マンデルブロ集合が繋ぐ先生との思い出
ある人物の思い出のシーンの一幕です。
ショパンの別れの曲を聴きながら、
音声無しの字幕でお楽しみください。
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「あ、すんません!」
いえ……どうぞ。
丘の上にある図書館。
図書館の本棚には当然たくさん本がならぶ。
しかし、その図書館の片隅には誰にも見向きもされない本棚がある。
数学専門書籍コーナーと書かれた本棚。
人気のない本棚に並ぶ本に伸ばされた2つの手は偶然にも一冊の本によって重なり合う。
『マンデルブロ集合の美しい世界』
ショパンの『別れの曲』が館内放送で流れていたちょうどそのときである。
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私は今でもショパンの別れの曲を聴きながら
その本を読み返すことがある。
そして、谷先生と出会ったときのことを思い出すのだ。
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私は図書館から帰ろうとロビーから外に出る。
『ザーーー』
他の人達が傘をさし入り口から次々と帰っていく中、
私はハンドバッグからおもむろにスマホを取り出すと、電車の乗り換え案内サイトと睨めっこをはじめる。
「なあ」
?
「あんたや、あんた」
!!?
私は目をぱちくりさせながらも
とっさに自分を指差す。
「そう、あんたや」
私は口を大きく開け目を見開いたまま。
顔を二回上下に振る。
「あんたもしかして……、
傘無いんか?」
私は顔を赤くしてゆっくりとうつむく。
『ん』
そうやって黙って私に傘が差し出された。
!?
私は顔を激しく二回横に降る。
そして一回だけ丁寧にお辞儀をする。
「うちは体丈夫や。
雨に濡れたくらいじゃうち風邪ひかんで。
それにな、これコンビニ傘やしな♪」
私はさらに首を二回激しく振る。
「あんた駅まで行きたいんやろ?」
!!?
私は目を見開くと、自分の全身を見渡す。
「すまん、
覗くつもりは無かったんやけどな。
あんたが乗り換え案内のページを確認してるとこ、うち見てしもうたんや」
私は見開いたままの目で首をゆっくりと一回上下に動かし合点のジェッスチャーをする。
「で、どうするけ?
あんたがうちの傘どうしても使いたくないっちゅうならうちが駅までおくるけど……」
私は下を向くと、顔を真っ赤にさせ
しばらく押し黙る。
「あんた、うちと一緒に帰るか?」
迷っていた私はその勢いに押され、
そして上目遣いにゆっくりと首を縦に振る。
図書館から駅へと向かう道の途中、
景色の綺麗な公園があった。
芸術的な軌跡を描く噴水や、
青紫のアジサイやスイレン、ハナショウブなど季節を感じさせる植物の間を私達はゆっくりと歩む。
「うちは恵美。
生徒達からは谷先生って呼ばれてる。
あんた名前は?」
••••••
『ぽつり、ぽつり』
「雨、止んできたな♪」
ん!!
「なんや、急に空を指差したりして、
どうしたんや!?」
き、綺麗……。
「そうやな」
私は谷先生と二人で相合い傘をしながら雨上がりの公園の中を歩いていく。
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【登場人物】
•電話戦士(パシリ)
•恵美(谷先生)
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