臨死体験の研究

➖アメリカ

ミツガソ大学 医学部 室長 自宅➖


谷先生は月水からの連絡の後すぐに渡米し、

月水が現在参加している臨死体験研究の権威ミツガソ大学医学部の室長に会いに行った。


ミツガソ大学医学部室長

「ハロー! エミ!

ニホンカラトオイトコロハルバルアリガトウ。


「日本語で挨拶ありがとうごさいます。

博士は日本語話されるんですね?」


「アハハ!

スコシダケダケドネ。

トコロデ、ボクハキョウコノアトガッカイニイカナイトイケナクテアマリジカンガナインダ。

モウシワケナインダケド、サッソクダケド……、

ミスターゲスイ? イイカナ?」


「え? ボクですか?

はい!博士」


室長の家の敷地には綺麗な庭園があった。

仕事の話をするのに立ち話じゃ悪いとうちに配慮してくれたのだろうか?

谷先生はそのまま庭園へと案内された。


庭園のちょうど真ん中には、景色を眺めながらお茶をするのに丁度いいサイズの吹き抜けの小屋があった。

室長・月水・うち のうちら三人が小屋の中のテーブルに座ると、すぐにメイド服を着たそこそこ高齢の女性が駆けつけてきて、飲み物の注文を聞いてきた。

室長の家には長く働いてきたこの高齢のベテランメイドと、もう一人見習いの10代の若い女性メイドがいるらしい。

しかしどうやら今日はたまたま若い女性メイドの方は休みらしい。

ベテランメイドが飲み物を用意してこちらに戻って来るまでの間、月水はそのことを谷先生と室長に残念そうに漏らしていた。


メイドが三人分の飲み物を全て配り終えると、

室長はさっそく研究の話をうちに切り出してきた。

月水は英語を話せない谷先生と室長の間に入って、二人の通訳を始める。


「ボク達の医学部では、9匹のマウスを仮死状態にして専用に開発した心電図マトリクスを使って心臓と脳の働きを観察したんです。

すると、心臓が止まると脳が目覚めている時よりも活発に機能していることが明らかになったんです。しかも30秒間もです。

谷先生はガンマ振動と呼ぶ高周波の脳波はご存知でしょうか?」


「はい、一応……」


「わかりました。

実はこのガンマ振動が大きく表れて同時に多くの神経伝達物質が解き放たれていくことが発見できたんです。

このことから、脳は超覚醒状態であろうことが容易に推測できます 。

これはとても興味深いことです」


「その実験は臨死体験を研究する上で本当に興味深いですね」


「谷先生にそう言って頂けて光栄です。

ボクは、実は谷先生の書かれた論文の内容も参考にさせて頂きました。

そしてあの実験の後で更にもう一実験してみたのですが、ネズミの心臓が止まる瞬間、脳がシグナルを送って心臓を止めようとし、神経伝達物質を放出することも新しくわかったんです。

しかも逆にシグナルをブロックすれば、心停止の最終段階となる心室細動を遅らせることが可能になるかもしれないんですよ!

ただ……、

一つだけ未解決の難問がありまして、

是非、谷先生の知恵をお借りしたくて今回声をかけさせていただきました」


「未解決の難問ですか?

私(谷先生)に力になれることであれば助かるのですが?」


「現代医学では心臓が止まってから30秒後には脳は活動を停止するとされていますよね?

しかし、臨死体験を体験された人の供述では短く見積もっても3分以上は心臓が完全に止まった後もはっきりと意識があり不思議な体験をしたと語る人が多いのです。

谷先生はこの問題についてはどう思われますか?」


「なるほど!

時間の問題ですね。

私は、医学的な30秒という実際の制限時間と臨死体験者が語る3分以上のはっきりした意識の間の食い違いは体感時間としてはっきりと説明ができると思います。

室長は、同じ哺乳類であるネズミと象の体感時間が違うであろうことはご存知ですか?」


「聞いたことがあります。体の大きな象の方が寿命は長いが心拍数が遅く、体の小さなネズミの方が寿命は短いが心拍数が速い。

しかし、象もネズミも一生の間に感じる体感時間の長さは同じかもしれない。

心拍数つまり鼓動の回数が哺乳類の体感時間に関係しているという研究ですよね?」


「その通りです。

※そして、私はネズミを研究に使い、幻覚や睡眠に関わる医療麻薬や麻酔と神経伝達物質の関係を調べる中で、体感時間を自由に調節出来る神経伝達物質を突き止めました。

私なりにネズミから人間に当てはめて臨死体験の科学的プロセスを説明しますと、心臓が止まり右側頭頂接合部が強く刺激されると、中脳領域の青斑核からノルアドレナリンやケタミン等と共にその神経伝達物が大量に放出されるのです。

そして、象とネズミのネズミの体感時間の違いの様に、実際にはほんのわずかの短い時間が、本人にとっては非常に長い時間に感じることを突き止めたんです」


「なるほど!

それは興味深いです!

その体感時間は実際には何倍くらいに感じられるのですか?」


「私は体感時間を狂わせる神経伝達物質の実験はネズミでしか行ってはいませんので、これはそれを人間に当てはめた時のあくまで推測なのですが、個体差の違いで1000から2000倍位長く感じられるかもしれません」


「ワオー!

シンジラレマセン‼︎

センバイイジョウモデスカ?」


———————————————————————

※ミツガソ大学(架空)

アメリカ西部にある大学。

医学部では臨死体験の研究で世界をリードしている。


※実際の脳医学研究の内容にフィクションを混ぜつつ書いています。

SFフィクション作品の本作の脚本作りの都合上、止むを得ず実際の研究とは異なる部分も含まれていますが、どうかご理解頂きますようお願いいたします。———————————————————————

【登場人物】

•谷先生(恵美)

•ゲス(月水)

•ミツガソ大学 医学部 室長

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