さがしもの

@iq69__

第1話


ゴンッ


鈍い音が頭の中いっぱいに響く。

聞こえるのは、叫び声にも近い甲高い子供の泣き声。妹の由美である。妹と言っても腹違い。私とは血が繋がっていなかった。


私は何が起きたのか全く理解ができなかった。

とにかく痛い。思考が追いつかない。激しくじくじくとした痛みを感じながら頭を抱えてその場にしゃがみ込んでいた。


母親の声は聞こえなかった。


どのぐらいの時間、そうしてうずくまっていたのだろう。玄関と繋がるドアが開く。


「ただいま…ってお前どうしたの!?鼻血出してるじゃん!」


仕事から帰宅した父がリビングでうずくまっていた私に急いで駆け寄ってきた。

それもそのはず、私の足元には大量の血が水溜りのように溜まっていた。決して、鼻血で出る量ではない。


近付いてきた父は私が抱えていた頭から手を解き、真っ赤な血がべったりとついた髪の毛をかき分けると「頭割れてるよ!?なにがあったの!?」と慌てた様子で大きな声で私に問いかけた。それを聞いた私はやっと痛みの原因を理解し、痛みと恐怖と父が抱き締めてくれている安心感から、涙が溢れた。まるで赤子のように、叫び声にも似た大きな声で、やっと泣けたのだった。


「え…」


小さな声を漏らしたのはキッチンに立つ女。

晩御飯の支度をしていたのだろう、片手には鍋を掻き回す為のお玉を持っている。私の頭を割ったお玉を、持っている。


「とりあえず病院に行こう、車を回してくるから」


浅い呼吸を繰り返す私の頭を脱衣場から持ってきた真っ白なタオルで抑えながらそう言うと何も知らない父は帰ってきたばかりの格好のまま車の鍵を持つと急いで外へと出ていった。置いていかないで、と言えば良かった。


壁によりかかる私の元に女が近付いてくる。火を使った料理の途中だったからか、少し頬が赤く染まっていた。


「由美と遊んでいたらテーブルの角に頭をぶつけたと言いなさい」

「私が殴ったってパパに言ったら許さないから」


女は低く掠れた声で私に言う。

次になにをされるのか何を言われるのか予想もつかず、私は自分の頭を押さえていたタオルを強く握り、小さく頷いた。


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