グラスに満ちる夜の雨

カゲトモ

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「今日はそっちのスタイルなんですね」

 長い黒髪のえらい美人が来店した。背負っているオーラが黒いのは見た目が違っても変わらないけれど。

「ミクリさん、今日はどこかへお出掛けされていたんですか?」

「えぇ、ちょっとした用事で。仕方なくこんな恰好を」

 そう言ってワンピースの胸元に触れた。淡い色の繊細なレースのワンピースは、シンプルなデザインなのにとても上品に映る。ただでさえミクリさんは美人だから、儚げなどこかのご令嬢に見えない事もない。本当は魔女なんだけど。いつもは黒づくめのダボダボした服着ているし、顔だってちゃんと見えないくらい猫背なのに。

「こういう服を着ている時にいつもの姿勢だとさすがに格好悪いですからね。滅多に着ませんから、こういう時くらい背筋は伸ばしますよ。疲れるから嫌なんですけど」

 ミクリさんはそう言って心底嫌そうな顔をした。そんなに嫌そうな顔しなくても。ミクリさんを見る男性の視線に気づかないの?

「弟が今度結婚するとかで」

 するとかで?

「相手のご家族との顔合わせだったんです」

「それはそれは」

「あぁいう場は得意じゃないし、二重で疲れました」

「お疲れ様でございます」

 で、その相手は“良かった”んですか? とはさすがにちょっと聞きづらい。人となりが良い悪いじゃなくて、後ろの人が良いと言うか何と言うか。ミクリさんは視るタイプの占い師さんだから。

「まぁ悪いものは憑いていませんでしたから安心しましたよ」

「それは良かったですね」

「憑いていたとしても祓いましたけどね」

 あ、うん。そうだよね。ミクリさんなら安心だぁ。もし俺に何か悪いのが憑いていたら祓ってね。どうか俺が何も知らないうちに。

「あ、花菱さん」

「え。な、なんですか」

 ちょ、真顔やめて。へんな無言やめて。なんか言って。

「・・・とりあえず、何か飲ませてください」

「あ、かしこまりました。えっと、何にしましょうか」

「オススメで」

 いや、オーダーよりも先に何を言いかけたのか教えて。気になって仕方ないじゃんっ!

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