第33話 闘いの開幕

 あたしは朝早く始発が動き出す頃に誰にも見つからないようにフォビアさんの家から出た。

 そして家に向かった。

 家に着くとあたしは真っ直ぐ事務所に行きドアを開ける。誰もいない伽藍とした部屋。戦うんだ、あたしの手で。あたしは麝侯の机に近寄ると引き出しを開ける。そこには銀色に輝く銃が仕舞われていたはずなのに無かった。

「ない。なんで」

「行くのですか」

「マスター」

 突然の声に振り返るとマスターがいつの間にか立っていた。

「止めませんよ。若者が自らの手で人生を掴もうというのです。老兵はただ手助けをするのみです」

 マスターは掌にすっぽり収まりそうな小型の銃をあたしに手渡してきた。

 ずっしりと手が少し沈んだ。

「これは?」

「銃の整備も私の役目なのです。対魔術用の銀の銃弾が3発入っています。普通の弾よりは魔術師に有効でしょう」

「銀って本当に魔に効果あるんだ」

「ええ、あります。ですがそれは理屈ではありません。長い年月を掛けてみんながそう信じた結果そうなったのです」

「信じたからそうなった」

 魂の根源。その誰もが信じる認識の集合体であり世界を観測することでこの物理世界を成り立たせている。

 その共通認識を打ち破ることで物理法則をねじ曲げるのが魔。

 ならば逆に銀が魔に効くと誰ものが信じているなら魔を打ち破る力があると観測される。

「それが魔術の基本だと主は常々言ってました。

 あとアドバイスですが弾が3発もあると思ってはいけませんよ。これは小さい分射程距離も短く3メートルも離れれば銃の名手でも当てるのは難しいです。不意を付いて確実に一撃で決めてください」

「分かりました」

 マスターは素人とは思えない的確なアドバイスをしてくる。

「私にもあなたの勇気があれば家族を失わないで済んだかも知れませんな」

 告解にも似た後悔の滲む言葉。あたしに救いを希望を託しているかもしれないが、あたしにもその資格はない。

「あたしも既に家族を失ってます」

「そうでしたな。人間、何かを失わなくては何かを得られないものなのでしょうか」

 マスターは家族を失い何を得たんだろう?

「あたしには分かりません。だから今出来ることに尽力するだけです」

 力が欲しくてもマリを失うことで更に強くなる気はない。

 それに失うだけじゃ無く、守る為に強くなる力だってあるはずだ。

「あなたなら試練を乗り越えやり直せますよ。御武運を」

 やり直せる。その言葉は今は考えられない。

 ただあたしは答えるのみ。

「はい」

 あたしはマスターから託された銃を大事に抱え自分の部屋に行く。制服に着替え、授業でつかう教科書を鞄に仕舞う。ここまではいつも通り。最後に銃を胸のホルスターに装備し、上からブレザーを羽織る。鏡で姿を確認。うん、変に盛り上がってなくうまく胸の膨らみに隠れている。これならばれない。

「よしっ。闘いだ」

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