18-6 これが俺の力だ!
光が輝き、真っ赤に燃える髪が腰近くまで伸びる。
見開く目はレオと同じように形まで化け物の眼となり、皮膚には赤い模様が描かれた。
抑えきれない力が体の外へと熱となって溢れ出し、立っているだけで辺りの景色が歪んでいく。
「あまり時間が無いんだ……決着を付けるぞ、イヴァン・サレス!!」
構え、発現した涼の力が大地を震撼させた。
眩い光を放つ涼に、空に立つイヴァンがたじろいで一歩下がってしまう。
「この……さっきよりも見た目が変わった位で、強くなるものかよ!」
ありえない、力を使い果たしたはずだ、こんな事があるものか!
頭の内に渦巻く考えを振り払うように、イヴァンが闇の塊を地上へと振りかぶった。
「おおおおッ!!」
気合の咆哮を上げ、左手を地に着け大地を蹴り飛ばし空に駆け上がる。
イヴァンの手が振り下ろされる前に、灼熱を放つ涼がイヴァンの胴を掴んだ。
「なんだ、これは!?」
守りの為に纏った闇を容易く打ち払われ、掴まれたイヴァンは白熱の軌道を空に描き、崩れ土砂となった岩山へと猛烈な勢いで叩きつけられる。
岩盤が捲れ上がり大量の土砂が爆ぜ飛んだ。
その溢れる土砂すら焼き溶かす熱量と共に、鬼の様な瞳をした涼がイヴァンを眼前に持ち上げ力を溜める。
「焼き尽くせぇッ!!!」
解放された力が周囲を白く塗りつぶした。
空すら白く輝き、何もかもが焼失してぽっかりと空いた空間の中心に赤く燃え盛る涼が一人立つ。
「オオオオオオオオッ!!!」
獣のような涼の雄たけびを、命からがら間一髪の所で闇に紛れたイヴァンは聞いた。
「なんだ、何なんだあれは……」
息も絶え絶えになりながらイヴァンは涼の新たな力に恐怖していた。
だが闇の中に逃れる事が出来た今、それはもう関係ない。
「何だあの力は……だが俺には通用しない。あんなもの戦わなくとも、お前のその時間が尽きるまで、俺はここで待てば良いのさ」
恐怖に歯を揺らしながら、雄たけびを上げる涼を笑う。
相手からは干渉が出来ない空間で相手を笑っていると、涼が右手に魔力を集中させ始めた。
「出てこないのならッ!」
途方も無い力を纏い突き出した手が空間に干渉し、バリバリと稲光を上げる。
「まさか、ここにお前如きが来れるはずが無いんだ!」
空間を割って闇の中へと侵入してくる腕がイヴァンを掴み引きずり出した。
地面に投げ捨てられ、転げたイヴァンが手で身を持ち上げ顔を上げる。
見上げる先には、魂の底まで震え上がらせるかのような圧倒的な力が待っていた。
「あり得るか……お前みたいな奴が……俺を見下すな!」
イヴァンの怒りの叫びによって生み出された無数の闇が空間を消し去るが、涼はそれを正面から拳で打ち破り迫る。
何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ!
必死に距離を離し攻撃を放ちながらイヴァンは何度もそう唱えた。
何故、あいつはこれ程の力を発揮できる!
神の力を持ってた奴は逃げた、今のあいつはただの人間の筈だ、それなのに何故!
何故これ程の力を発揮できる!
イヴァンにとって、それはあってはならない事だった。
神の力を失った涼がそれに匹敵、いや単純な力だけなら越えるような強さを持って良い筈が無い。
己が上に立って否定する為に、涼は神に力を与えられただけの存在でなくてはならないのだ。
「なのに、神の力を失った筈なのに、何故お前はここまで戦える!!」
目を血走らせて喚くイヴァンに、涼がハッキリと答える。
「これが、俺が手にした最後の力。例えこの命を燃やし尽くそうとも、あんたの力はここで打ち砕く!」
涼が発動させた切り札、それはユニゾンの特訓の際に気付いた力。
ユニゾンは愛莉と合体する事で星と繋がり、その強大な力を得る物。
しかし、一度星とのパスが通り、その感覚を身に付けた体は直接星と繋がる事が可能となっていた。
最初は便利だと思ったそれは、大きすぎる代償が伴っていた。
愛莉のユニゾン時の役割は、各種魔法を放つ際の魔力制御のサポートの他に、星の力を涼が問題なく使用出来るようにするリミッターとしての役割も持っている。
そのリミッター無しで星と繋がれば、人の身には余り過ぎる力に耐えられず、それの制御どころか命すら落としかねない。
だからそんな力の使い方を愛莉は使う事は許さず、それを涼も同意していた。
しかしそれでもその力、エクス・ユニゾンと名付けていた力を涼は発動させた。
例え、暴走する星の力に命を燃やし尽くそうとも倒さねばならない敵が居た。
体から溢れ出し、今にも破裂しそうな巨大過ぎる力の手綱を、命を懸けて握り締める。
許す訳にはいかなかった、目の前に居る男の事を。
自分が夢見て辿り着いて好きなったこの世界を、自分が歩いてきたこの旅路を、自分が望み続け諦めたものを、それらを平気に土足で踏み躙り否定したこの男を、絶対に許す訳にはいかなかった。
閉じるように迫る闇の二つの刃を拳で打ち砕き、強烈な踵落としがイヴァンを捉える。
声を上げる間もなくイヴァンの体が消し飛び、衝撃が地上まで突き抜けた。
いや……まだだ、まだ終わっていない。
飛び散った血煙が人の形へと変わっていく。
「何故だ、何故ここまでしてお前は戦える……」
体が元へと再生していくイヴァンが問いかけてきた。
「どうしてだ、お前が異世界から来たからか?神に選ばれたからか?……これ程までの力を、それを認める人が、賞賛する声が……レオとお前にばかり……何故俺に神はどれも寄越さなかったんだ!」
イヴァンが叫ぶその言葉、遠く昔、それと同じ事を思った。
だから俺はそれを真っ向から否定する。
「あんたの言っている事はただの我侭だ」
「なにを……」
「力が欲しい、だけど努力はしたくない。認めてくれる人が欲しい、だけど繋がりは向こうから与えられたい。賞賛が欲しい、だけど辛い思いをせずされるだけで居たい!そんなの全部、ただの自分勝手な我侭じゃないか!!」
俺の言葉に完全に図星を突かれたイヴァンが顔を手で覆った。
「違う!レオが全てを奪って行ったんだ、俺が一番になる筈だったんだ、リーナだって、あいつさえ居なければ……」
「レオがあんたに何をした!?あいつが強かったからと、あいつから逃げたのはあんた自身だろ!あんたは自分の全てを他人のせいにして変わろうともせず、逃げて逃げて悪になってまで逃げ続けた卑怯者だ!」
「黙れ!!!!」
拳を握り締めて叫ぶイヴァンの瞳は元の茶色い物から、魔物の色たる金色の瞳に変わっていた。
「何もかもを手に入れたお前が、知ったような事を言うなぁ!!」
取り戻した人の体を捨ててまで、イヴァンがその暗黒の力を更に増加させ向かってくる。
「何もかもを捨てた、てめぇに言われたくはねぇ!!」
神炎を滾らせ迎え撃ち、眩い光と漆黒の闇が空を二分した。
拮抗する力のぶつかり合いの中でイヴァンが吼える。
「俺が、運良く神に選ばれたお前なんかに!」
イヴァンの目が涼達と同じ化け物の眼へと変異し、更に増大する力に涼が押し返された。
空中で踏み止まる涼に対してイヴァンが両手を掲げる。
「負ける筈が無いんだぁ!!!!!」
イヴァンの体中に血管が浮かび上がり、自らの全ての力を使って最強最後の攻撃を放った。
竜を模した常しえの闇が世界を飲み込んでいく。
その万象を滅する力に対し、恐れず、退かず、拳を固めた。
旅路の果てに掴んだ力、理を超えて運命すらも変える力をその拳に宿す。
「運が良いか……そうだ、俺がこの世界に来れたのも、皆に会えたのも、全ては途方も無い奇跡!だけど!!」
運が良かったからじゃない、神に選ばれたからでもない。
「これは俺が進んだ道!これが俺の力だあああああああ!!!!!」
振りかざした勇者の拳から放たれた光が、闇を打ち破り敵を討った。
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