第5話 照臣
趣向を凝らした風情の坪庭に、やわらかな月の光が降りそそいでいる。
仏頂面を崩さない真雪とは対照的に、照臣は始終相好を崩していた。
その上機嫌が、真雪の渋面をますます悪化させるということに、照臣が気づいていないはずもない。
真雪は何度目かのため息をついたが、照臣は一向に気にする様子もなかった。
「それで、俺はどこに行けばいいんだ。大体の目星はついているんだろう?」
吐き捨てるような語勢で口火を切るも、照臣には響かないようだった。
若干の沈黙が流れたのちに、照臣はまったく悪びれずに言った。
「目星がついている、というのは
真雪は、一瞬耳を疑った。
「なんだと?」
照臣は居直った。
「そんなに簡単に尻尾をつかめるのなら、例の姫君はとうに見つかっている」
真雪は絶句したのち、呆れ顔になった。
「話にならん。じゃあ探しようがないじゃないか」
照臣は、口元をわずかに持ち上げた。
「探しようがないわけでもない。月影神社という場所を知っているか」
真雪がかぶりを振ると、
照臣は、心持ち身を乗りだした。
「実はその場所は、かの更衣ゆかりの場所だ。そこに行けば、何か手がかりが見つかるかもしれん」
「朱雀帝の寵愛を受けたという更衣か」
照臣は頷いた。
「その神社に
「やけに詳しいな」
真雪がうっかり感心した声で言うと、照臣はまんざらでもない様子だった。
「ここ数日、朝霧の女房のもとに通いつめたからな。その更衣の世話役をしていたらしい」
その人を実際に目にしたことはないが、
当時の女房なら、既に相当な年になるだろう。
節操なしに見えても、情報を集めるには好都合なのだろう。
真雪には絶対にできないことだが。
「もちろんお前も一緒に行くんだろう」
「まさか。男二人で行けば、確実に怪しまれる。それに俺はどこから見ても宮人にしか見えない。
その点、お前なら少々身をやつせば、行商をする旅人と聞いても疑われないだろう」
「……けなされているようにしか思えないが」
「適材適所の見立てと言ってくれ」
真雪は閉口したが、照臣はただ明るく言い放った。
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