でまかせから始まるミラクル

朝凪 凜

第1話

 私は今、とてもピンチだ。

「お嬢さん、今ヒマかい。俺たちと遊びに行こうか」

 男の人が3人、私の前に立ちはだかっている。いわゆるナンパというやつだ。ターミナル駅の駅前だからかたまに変な人が出てくる。今時でもこういう人達がいることにびっくりだ。

「いえ、用があるので結構です」

 横を抜けていこうと歩を向けようとしても、すぐに塞がれてしまう。

「まあまあ、そう言わずに。ヒマなんでしょ?」

 ニヤニヤしながら肩に腕を乗せてくる。

 こちらが嫌がっていてもお構いなしだ。

 なんとかしようと周りに視線を向けると顔見知りを発見。

「霧島君! 遅かったじゃない!」

 相手が振り返った隙に強引にすり抜けて霧島君と呼ばれた男の子へ駆け寄る。

 同じクラスの男の子で、背が高くて目つきは少し怖いけれど、女子からも人気のある男の子だ。

「こっちこっち!」

 霧島君が立ち止まったところで、すかさず腕を絡ませてそのまま早足で引っ張っていく。

「ごめんなさい。今、変なナンパに捕まってて。今だけフリをしてもらえますか?」

 小声で陳謝すると、彼は後ろを一瞥しため息をついた。

「面倒くさいのに捕まってるな、おまえ。確か同じクラスの……えーっと」

東山ひがしやま佐倉さくらです。佐倉でいいです」

 学校でも会話をしたかしていないかくらいの仲だったから、覚えていないのもしかないけれど少しがっかりしてしまった。

「佐倉ね。仕方ないから少しだけ付き合ってやるよ」

「ありがとう」

 礼を言って後ろを振り返ると3人組がこちらにゆっくり歩いているのがわずかに見えた。その時に心なしか笑っているように見えたのは気のせいだろうか。

 とりあえず、駅ビルを抜けて高架歩道橋をそのまま駅から離れる方向に進む。

 少し進むとデパートがあるので、入り口に入ってすぐ立ち止まる。

「ごっ、ごめんなさい。急にこんなのに付き合わせて」

 すぐに腕から離れてぺこぺこと謝る。

「いや、それはいいんだけど、さっきまだついてきていたからしばらくはこれを続けてないと駄目かもよ」

 えっ、とデパートのドアから外を見ようとしたところで止められた。

「そんな目立つことしてどうする。向こうが諦めればいいけど、どうだろうな」

 腕を組んで顎に手をやりなにやら考え込んでいる。

「まあいい。ここにいても見つかるだけだから中に入るぞ」

 手首を掴まれてそのまま引っ張られていく。あぁ、なるほど。確かにカッコ良いかもしれない。


 そこからしばらくブティックに入って当たり障りのない話をしながら、いつの間にか楽しんでいる自分に気づいた。

 何件か廻ったあたりで「ちょっとトイレ行ってくる」と言って別れた。

 デパート奥の階段付近の椅子に座って待っていると

「よう」

 声をかけられた。あのナンパだ。

「何か用ですか。もう私と関わる意味は無いんじゃないんですか」

 彼氏といる人に話しかけても何にもならないはずだ、と。相手もそんなことは当然わかっているだろうと、思っていた。

「霧島君だっけか。あれ、俺らの仲間なんだわ」

「仲間……?」

 仲間という単語を理解するのに長い刻を要した。

「え、どういうこと……」

「最近は連むこともあまりなくなったけどな、中坊から一緒だ」

「じゃあ、私は」

「騙されたんじゃねーの? こうして一人にしているわけだし」

 少しでも楽しんだ自分に悔しさを覚え、少しでも格好良いとか思った自分に腹が立った。

 それでも男三人相手に何が出来るのか。逡巡していると。

「よう。久し振りだな」

「霧島君!」

 後ろからのこのこと現れた彼は軽く手を上げ挨拶をした。

「おまえも久し振りだな。こんなところで会うとは思わなかったな。手間はかかったけど、よくやってくれた」

 ナンパ男も手を上げてハイタッチをしようとしたタイミングで

「俺のに手を出さないでもらえるか」

 手を弾いて私の前は彼で覆われた。

「どいうことだ」

「どうもこうもあるか。お前らみたいな落ちこぼれと組んだ覚えなどない。さっさと失せろ」

「なんだとてめぇ──」


 そのあとのことは見ていなかったこともあってあまり覚えてない。彼──霧島君がナンパ男達を追い払ったことは分かった。

「どうして……」

 問うとため息をつきながら答えてくれた。

「そりゃあ、同じクラスの女子が目を付けられたとあっちゃ、男として当然だろ」

「でも、私のこと、名前も覚えてなかったし」

「ああ、あれか。あれは、まあ、なんだ。咄嗟に出掛かったのが、お前のあだ名だったから。男子で勝手にあだ名付けてたんだ。それで名前の方はど忘れしててな」

 あだ名って、男子共は一体私たちになにをしているのか。

「でもまあ、あいつらとは確かに昔一緒だったが、今はもう違う。あんなことしても楽しくないということに気づいたからな。それに今日のこれの方が何倍も楽しかった、本当だ」

 そう言った彼は真摯なまなざしだったことは分かった。嘘では無いのだろう。

「……仕方ないわね。じゃあ、私を不安にさせた代わりに、これからも続きをお願いね」

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