第43話 秘め事


大炊君が梧桐の宰相として宮中にいることを、朔は固く口どめされていたが、小萩だけには打ちあけることにした。

今まで前の屋敷にいる時からずっと、朝夕何の隔てもなく過ごしていたため、急に隠し立てすることはできなかったのだ。


しかし朔は、そのことだけを話し、水泡みなわを通して真雪からの文をもらったことは言わなかった。


水泡が文を待っていたとはいえ、何て考えなしの返事をしてしまったのかと、朔は今では深く後悔していた。

その苦悩があまりにもみっともない気がして、そこまで明かすことはできなかったのだ。


小萩は側仕えの女房たちが、しきりに梧桐の宰相が、と騒いでいたのはそのためだったのか、と納得した上で、こっそりささやいた。


「今まで、お屋敷にいらっしゃることも本当に少なくて、どうしてそんなにお忙しいのかと思っていたけれど、そういうことだったのね」



そして、女の身でいながら宰相の地位にまで昇りつめている大炊君は、やはり只者ではないと思い、恐れ多くも誇らしくも感じるのだった。


小萩は、朔が何気ない風によそおってはいても、やはり母君の郷里であるやしろに行きたいだろうという気持ちを察していて、その思いのはざまで揺れ動いていた。


あの夜、一度だけ会った真雪という人は、まさかこんな場所に当の姫君がいるとは思いもしないだろう。


でも、もしもつきとめられたら、

こうまでして守っている朔に何か外聞の悪いような、都合の悪いことも起こるだろうと思うと、とても探しあてる気にならなかった。


大炊君が宮中で権勢をふるっているのなら、尚更双方にとって良くないことにもなりかねない、と思いつめて、その件についてはあえて何も口にしなかった。


朔も、なぜあんな返事をしてしまったのかと、そればかり気になって、話す気もおこらなかった。


しかし本当に、あの人が月影神社に連れていこうと思っているのなら、魂だけになってもついていきたかった。


——大炊君は、宮人と会う自分を許さないだろう。



でも朔は、

初めから大炊君にお願いしていたのだ。


そして、考えれば考えるほど、そうすることだけが、真実必要なことに思えてくるのだった。

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