14-1 青い春の朝

 日が変わり朝が来た。


 天幕の間から朝日の光が見え、起きた皆の声が聞こえてくる。


 伸びをして起き上がり、テントから外に出た。


「おはよ」


 カップを片手に本を読んでいるリーナが外に出てきた俺に気が付く。


「おはよ、俺が最後か?」


「まだエイミーとロンザリアが起きてないわね。朝食食べる前に起こしておいて、食べたら出発だから」


「へーい……そうだ、ルルちゃんは?」


「さっきまで一緒に朝食を食べて、今はレオと遊んでるんじゃない?」


「そうか、元気そうで良かった。じゃあ俺は二人起こしてくるか」


 そう言ってエイミー達が寝るテントを向かう俺に「行ってらっしゃい」とリーナがぷらぷらと手を振った。


 テントの中を見ると、エイミーがロンザリアを抱き締めて眠っている。


「おい、二人とも起きろ朝だぞ」


 二人を揺するとロンザリアは反応を示さないが、エイミーは目を薄っすら開けた状態でふらふらと起き上がった。


「ほら、朝だし顔を洗って飯を食ったら、おうっと」


 ふらりふらりとしていたエイミーがこちらを向いて、正面からこちらに抱きつき腰の位置まで体が沈み込んでいく。


 抱きついて来たエイミーは寝辛そうな体勢の割には既に寝息を立てていた。


「おい、起きろって。後お前は起きてんだろ」


「いや~ん」


 便乗して抱きつこうとしたロンザリアを跳ね除ける。


 エイミーは揺すっても吐息と「あともう少し……」なんて良くある寝言を言うだけで起きようとしない。


「これで、もう食べられませんとか言ったら引っ叩いてやろうか」


 しかしだ、このままの状態を続けるのは結構困る。


 前にも寝ぼけて抱き付いてきた事があったし、先程もロンザリアを抱き締めたまま寝ていたのを見るに多分、何かに抱きついて寝るのは癖なんだろうが、この状況は体勢的にも見た目的にも不味い。


 だけどこれをどうするか。無理に引き剥がすことは出来なくもないが。


 とりあえず掴む指を離させようとするが、抵抗されて逆に掴みが強くなった。


 何か前もこんなんだったな……と、シエーナ村での夜を思い出す。


 確かあの時は調子に乗って髪とか(胸を触った後に俺は彼女の服を無理やり剥がし、寝たまま抵抗しない柔肌へと自身の獣の様な欲情を)


「おうテメェ、勝手に改変してんじゃねぇよ」


「え~、でもお兄ちゃんこういう事もやりたいんでしょ?」


 そう言ってロンザリアがニヤニヤと笑っている。


 それに大きく溜息を付いた。


「あのな、心の底で仮に思ってたとしてもだ、仲間にそんな事をやるわけないだろ」


「今ならやっちゃっても許してくれると思うけどな~。だってエイミーってお兄ちゃんにラブだよ?ぞっこんだよ?」


 ロンザリアの言葉に思わず言葉が詰る。


「ほらほら、エイミーだって寧ろ待ってるって、カモンだよカモ~ン」


 こちらが騒いでいるせいか、ちょっとだけ不機嫌そうにエイミーが唸って頭をこすり付けた。


 今、抱き付かれている位置の都合上、俺の下半身のあれに近しい所に。


 自分の中のボルテージが上がりそうになる、がしかし。


「何にせよ寝こみを襲うのは人としてヤバイだろ!」


「確かにそうかもね~」


 ケタケタと笑いながらロンザリアがテント入り口に手をかける。


「まぁでも~、お兄ちゃんの好きにするのが一番なんじゃな~い?」


 妖しい笑みだけを残して出て行き、テントの中は俺とエイミーだけになった。


 好きなように……いやいやいやいやっ!


「落ち着け、落ち着くんだ。確かに俺とエイミーの関係は何となく良い感じだ。旅していく中で何となくそんな感じになった。でもな、でもな、ここで手を出したら色々と台無しだろ!」


 4人旅とは言え、レオとリーナが最初からセットだった事もあり自然とエイミーと一緒に居る事は多かった気がする。


 で、その結果かどうかは知らないが、何となくエイミーがこちらに好意を抱いてくれるようになった。


 だがしかし、ここで手を出してしまうのは違うだろ!


 何と言うか、こういうのはもっと過程を経てというか、せめてちゃんと気持ちを伝えてからというか……


 気持ち、気持ちって何だ?いや、分らん。


 エイミーの事は間違いなく好きだ。


 ぶっちゃけ街角100人の男に聞きましたをやった所でエイミーの事を嫌いだと言う奴は居ないだろう。


 そんな子に好かれてるなんて贅沢通り越してなんかヤバイ。


 自分なんかで良いのかなんて思ってくるが、それはそれで失礼な気もする。


 それに俺だって割りと、結構、それなりに、まぁ頑張ってる……と、思う。うん。


 いやでもやっぱり……


 訳も分らず頭の中で色々と言い訳を繰り返していく。


 つまる所この男、真田 涼は思春期である。


 レオの前では恋愛に対して高説垂れる事が出来ても、いざ自分の番になると何も出来なくなってしまう普通の男の子なのである。


「ええい、頭の中がごちゃごちゃして来たし保留!ほら起きろ、朝だぞ!」


 ペチペチペチペチと連続でエイミーの頬を指で叩いていく。


 いやいやと何度か頭を揺らした後、ようやくエイミーが目を少しだけ開けてこちらを見た。


「あれ?リョウさんおはようございます」


 寝ぼけた顔でそう言って、自分が今頭を置いている位置を見る。


「わ、わ、わ、わ、ごめんさい!私またこんな」


 慌てて飛びのき、顔を真っ赤に染める。


「いいいや、前も言ったが俺は別に気にしてないからな。それに今回は何処も触ったりしてないからよ!」


 そう言うとエイミーは何処か少し残念そうな顔をした。いや何故!?


「とにかくっ、朝食終わったら出発するらしいから、とっとと食べて行こうぜ!」


「えっと、そうですね!早く食べてヘレディア様の下に向かいましょう!」


 何だか変な空気のままバタバタと準備をして朝食へと向かう。


 その様子をロンザリアに加えてアンナさんまでニヤニヤしながら見てたが、これは気にしたら負けな気がする。


 朝食を食べている間に気分は落ち着き、出発の準備をしていく中でリーナがレオとルルちゃんを呼びに行った。


 青い髪が二人並んで仲良く歩いてくると本当に兄妹みたいだ。


 いや、リーナがルルちゃんを挟んで隣に居るから親子のようにも見えるな


 手を引かれていたルルちゃんが手を離し、こちらに駆け足でやって来る。


「昨日は、助けてくれてありがとうございました」


 そう昨日と同じく礼を言って、丁寧にペコリと頭を下げた。


 頭を下げる少女と目線を合わせる為に膝を付いて、ルルちゃんの手を握る。


「俺も助けられて良かった。俺はリョウ・サナダって言うんだ、ルル・ノーランドちゃん、よろしくな」


「うんっ!よろしくお願いします」


 握られた手を見て、ルルちゃんが満面の笑みを浮かべ答えた。


 その後、出発の準備が整ったので騎士団の馬車に乗せてもらいサンロメアへと向かった。


 神の塔を登る許可をもらう為に。

 



 明け方フレージュ近海でアルビ方面に向かう大型の船が転覆する事故が発生した。


 原因不明の高波によって船が横転し、乗員の決死の救助があっても多くの人が犠牲になってしまった事故。


 もしもその報道が流れれば、聞いた人の殆どが悲しむ様なそんな大きな事故。


 だが、ある意味で彼等は幸運と言えるのかもしれない。


 海中深くを進む巨大な影が起こす惨劇を、彼等は体験せずに済んだのだから。

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