13-3 失敗作
頭の中にはロンザリアの何処か緊張感の無い声が流れ続けている。
(なんかね~、人とワーウルフとエルフと混ぜ混ぜ部隊が囲んでるの。あとは多分狙いはレオみたいかな?)
「ちょっとリョウ、向こうで何かあったの?」
立ち止まってしまっている俺にリーナが聞いた。
「ああ、何か向こうはレオを狙った人と魔物の混成部隊に囲まれてるらしい」
「え!?人に、魔物も!?ちょっとレオは大丈夫なの?」
「少なくともレオは大丈夫だろ。それよりも何でそんなにお前は余裕そうなんだ?」
(んー、なんか向こうは敵意が無いように思うんだよね)
敵意が無い?なら何の目的で飛空艇を囲んでるんだ?それにレオを狙ってるようだって事は物珍しさって訳でもないだろうし……
「ちょっと、向こうどうなってるのよ?教えなさいよ!」
眉をひそめて考える俺をリーナが体を揺さぶる。
「わったった、言うから揺らすなって。とりあえず向こうの相手はこっちと戦う気は無いみたいだ」
「なに?戦う気が無いってどういう事よ?」
「分らん、でもロンザリアがそう感じ取ってるんだ。それと相手は人とワーウルフとエルフだそうだ、相手がまさかの四天クラスでもなければレオ一人で十分勝てるだろ。だから落ち着け」
「……そうね、そうよね。ごめん、取り乱して」
「良いさ。でも相手の目的は何だ?レオを狙って飛空艇に来るって事は、こっちの事情もある程度知ってるって事だし、それだとフレージュから情報が来ている教会の」
(ねぇねぇ)
ロンザリアが言葉を遮った。
「ん、どうした?」
(レオが敵じゃないなら外に出て話してみるって)
おいコラ待てい。
「止めさせろ、と言うか飛空艇の中で隠れてろ」
(隠れてろと言われてもな~)
まぁ確かに飛空艇の中じゃ隠れる事も出来ないか。どうする、逃げてもらうのが一番良いか?
(あっ)
「今度は何んだ?」
(向こうの代表っぽいのが飛空艇に来たよ。レオもやっぱり話してみるって)
「待て待て勝手に話を進めるな」
(でも、もう扉の前まで来ちゃったよ?)
「ちょっと、さっきからアンタらは何を話してるの?聞こえないんだからちゃんと内容を言いなさい」
俺しかロンザリアの声が聞こえない上に、状況が勝手に進むせいで大分面倒な事態になってしまっている。
向こうで「どうするの~?」と聞いてくるロンザリアと、こっちで「どうなってんの!?」と聞いてくるリーナで板ばさみ状態だ。
あー、もうどうにでもなりやがれ!何とかなる!
「向こうの代表とレオが話すってさ。どうせ今から行っても間に合わないし、ここでロンザリアに話を伝えてもらおう。その話の内容の実況って出来るよな?」
(任せて~、それじゃあ現場の実況はロンザリアがお伝えしま~す)
レオは飛空艇の扉を開けて訪問者の前へと立った。
異形の目のまま知らない人に会うのには抵抗があったが、相手は少し驚きはするも、それ以上は気にしていない様だ。
飛空艇に乗り込んできたのは3人、それぞれ3種の顔が揃っている。
その一人、人間の男が跪きレオに何かを話すが、残念ながらレオの知っている言葉ではなかった。
「え、えっと……」
困っている顔を浮かべるレオを見て、エルフの女性がまた別の言葉で喋るも、やはりレオには通じなかった。
痺れを切らした男のワーウルフがその場で土下座をして、レオに懇願し始める。
その言葉もやはり分らず、頼みの内容をレオは知ることが出来なかったが、しかし彼の姿を見て彼の手を取ろうと思った。
手を握られたワーウルフが涙を流し何度も、多分お礼の言葉を述べている。
幾度と無く頭を下げた後、ワーウルフは笑顔を浮かべ自分の背に乗るようにジェスチャーで伝えてきた。
それに頷き背中に乗ると、ワーウルフがこちらを向いて何かを告げる。
多分「掴まって下さい」と言ったのだろう、猛スピードでワーウルフが駆けて行った。
(って感じだったよ)
そうは言うもロンザリアも相手の言葉が分らないので会話の内容が殆ど無かった。
まぁ、なんだか雰囲気的にも本当に相手は悪い人たちでは無さそうだし、何とかはなるだろう。多分。
「レオのやつ、相手に乗ってどっか行ってしまったみたいだ」
俺の最後の報告にリーナがガックリと頭を抱えてしまっている
「なんかロンザリアが後を追うかって聞いてきてるけど?」
「お願いしておいて……」
「てな訳ですまん、頼む」
(りょ~か~い)
ロンザリアが謎の一団の後をつけて行った。
「本当、本当アイツはなんで何も相談せずに決めるのよ……」
頭を悩み抱えて大きく溜息を付き、リーナが顔を上げる。
「とりあえず大司教の下に戻りましょう。アタシ達の情報を持ってたって事は、多分ここと何か繋がりがある集団でしょ」
目のツリ上がりが一段階パワーアップしているリーナがズンズンと大司教の部屋へと戻っていく。
「良いのでしょうか?」
怒り心頭なリーナを見て心配そうにエイミーが尋ねた。
「良いんじゃないかな、どうせ情報は本当に持ってるだろうし」
ズンズン進んでいくリーナの後ろを付いていく。
静止する衛兵を押しのけて、扉を勢い良く開けた。
「何事ですか?」
リーナの行動に対して流石に大司教が顔をしかめている。
だが、そんなもので今のリーナは止まりはしない。
「レオが攫われました」
正確には攫われた訳ではないが似たようなものか。その言葉に大司教が驚きと、やはりと言った確信のある顔に変わる。
「レオはまだこの国で外には出ていないのにです、しかも人と魔物が協力してるなんて変な一団に。大司教様、何かアタシ達に隠してないですか?」
詰め寄るリーナに大司教が目を伏せて答える。
「貴方方の旅の邪魔にはならないようにと伏せておりました。しかし、まさかこれほど早く、それも誘拐とは……事態は思ったよりも深刻なのかもしれません。良いでしょう、今回の件は私から説明しましょう」
無理やり入ってきたリーナを捕まえるべきか悩んでいた衛兵の人たちを外に出てもらい、大司教が俺達へ今回の事を説明していく。
「彼等は私たちが信奉者と呼んでいる人々です。元々教会側に属していた者も居ますので、そこから貴方方の情報が漏れてしまったのでしょう、申し訳ありません。彼等は人も魔も問わず、一人の子供を信仰……いえ、守っていると言う方が正しいでしょうか、その子供と共に居る事を決めた者達です」
「子供?」
「はい、全ては20年ほど前になりますか、小さな村で起こった事件がありました」
「待ってください、20年前という事は今はその子は子供ではないと言う事ですよね?もしくは既に死亡しているか」
大司教の言葉にアンナが疑問を投げかけた。
「いえ、彼女はその時から変わらず子供のままです。少なくとも姿を確認できた3年前までは。20年前、村で9人が死亡し、3軒の家が破壊に飲み込まれた事件がありました。それの原因となった彼女は大きな力と不安定な子供の心、そして青い髪と金色の瞳を持っていました」
青い髪に……金色の瞳……
「その子って、何者だったんですか?」
深く目を閉じて大司教が答える。
「私達も彼女の正体は分りませんでした。しかし、彼の、レオ・ロベルトの話を聞いて、今回の事を聞いて一つの確証を得ました。そうです、彼女は……」
レオはワーウルフに乗って人里離れた小さな集落へと辿り着いていた。
その集落にあるテント式の家、というよりは何かを祭る場所に案内された。
「どうかよろしくお願いします」と言った具合のお辞儀と共に幕が開かれる。
幕の向こうは、まるで子供部屋の様だった。
部屋には子供用の玩具や家具が置いてある。玩具の見た目的に女の子用のようだ。
その部屋の隅に縮こまる影を見て、レオは何故自分がここに呼ばれたのかを理解した。
怯えるように部屋の隅に居る小さな影は、青白く光る髪に異形の金色の瞳を持ち、体はまるで木で作られているかのような化け物だった。
それが自分と同じ存在であると直感した。
そうだ、ストレッジが作り出した魔王の器、その一人なんだ。
隅で怯える小さな化け物へと歩み寄り、その体を抱き締めた。
冷たくて体温を感じない体、それでも優しく抱き締めた。自分の心が相手に伝わりますようにと。
その子は涙を流せなかった。しかし、声をあげた。
人とは到底言えないような声、でも小さな子供の様な泣き声を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます