【過去】母親の決めた名前
「母さん、大丈夫ー!?」
「二人とも大げさね、ウフフ。
私は大丈夫。
あなた……、それに真智まで。
平日なのに大丈夫?」
「だって、産気づいて救急車で運ばれたって言うからさ!」
「あなた、落ち着いて!」
「で、いつ頃になりそうなのか?」
「お医者さんが言うにはもうすぐだって」
「そうかー!
楽しみだなー!」
「ねえ、お母さん?
どっちかわかった?
ち◯こは付いてるのー?」
「コラ真智!」
『ボコ!』
「お父さん、痛った〜!
そんな激しくあたしの頭にゲンコツしないでよ」
「女の子が下品な言い方するもんじゃない!
男の子か女の子かって聞きなさい!」
「へぇーい」
「ウフフ、フフフ♪」
「お母さん、笑い過ぎだよー!!」
「ごめんなさいね、ウフフ」
「ところで、男の子?女の子?
「女の子よ」
「女の子ー!?
ヤッター!」
「コラコラ、真智!
病室で騒ぐな!」
「まあまあ、あなた」
「お母さん、助けて〜♪」
「ねえ、真智?
あなたは妹からお姉ちゃんって言われるようになるのよ。
今のあなたで大丈夫かしら?」
「失礼なー!
あたしは今でも充分完璧だから大丈夫だよー!」
「お前が完璧なのは役に立たん雑学やイタズラだけだろ?」
「お父さんまで……ちどい」
「ねえ、ところであなた?」
両目から振り子の涙を流しガッチンコさせている真智をよそに、母親は父親に訊ねた。
「ん、どうした?」
「生まれてくる子の名前、家族でいくつか考えてたわよね?」
「ああ、そうだったな」
「私、いろいろ考えたけど、可織がいいと思う」
「そう言えば言ってたな。
お前には昔、かおり(加織)と言う名前の親友がいたって」
「うん。その子ね、中学生の時に仲良くなった不思議な女の子だったの。
どこに住んでるのかどこの学校に行ってるのかわからないの。
でも、あたしはそのときそんなことはどうでもよかった。
幼馴染同士の私とあなたが、私の両親の引っ越しから離れ離れになりそうになったとき、私はあなたに手紙だけを残して去ろうとしてたの。
だけどね、その加織って子は私があなたには内緒にしておいてって頼んでいたのに、引っ越し当日になって約束破って……」
「ああ、俺も覚えている。
あいつ加織っていう名前だったのか。
確かその娘は俺にお前が今日引っ越しすることを伝えてきた。
俺は、どうして俺が言われる必要があるのか理由がわからなかったからその娘に聞いたんだ。
そうしたらしぶしぶ教えてくれたよ。
お前が俺に会いに来て欲しいと思ってるからだって。
俺はその娘の説明に半信半疑だったが、
俺もお前を好きだったし、とにかく急いでチャリンコを漕いでその娘に聞いた駅に向かったよ」
「引っ越し屋さんの搬出作業もようやく終わった頃だったかしら?
私がパパの車でさあ出ようとしていた時に加織は現れたわ。
そして言われたわ。
[あなた、それで本当にいいの?]
私は強がったけど、加織はそれは嘘の一点張り。
だけど、加織のおかげで私は気が付いたわ。
私はあなたを失いたく無いって。
[あいつにはあなたが駅にいるはずって言ってあるわ!
さあ、行ってあげなさい!]
「う、うん!
ありがとう、加織」
「うっそー!」
両親の回想を破ったのは真智の一言だった。
「ビックリするでしょ?
加織ちゃんは私とお父さんが結婚するキッカケを作ってくれたのよ」
もうすぐ自分に妹が出来る。
真智は今か今かと妹が出来る日を心待ちにしていた。
人形に可織という名前をつけておままごとをしたりたもした。
ある日、
真智の母親は病院に許可をもらい真智と二人で病院の近くを散歩していた。
「ねえ、みて真智?」
「ん?
どこ〜?」
「あのお花畑、綺麗ね〜♪」
・・・
「ねえ、真智?」
・・・
「真智、聞いてる?」
「お母さん、あたしこっちだよ!」
「え?
真智、だめよ! 危ないわ!」
まだ幼い真智の目の先には、
母親にとって見覚えのある一人の少女が横断歩道の真ん中に立っていた。
「あの人、横断歩道の真ん中に突然現れたよ!?」
「馬鹿!
真智、危ないわ!
横断歩道から戻りなさい!」
横断歩道の歩行者信号は青の点滅から赤に変わった。
慌てて助けに走った真智の襟首の裾を掴むと、
母親は渾身の力で自分の方に引き戻した。
「あ! 横断歩道の女の人、また消えた!
痛い痛い!」
『ドーン!』
「うぐぐぐぐ」
母親は地面にうずくまりお腹を抑え苦しそうにしている。
『ねえ、ちょっと!?
お母さん、大丈夫!!?』
———————————————————————
【登場人物】
•
•
•加織
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