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「ねえ、先生?
谷先生、大丈夫ですか?」
「あ、真智か。
それに四葉、宙、お前らも」
「ワタスを忘れちゃ困りまるっスよ、先輩!」
「電話戦士(パシリ)」
「えみたん、大丈夫だった?」
「ゲス、お前まで!」
「谷先生がなかなか目を覚まさないから、
みんな心配してたんですよ!」
「ごめんな、みんな」
「もう、いいですよ。
ところで、谷先生は目が覚める前何か覚えていることありますか?」
「覚えていることか。
どうしてそんなこと聞くんや?」
「谷先生の先生、えーと丘先生でしたっけ?
その丘先生が別れ際にヒントを出すって言っていましたよね?
でも、私達3人には結局わからなかったんです。
だから、谷先生の目が覚めたら聞いてみようかなあって」
「なんや、そういうことか。
うちは何かへんな夢をみた」
「ヘンな夢ですか!?
どんな夢をみたんですか!?」
「それがな、本当にヘンな夢なんや。
うちは小さな藁葺きの掘っ建て小屋で目覚めてな、周りは何も無い田舎や。
近くの林道を歩いていくと眼下に川が流れていて、その川の向こうにうちの研究室の天井が映ってたんや。
ヘンな夢やろ?」
「それ、本当に不思議な夢ですね?
でも、それじゃあ、丘先生でしたっけ?
その先生が何をヒントとして伝えたかったのか
さっぱりわかりませんね」
「あの〜、谷先生〜?」
「どうした、四葉?」
「谷先生が夢に出て来たっていう景色をインターネットで調べてみたんですが〜、
似たような現実のスポットなら……」
「なんだと!?」
「え、四葉ちゃん見せて!!」
うちと真智。2人はとっさに四葉が検索していた研究室のノートパソコンに顔を近づけた。
「デンダラ野?」
「え〜と〜、
要約するとね〜、江戸時代のある東北地方の田舎では〜飢饉の時60歳以上の老人を追いやった場所らしいよ〜。
川までの手前をこの世、そして川を挟んで林がある向こう側はあの世として扱ったみたいだね〜。
姥捨山っていう有名なお話があるよね〜?
そこは、その昔話の起源にも関係しているかもしれないんだって〜」
「なんや、その川はまるで三途の河やな。
そして、老人達が追いやられたのは賽の河原か?」
「確かに、そう考えることもできますね〜」
「へー!
そうなんだ。
何か、当時、その場所に追いやられた老人達は可哀想だね」
「うーん〜、
真智ちゃんそれがね〜、実際にはそんな悲しいイメージでも無かったらしいよ〜」
「え?
どういうこと?」
「老人達は昼間は川を越え村に戻り畑を手伝ったりして、夜になるとまた林のあるあの世に戻ったりの行き来をしていたらしいの〜」
「ちょっと、それじゃ、実際はあの世として区別している意味無いじゃん!!」
「う〜ん。
真智の言う通りやろな。
実際はあの世と区別……、
おや?
丘先生がうちに言いたかったことって、
もしかしたら……」
「谷先生?
さっきから、一人で何ぶつぶつ言っているんですか?」
「うちにはわかった気がする!」
「え!?
何かわかったんですか?」
「真智が怖い夢をみておねしょした理由が!」
「もー!
谷先生、からかわないでくださいよー!」
「クスクス!」
「四葉ちゃんまで!
笑わないでよ〜!」
「フンッ、フン、フン、フン」
「宙ー!
おのれは鼻毛と鼻息を出しながら笑うなー!」
"丘先生。
あなたが伝えたかったこと、うちすこしだけわかった気がします"
真智・四葉・宙。
うちの今の知識とボキャブラリーではまだこの言葉を論理的に上手く説明してやれん。
でもな、うちはいつかお前たちにこの言葉の意味を論理的に理解した上で伝えたる。
せやからな、今は以下のたった一つだけ覚えとき。
"脳はな、心で向き合うと観たいもんが視えるよう出来とるんや! "
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遥か太古の時代から人が苦楽を伴い学んできた確かなことがある。
それは人も自然の一部だということ。
すべての人命、全ての心はその人それぞれの中に存在している訳ではなく宇宙や自然の循環の中で成り立っている。
宇宙や大自然から人類を切り離して特別視する価値観は近代に入ってから生まれたと考えられているが、太古のご先祖様達は死生観についてどのように考えていたのだろうか?
今となってははっきりした答えはわからない。
しかし、古代の暮らしやシャーマニズムに関する記述などから想像することはできる。
そして、実際に調べてみると生物学とある点において興味深い共通点がみえてくるのだ。
昔の人達は死をあえて永遠の別れという過去形で扱わないようにしていたのかもしれない。
村という集団の規模で家族や共同体の意識を持ち、遺された家族をフォローして助け合い支えあっていたのかもしれない。
クローンでも冷凍睡眠でもなく、
生物学的により広い種の視点で生と死を俯瞰した場合、
集団として子を生み育てるアリやハダカデバネズミの生態の様に、
人間は言葉を発明し文明を発展させる中で"社会性の遺伝子"を生み出した。
人間が生み出したこの社会性の遺伝子には、
死と共にいつかは消えて失われるはずの個々人の意識を言語化し、
記録として後世へと確かに受け継いでいく力がある。
社会性の遺伝子が指し示すもの。
それは例えば、歴史や自然科学などとは違い、
事実として学んだからといって必ずしも他の何かに役立つとは限らない"応用できない知識"である。
しかし、
ネット社会の発展から生まれる価値観の多様化や、戦後から代々疑われずに続いてきた商売の仕組みからの転換を迫られる現代社会だからこそその知識は重要なのだ。
ビッグデータを扱う世界企業の巨大情報ビジネスの催眠術にかかり、メディアが報道する偏ったニュースから狙い通りに一喜一憂する私達。
自分の意志で選択し、行動しているはずなのに、妙な
生きる意味がわからず自信が持てない。
プロパガンダに汚染され、なんとなく息苦しい井戸の中の蛙のような私達。
そんな現代版の井戸の中から出る為には、
かけられた催眠術を看破する為には、
応用できない知識に対してある特別な行動が必要だ。
応用できない知識。
それは宗教では無い。
人類が言葉を発明した遥か太古の昔から当たり前に存在してきた"思想"である。
そしてまた、ある特別な行動とは、
"自分の
fin
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【登場人物】
•谷先生
•
•四葉
•
•
•電話戦士(パシリ)
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