―と運営に批判も集まる一方で、こうした動きを察知している組織もあった。

「これを運営が察知するのは不可能だろう」

「超有名アイドル勢は、自分達のコンテンツが生き残れば他のコンテンツは見向きもしない。日本を完全に私物化し、最終的には地球も支配するのは時間の問題」

「我々が誰もやらないような事をすればいい」

 一部のパルクール・サバイバルトーナメント参加者が運営へ相談を持ちかけ、そこからパルクール・ガーディアンが誕生したとも言われている。しかし、この真相に関しては運営からの報告もない以上、ネット上の噂レベルで片づけられてしまう。

その為、ネット上では最有力説を組み合わせた結果、『チートを塗り替えるような力を持った上級者プレイヤー、通称ランカーによるランキング制圧』という説が浮上する。

それが独り歩きをした結果が今日のパルクール・ガーディアン、夕立やランスロットを初めとしたネームドランカーが生まれる土台となったのだ。

しかし、全てのプレイヤーがランカーの存在を認めている訳ではない。

純粋にゲームを楽しみたいエンジョイ勢等にはランカーの存在は敵同然であり、同じARゲーム内に派閥が出来ているような状態だった。

それでもライセンス取得に関しては苦肉の策であり、ゲームをプレイするだけなのに免許が必要と言うのも矛盾する。

それには、過去に起こったドローン問題を含め……様々な事象が干渉し、この世界を変えたというトンデモ説が浮上する程であるが、真相は謎のまま。

「どのゲームであってもチートは問題視され、オンラインゲームでは下手をすれば運営終了になりかねない」

 西新井の演習フィールド、それをアンテナショップのモニターでチェックしている人物、それは私服姿の花江提督。今は、花江零(はなえ・れい)と名乗っていた。

提督時代の服装とは異なり、しっかりとした服装だがラフなチョイスをしている。神型は黒のショートヘア、目が隠れないような前髪が特徴だろうか。

「日本をオンラインゲームに例えると、チートに該当するのは超有名アイドルなのか……あるいは別の第三勢力か」

 花江が懸念する物、それは外部ツールの様なチートだけではなく、超有名アイドルの様なフィールドを荒らすだけ荒らしていくような存在でもある。



 4月になって色々なニュースも浮上するのだが、そのソースが偽情報を平気で掲載するような新聞社と言う事もあり、ARゲームに関してはさまざまな場所で混乱が起こる事になる。

これに関しても超有名アイドルの芸能事務所による裏工作と言われているが、真相不明。

果たして、この世界も芸能事務所が裏でコンテンツ潰し等を行っているのだろうか――真相の究明が待たれる。

しかし、この件に関しては本編とは無関係なのでスルーしても問題はないだろう的なメタ発言もネットで拡散していた。

アカシックレコードに関しても単語だけがネット上で拡散し、さまざまなまとめサイトで使われている事も――証拠の一つなのかもしれない。

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