13-4 化け物の少女
「その女の子がレオと同じ、魔王の器……」
大司教から告げられたその事実にリーナが驚き絶句している。
「彼女は当時の私達からしてみれば不幸にも力を持ってしまっただけの子供でした。ですからその少女は監視対象として見守る事となりましたが、彼女の住む村へと魔物が近寄る様になりました。しかし、彼等は古くから森の奥でひっそりと暮らしている魔物達であり、その時も人に何か危害を加えるのではなく、単にその少女を心配しているだけとの事でしたので、当時の監視に着いていた者たちの進言もあり人と魔とが暮らす不思議な村へと変わっていきました」
少し昔を懐かしむように大司教が語っていく。
「村はある意味理想郷と言えたのかもしれません。ひっそりと人と魔が手に手を取り合い共に暮らしていく村、私も何度か訪れましたが実に温かみに溢れた村でした。しかし、3年前から村に居る人々の様子が少しずつおかしくなり、2年前その村の住人ごと少女が行方不明となります」
「その失踪した人たちが信奉者と呼ばれている人達ですね?」
アンナの言葉に大司教が頷いた。
「彼等は少女を守るように逃げ、今は森の奥へと潜み行方が分らなくなっております。今になって思えば、あれは彼女が自分の身を守らせる為に人や魔物を寄せていたのかもしれません。今回レオさんを連れ去ったのも、恐らくは自分を守らせる為でしょう。彼等の行方を掴み次第、必ずレオさんを貴方方の下へと無事帰れるよう尽力いたします。どうかこの件は私共にお任せください」
そう大司教が頭を深々と下げる。今回の件は元を辿れば自分達の甘さが招いた事、なら責任は自分達が取ろうと。
その言葉にアンナが答えた。
「レオ・ロベルトの行き先は私達の仲間が追っています。それにレオ君は私達の大切な仲間ですから、私達にもご協力させてください」
「そうですか、ありがとうございます。ではこちらで騎士隊を編成しますので、出発まで教会内にてお待ち下さい」
「あの、すみません」
人を呼び準備に取り掛かろうとする大司教を涼が止めた。
「その女の子って見つけたらどうするんですか?」
涼の言葉に大司教が深く息を付く。
「……残念ですが魔物として討伐する事になるでしょう」
泣くのを止めた少女は僕の手を引いて遊ぼうとせがんだ。
見た目は少々不気味だけど、仕草は本当に子供っぽい。
それに見た目は今の僕が言えたことじゃないか。
手を引いていく彼女は二つの人形を手に持ち、片方を渡してきた。
少女はぺたんと床に座り込んで僕を待っているようだが、実の所こういった人形遊びはした事がないからどうすれば良いのか分らない……
うーん、リーナは小さい頃に人形遊びとかしていたしなー。
思い返してもリーナの小さい頃は外で走り回ってたか、家で魔法の本を読んでいたぐらいだ。
とりあえず一緒に座って様子を見てみよう。
そう思い座ったら、少女は人形の頭をぺこりと下げてきたので、それに倣ってこちらもお辞儀をさせた。
キィィっと少女の顔が笑い、何か歌の様な物を口から響かせながら人形を踊らせ始める。
聞いた事の無い曲だったけどそれを真似して口ずさみ、小さな舞踏会が始まった。
しかし、少女と遊んでいて思うことがある。
果たして自分は彼女と遊ぶ為にここに連れてこられたのだろうか?
いや、連れてきた人も、ここの人たちの雰囲気もそんな様ではなかった。もっと別の……そう、この子を……
気が付けば歌が止んでいた。
少女は何処か心配そうにこちらを見ている。どうやら悩みが顔に出てしまっていたようだ。
「あ、ごめん。遊んでる最中だったのにね」
そう言って笑顔で人形を動かすも、少女はポイッと人形を投げてしまった。
パタパタと玩具が置いてある場所へと戻り、フラフープを二つ持って片方を渡してきた。
どうやら人形遊びはイマイチだったと判断したらしい。
「ギャーゴー」と声を上げた後、みてみてとアピールをして腰を動かしフラフープを回していく。
「おお~」
くるくると上手に回すフラフープに思わず感心の声が出る。
気を良くしたのか何度も何度も回して、満足した所で手でフラフープを掴み「どんなものだ」と胸を張った。
やってみようと自分も腰にフラフープを持ち回してみる。しかし、意外と上手くいかない。
「ワーギャー」と少女から飛ぶ指示と見本を見ながら何度か試し、上手く回せるようになった所で彼女と一緒に回して遊んでいく。
でも、本当にこのままで良いんだろうか……
ロンザリアは集落近くの木の上から様子を伺っていた。
集落にはそれなりに人や魔物が居るが、レオの元へと隠れて行くのは問題ないだろう。
しかし、
「うわ~、なんか凄いの居る~」
レオの気配を感じるテントの中には、レオと似たような、そして非常に不安定な力の持ち主が居た。
涼から魔王の器のなりそこないが居ると聞いているが、あれが正しくそうなのだろう。
「あれはちょっと不味いんじゃないかな。……お兄ちゃん聞こえる~?」
呼びかけると、少し間を置いて返事が返ってきた。
(どうした?)
「レオが連れてかれた所に着いたけど~、そっちはどう?」
少しだけ沈黙が流れた。
(今は教会と、この国の軍の人と一緒にそっちに向かってる。……あの子の様子って分るか?)
「う~ん、直接見たわけじゃないけど微妙かな~」
(微妙ってどういう事だ?)
「うーん、なんかもう今にも心が無くなりそうみたいな?レオの時はストレッジに無理やりぶっ壊されたから、お兄ちゃん達の心とレオ自身の強さで何とか戻せたけど、今回のは自分の力にあの子が負けてるし難しいんじゃないかな」
そう言われて押し黙る涼の葛藤がロンザリアの中に伝わってくる。
助けるのは難しいと言われても、知っても、それでも何とか助けたいという想いが伝わってくる。
見知らぬ誰かにすら本気でそう想えるのが、お兄ちゃんの良いとこだよね~。
涼の悩む心をロンザリアは微笑見ていた。
(何か、助ける方法はないのか?)
答えの出ない中で搾り出すように涼が聞く。
「う~ん、どうだろうね。何をするにしてもあの子次第だし、ちょっと直接様子見てくるね」
(すまん、頼む)
「はいは~い」
レオと少女は変わらず遊んでいた。今は絵札を使って遊んでいる。
次は自分の番だとレオがどの絵札を取ろうか悩んでいると、少女が警戒するように飛びのいた。
何がと思い後ろを振り向くと何時の間にかロンザリアが立っている。
「うわっ、ビックリした」
「いやいや、そこはちゃんと気付こうよ~」
遊ぶのに夢中で来た事に気付いていなかったレオをクスクスとロンザリアが笑う。
「それで、あの子がそうだよね」
ロンザリアがテントの隅で唸る少女を見た、どうやら完璧に警戒されてしまったようだ。
「怖がらなくて良いのに~。そうだ、良いもの見せてあげよ~う」
そう言って手に複数の魔法陣が浮かび上がる。
すると石で作られた小さな人や動物達が少女の周りに生まれて動き出した。
ピョコピョコと動く人形達を、少女が眼を輝かせて喜びその動きを追っていく。
「それで、この子はどうしようか?このまま放っておいたら大変な事になるよ」
喜ぶ少女を見て、ロンザリアはレオへと聞いた。
「どうしようって言われても……」
「この集落の人はレオに殺して欲しいって思ってるよ」
ロンザリアの言葉、それは周りの人々の感情を読み取って伝えてくれた言葉。
その願いは薄々分っていた。彼女の姿とこの村の雰囲気を見れば彼女が助かる可能性は限りなく低い事は。
「別にあの子を殺す事は悪い事じゃないよ。このまま放っておいたらあの子はやりたくなくても暴走して人を殺しちゃう、なら今の間にあの子を殺してしまうのが一番正しいんだよ」
ロンザリアのいう事は正しい、あの子の事を想うのなら誰かを傷つけてしまう前に終わらせるべきだ。
でも、それでもと、自分がどうすれば良いか答えを出せず、顔を俯かせて拳を握った。
「今ならロンザリアがあの子を夢に包んで眠らせる事が出来るよ、どう?嫌ならロンザリアがやってあげようか?」
そんな悪魔の様な囁き、いや本当に悪魔か。
挑発するようなロンザリアの言葉に、自分がどうしたいのか心に決まった。
「ううん、大丈夫。僕はあの子を助ける」
どうすれば正しいかなんて考えても答えは出ない。今はどうしたいか、その心に従おう。
レオの言葉に待ってましたと言わんばかりにニマ~っとロンザリアが笑った。
「そうだね、そうしよう~。お兄ちゃんもそうしたいって言ってたし」
「リョウも?」
「うんっ、こういう時は絶対に諦めたくない性格だからね~」
そうか、そうだよね。僕の時もそうだった、絶対に無理だと思うような状況でも彼は諦めようとはしなかった。
なら僕だってここで諦めるわけにはいかない、彼が与えてくれた勇者の名前に恥じないように。
先程まで石の人形達を見ていた少女の動きが止まった。
震え、頭を抱えて呻き始める。
震えるその小さな手をレオが握った。
「大丈夫、君は絶対に僕が助ける。だから君も負けないで」
レオの言葉は少女には分らない。でも、その強い目を見て、自分が消え行こうとしている恐怖の中で頷いた。
「グギッ、アギャアア!」
頷いた少女に頭が割れんばかりの激痛が走る。
レオが握った手を振り払いテントの奥へと蹲り、少女の体からその身に決して収まらない力が噴出してその身を変貌させていく。
地鳴りの様な声を上げて少女の体を飲み込んだ化け物が姿を現した。
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