プラナリア
「谷先生?
さっきから気になってたんですが、
左手にスマホ持ったままですが何に使うんですか?」
「おぉ~、真智!
お前いいことに気がついたな!
これはな、真智達に一週間前の実験の動画をみせる為なんや。
ほな、再生」
動画の中では、谷先生がその生き物をビーカーから出しなにやら準備をはじめた。
そして次の瞬間!
谷先生はカッターナイフで……。
『グサッ』
「え・・・?」
真智は意味がわからなかった。
「ちょっと谷先生?
あれ、生き物虐待ですよ!
先生が頭部を切断したりしたら
死んじゃうじゃないですかぁ!
プロペシアに謝って下さい」
「真智、プラナリアな。
うちとてさすがに全国のプロペシア愛用者には謝れんぞ」
「もう!
プロペシアでもフィンペシアでも
どっちでもいいですよー!」
「真智?」
「はい?」
真智は谷先生に突然そう言われ、
素直に谷先生が指さすプロペシアのほうを向いた。
へ・・・?
『ええぇぇー!!!!!!』
真智の目の前のそいつは、
一週間前確かに谷先生に真っ二つにされた
はずだったもの。
それなのに死ぬどころか、
切られた尾の切口側にも頭が生えていて、
一匹増えてた・・・。
「これはうちが一週間前に切断しておいたほうなんやけどな。
うちも最初は驚いたんや。
真智が驚くのも無理はない」
「ねえ真智ちゃん~?
驚いた顔郵便ポストみたいになってるよ~!
そんなに驚いてどうしたの~?」
「四葉ちゃん、これ見てよ!」
あたしは四葉ちゃんにそれを指さしたの。
「どれ~?」
「あたいもみたい! なあ真智?
真智が指さすほうにはさっきのプラマニアしかおらんがどこをみたらいいんだ?」
「そのプロペシアでいいよ!
ほら、頭のとこ!」
「お、おぉぉぉ一!!」
「ね、宙?凄いでしょ?
四葉ちゃんもみた?」
「うん~、みたよ~!
私知ってたよ~」
「知ってたー!?」
その事実には谷先生までびっくりよ。
「四葉ちゃん?
どうして知ってるわけー?」
「あたしは食料の調達のために
よく川辺に行くんだけどね~、
川の石の下によくいるからたまに捕って食べてるよ~。
たまに取り逃して胴が真っ二つになったりするけど、次に捕りに行った時は元気になってたりするの~。
これ、少し臭いけどコリコリしておいしいんだよ~♪」
「んなアホなー!!」
あたしは四葉ちゃんの発言にびっくり仰天!
「己はメソポタミア文明から出直せ~い!」
うっしゃー!谷先生、ナイスツッコミww
「ところで谷先生?」
「どうした、真智?」
「どうして、頭が生えてきたんですかね?」
「うちも専門分野やないから詳しいことは知らんけどな、
コイツらには新陳代謝を活性化する全能性幹細胞っちゅうのがあるらしいんや。
それでな、人間には不可能な脳についても新陳代謝して再生することができるらしいんや」
「それ、凄いですね!」
「驚くのはまだ早いで!」
「え?」
あたしは先生の話しの続きに興味津々よ。
「実はな、このプラナリアの脳な?
切断前の脳と切断後に出来た脳。
ある実験からわかったらしいんやけどな、
両方とも意識を共有しているらしいんや」
「え?」
『ええぇぇー!!!』
先生!ちょっと意味わからないんですが、
それいったいどういうこと何ですか?」
「そう、そこや!
うちはその理由を研究中なんや」
「それについて谷先生、
何かわかったんですか?」
「実験ではまだ何も収穫は無しや。
でもな、うちはある物理学の仮説に関係があると思っているんや」
「なんですか、その仮説って?」
「説明が少し長くなるけどいいか?」
「はい!」
「じゃあ話すで。
科学には脳が※量子コンピューターだとする仮説があるんや。
脳細胞の中には
そして更にその中にはチューブリンって言うたんぱく質があるんや。
そしてな、そのたんぱく質のあやふやな状態に対して※波動関数の収束っちゅうのが連続して起こるんや。
これがうちらが感じている意識なんや」
「えっ、そうだったんですか?」
「続き話すで。
しかし、普通は本人の意識を保持したその本人の脳自体が無いと、その意識は感じることは出来ないのは真智もわかるな?」
「はい、ま~なんとなく……」
「ホントわかってるか~?
まあええ。続き話すで。
新しく生まれた脳には元々の脳の意識を感じる事は出来ないはずなのに、
感じることが出来るんや!」
「え? どうしてですか?」
「それはな、さっきの不思議なたんぱく質で起こっている波動関数の収束が原因なんや」
「谷先生?
波動関数の収束って何ですか?」
「真智は『シュレディンガーの猫』の話はわかるか?」
「SFアニメで観たことあります!
確か毒ガスの箱に入れられた可哀想な猫の話ですよね?」
「そうや。
つまり、結果を確認する前には半分生きてて半分死んでる猫が、
確認した瞬間に生きてるか死んでるかのどっちかに決まるって話や。
その確認するという行為で状態がはっきり決まることを波動関数の収束って言うんや」
「谷先生すみません~。
話が難し過ぎてさっぱりです」
「悪い悪い。
つまりうちが言いたいんは、
確認して猫の状態がはっきり決まったようにみえるんは
あくまで確認した奴の四次元(時空)だけなんや。
高い次元的に考えれば猫の状態がはっきり決まって無い状態も同時に存在してるんや」
「でも、それがどうして……?」
「最後まで聞けや!」
「は、はい」
谷先生は普段は穏やかだけど、物理や数学の話になるとこんな風にスイッチ入っちゃうんだよね、トホホ。
「猫の状態はな、量子※もつれという状態で
うちらが認識できん空間ともつながっているんや。
ツイスター空間のスピノールの回転うんぬんは説明はぶくで。
それでさっきのプラナリアの話に戻すな。
プラナリアの脳の意識が保持される理由はな、
脳での意識一瞬一瞬が、
量子もつれというへその緒で、
うちらには認識できん空間と、
繋がっているからなんや」
「ちょっと谷先生?」
「なんや真智?」
「あたしさっきの谷先生が説明、
内容が難し過ぎてさっぱりなんですが、
一つだけ気になったことがあるんですが……」
「なんや、気になったことって?」
「あたし達の意識がへその緒で認識出来ない別の空間と繋がってるなら、
あたし達が死んだら、この意識はどこに行くんですか?」
———————————————————————
【登場人物】
•
•四葉
•
•谷先生
———————————————————————※量子とは
原子や分子のように物質を形づくる素材にあたる小さなものの単位をさす。
※波動関数とは
一般には波の振幅を表わす関数をいうが,狭義には量子力学において確率振幅を表わす関数 Ψ をさす。
※量子もつれとは
二つ以上の離れた粒子の間に見られる量子力学特有の相関関係で、
二つの粒子が「波動関数」でもつれた状態にある時(量子もつれのペア)、二つの粒子を離しても、その「もつれ」がそのまま続く。粒子の状態は観測を行うまでは分からないが、一方の粒子を観測をすると、もう一方の粒子の状態も影響を受けて、観測をしなくともその状態が分かる。この影響は光より先に瞬時に伝わるという特徴がある。
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