3-6 目覚めた力

 部屋に朝日が差し込み目が覚めた。


 隣ではまだエイミーがぐっすりと眠っている。


 起こしてしまわないようにゆっくりとベットから降りた。


 少し背伸び等をやってみるが、特に体に異常は無いように思える。


 部屋を出てみても、まだ朝早いせいか一階の食事場になっているであろう部屋にも人は居なかった。


 一階に下りて椅子に座り昨日の事を思い出していた。


 あの時、呪いの元を壊した時に俺の中で力が生まれるのを感じた。


 目を閉じ机の上に手の甲を乗せて集中する。


 あの感覚を思い出せ。あれが俺の……


 体の奥から力のうねりを感じる。それを手へと伝わせ放出し、円を……思い浮かべる。


「出来たじゃない」


 上から声を掛けられ目を開けた。


 手のひら上に魔力の球体が出来上がっている。


「やった!」


 椅子から思わず立ち上がると、集中が乱れ集まっていた魔力が消えていってしまった。


「あっ」となるも下りてきたリーナが声をかけてくれる。


「ま、ようやくスタートラインに立てたって所だから、色々とこれから頑張らなきゃね」


 ニッコリと笑うリーナを見て達成感が湧いて来る。


「やった、俺にも出来たんだ」


 思わず流れる涙を拭いながら喜びを噛み締める。


「はいはい、これ位で泣かない、泣かない」


 そう言うもリーナは背を優しく撫でてくれている。


 しばらくの間魔力の練習をしているとレオが下りてきた。


 下りてきたレオに魔力で作られた球体を見せると、驚き喜んでくれた。


 宿の主人も起きて朝食の準備をしてくれている。しかしエイミーが中々起きて来ない。


 朝食が出来上がり食べ終わるも、エイミーはまだ起きて来ない。


「あの子ってまだアンタの部屋で寝てたりするの?」


「ああ、まだ寝てると思う」


 睨むリーナを直視できずに目を逸らしながら答えた。


 答えを聞いたリーナがため息を付いた後、「起こしてくる」と部屋に向かって行った。


 それを見届け、横で平然と剣の手入れをしているレオに声をかける。


「なあ、レオってエイミーが何処で寝てるか知ってるのか?」


 そう聞かれて「ん?」とした顔をしてレオが答える。


「そうだね、昨晩リーナが怒りながら言ってたから」


「どんな風に?」


 恐る恐る聞いてみる。


「どんなって、普通に夜中に騒いでうるさいみたいな感じだったかな」


 思った以上に普通の答えだった。リーナの不機嫌な顔を見るにもっと何かあるように思えたが。


「後はちょっと僕の寝ている場所を気にしてくれた位かな」


 ん?


「何の話だ?」


「部屋が二つしかなかったからね、僕とリーナは同じ部屋で寝ていたんだ」


 おいおい、何だかとんでもない発言が飛び出してる気がするぞ。


「ベットは一つしかないから持って来た寝袋で僕は寝ていたんだけど、君達の部屋から戻ってきたリーナが結構心配したみたでさ、そこで眠れる?とか、ベットで寝ない?とか聞いてきたけど大丈夫だって答えたらちょっと怒ってたかな。別に僕は床で寝ていて大丈夫だし、そこまで心配しなくても良いんだけどね」


 剣の手入れをしながらレオがあっけからんと話していく。


 何となく何故リーナが不機嫌になっているか予感が降りてきた気がするが、確信が持てないし黙っておこう。


 しばらくするとリーナがエイミーと共に下りてきた。


 エイミーはこちらを見ると少し顔を赤くして頭を下げてきた。つられてこちらも頭を下げてしまう。


 それを見てリーナはこちらではなく、レオの方を見て少し睨んだ。当の睨まれた本人は気が付いて無い様子だが。



 恐らく応援と共に来るであろうエドアルドさんを待つ為に、俺達はしばらく村に泊まる事にした。


 その間に魔法と剣の特訓を付けて貰う。


 最初リーナにレオから剣の扱いも習いたいと言った時は、魔法のほうに集中しなさいと言われると思ったがあっさりと許してもらえた。


「一日同じ事をし続けるのも飽きるでしょ?それに魔力を鍛えるのに体を鍛えるのは効果的だし。両方中途半端にはさせないけどね。という事で体を動かす前に頭を動かしましょうか」


 本を持ち外に連れられ、開けた所で魔法の勉強を始める。


「さて、ようやく魔力の制御を一応は出来るようになったし、その続きと魔法の使用をやっていきましょう」


「いよ、待ってました!」


 魔法が使えるとなると嬉しくなって思わず拍手をしてしまう。


「それでアンタとしてはどんな魔法が使いとかってあるの?」


 言われ、考える。どんな魔法を使いたいか・・・


 考えて答えが出た。


「傷を治せる回復魔法が使いたいな」


 それを聞いてリーナが意外そうな顔をするも、納得するように笑みを浮かべた。


「まぁアンタはそこが始まりだもんね。でも、回復の魔法は最初に覚えて行くのはオススメしないわ」


「どうしてなんだ?」


「回復の魔法は大きく分けて二種類あって、一つは自分の魔力を使って自分や相手の治癒機能を高める方法。これはアンタがこちらの世界に来た時に起きていた現象と大体同じね。もっとも普通はそんなに効果を発揮できないから、止血だけしたりとあくまで応急処置だけど」


 俺がこの世界に来た時に大きく腹を裂かれても勝手に治っていたのは、あくまであの膨大な魔力だからこそ出来ていた事で、普通の人の使える魔力ではそこまでは出来ないのだろう。


「もう一つは怪我をして失っている部分を魔法で作り直すことね。これは魔法の制御だけでなく、他にも色々と専門知識が要るわ」


 持って来た本の中から分厚い医学書を何冊か手に取る。


「当たり前といえば当たり前だけど、魔法による医療行為だって適当にやって失敗しましたなんて許されない。覚えなくてはいけない事が他分野で沢山出来てしまうから、一先ずは他の魔法を覚えていきましょうか」


 そうは言われても少しだけ食い下がりたかった。


「でも目の前で倒れている人を助けられるようになりたいんだ」


「アンタの気持ちは解ってるつもりよ。でもね、怪我を治すのは出来る人に今は任せておきなさい。誰か襲われている人が居たら、相手を倒して、応急処置だけ済ませて、助けられる人に運んでいく。それが出来る人になりなさい」


 その言葉に納得したように頷くと「よろしい」と笑顔を向けてくれた。


「それじゃあ何か魔法で作るものを思い浮かべましょうか。何でも良いと言えば何でも良いけど、やっぱり基本となる四大元素と言われる火、水、風、土のどれかが良いかしらね」


 やってみようと魔力の珠を作り出し、目を閉じて集中する。


「必要なのは強いイメージよ。アンタの中にある魔法のイメージを強く描きなさい。アンタの力がそれに応えてくれるから」


 魔法のイメージ・・・思い描いたのは俺の世界の物語での魔法のイメージ、そしてこの世界で始めて脅威だと感じた魔法のイメージ。


 それらが混ざり一つの形となった時、手から火が噴出し俺の顔面を焼いた。


「あっちいいい!」


 焼かれのたうつ俺を「何やってんだか」といった様子でリーナが水を作り出し助けてくれる。


 顔がチリチリと痛むが、逆に俺が作り上げた物の証拠に思えた。


「なぁ、リーナ!さっきの俺出来てたよな!」


 興奮して呼びかけるとリーナは少し驚いた顔をしていた。


「前にも言ったけどここで躓く人は結構多いらしいのよね、それを一発成功なんて結構センスあったりするんじゃない」


 リーナからの褒め言葉で思わず調子に乗りそうになってしまうも、そこをぐっと我慢する。


 ここで浮かれてしまってどうするのか。


「これを俺は使えるようにならなくちゃいけないんだよな」


「そうね、それじゃあその調子で魔法陣の作成の練習もしていきましょうか。魔法陣の文字がちゃんと機能するかも確かめなくちゃね」


 結果から言うと魔法陣の発動に関しては問題がなかった。


 魔方陣に書いてある文字を、俺が見えている日本語そのままで書いたとしても普通に発動した。


 リーナ曰く、この魔方陣に使われている文字は特殊な物で覚えるのが面倒との事だから、これは俺にとってかなりのメリットとなる。


 しかし、魔法陣の作成の練習を繰り返していくがこれが中々に難しい。


 空中の何も無い所にイメージを乗せるのがこんなにも難しいとは。


 簡単な形のものから練習するが、最初の内は歪な円にもならない物しか出来ず、何とか形にしても今度は時間がかかりすぎると問題点だらけだった。


 リーナからは「必要なのは精度とスピード」と言われた。これから長い反復練習となりそうだ。


 昼食を挟み魔法の練習を一区切り付け、次はレオに剣の授業をしてもらう事にする。


「人に教えたことは殆ど無いけど出来る限りがんばるよ」


 と言ってまずは走りこみに筋トレにと基礎体力の底上げから始めた。


 只管体を苛め抜いて俺がくたくたになった所で,、剣を持ち体の開きや剣を構える位置、踏み込む足の動かし方と、色々と教えてもらったが、疲れているのもあり中々頭に入ってこない。


「ごめん、リョウのペースをあんまり考えられてなくて」


 疲れ切った顔をしている俺を見てレオが謝ってくる。


「いや、俺が付いていけていないだけだから気にするなって」


 正直大分きつかったが強がって見せるも、やはりレオはそれに気が付いている。


「次からはリョウの為の練習も考えないといけないな」


「だから大丈夫だって」


「いいや、僕としてはリョウの頑張りは続いていって欲しいし、その為に僕も色々と考えなくてはいけないだけだから、僕にも頑張らせてくれないか?」


 そう言われるとこちらとしては何も言い返せなくなってしまった。


 ここはお言葉に甘えさせてもらう。


「じゃあこれからもよろしくな」と手を伸ばす。伸ばした手をガッチリとレオが掴み返して「ああ!」と答えた。


 日が沈みかけた夕暮れに宿に帰ると、ぐったりしている俺を見てリーナが笑っている。どうやら想像通りの姿だったようだ。


「リョウさん大丈夫ですか?」


 心配そうな顔でエイミーがこちらに来た。


「それがもう、レオに全力で苛め抜かれてさ・・・いやいや、冗談だから真に受けるなって」


 わざと辛そうに言うとレオがとても恐縮した表情を浮かべたので、あわてて否定する。


「それでもお疲れのようですので、少し疲れを取っておきますね」


 そう言って印を握り祈ると俺の体が光りに包まれた。


 疲れきって倒れそうな体が気持ち軽くなっていくような気がする。


「凄いな。こんな事も出来るんだな」


 驚いているとリーナが説明を挟んでくれる。


「回復系は魔法よりも聖職者の方が数段優秀よ。魔法は使われた方の体力を使ってしまうけど、聖職者の祈りは体力も回復できるしね。これからもしも誰か怪我をした時も、アタシとエイミーみたいな聖職者が居た場合は聖職者の方を選びなさい。まぁ運動した後の人に使うような物でもないけど」


 成る程、自分の力に自信があるリーナが言うのだから本当に優秀なのだろう。


 日が落ち夜になり、亡くなった村人達の葬儀が行われた。


 俺たちもそれに参加し、祈りを捧げる。


 葬式での別れが済むと村長は俺たちを夕食に招待してくれた。その笑顔は陽気に、強気に振舞っているように見えた。


 俺が壊した呪いの道具と思われるものは粉々に砕けており、出自や効果どころか元の形も判別しない状態で、呪いをかけた犯人も動機も結局解らなかった。


 農作物にも大きく被害も出ており、村の現状は悲惨と言っても過言ではなかった。


 それでも明るく俺たちに接してくれていた。


 その笑顔を救える方法は俺達は持っては居なかった。

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