2-1 無力感と嫉妬と願望と

 村は歓喜の声で包まれていた。


 敵に襲われ村が滅びようとした時に現れた英雄二人を称えていた。


 レオは村長からお礼の言葉を述べられている。


 リーナは怪我人を魔法で治して回っている。


 それを涼は横から見ていた。


 レオが出したボアフットの名前を聞いて村長が驚きの声を上げた


「ボアフット、聞いた事があります。北東の国フレージュで大きな被害を出している騎士だとか、私の名前で討伐の証明書を書きましょう。軍の拠点がある街へ持って頂ければ賞金が貰える筈です」


 そう言うと村長は書を書く為に早足で建物へと入っていった。


 村長が去った後でもレオを囲む人々は減らなかった。


「なんでレオ達ばかり」


 そうぼやく。


 自分の無力さを解っていても、自分とレオ達の行いの差を解っていても、どうして自分じゃないのか、どうして自分には何もないのか、そんな不満が生まれる。


 そう思っていると一人の女性が来た。捕えられていた女性だ。


「先程は助けていただき本当にありがとうございました。なんとお礼をすれば良いものか」


 深々と頭を下げる女性を見て、先程まで不貞腐れていたのが嘘のように調子に乗り始める。


「気にする事じゃありませんよ。俺が助けたくて助けたんですから。それに困っている人を助けるのは俺の役目です」


 そう言われ不思議そうな顔を浮かべている女性を気にせずに更に続ける。


「なんせ俺は異世界から来た勇者ですから」


 自信満々で話すと困惑した声で尋ねられた。


「それってどう言う?」


「言葉通りの意味ですよ、俺は異世界から来たんです。まぁ突然言われても解らないとは思いますが魔王軍が探している魔力、あれを出していたのも俺なんですよ」


 そう言えば信じて貰えるだろうとあの莫大な魔力の話を交えるが、返って来た反応は思っていたものとは違うものだった。


「本当に魔王軍が探しているのは貴方なんですか?」


「そうですよ」


「敵の注意を逸らす為の嘘とかではなく、本当にあの魔力を貴方が?」


「だからそうですって。俺がその魔力の中心に居た張本人です」


 そう答えると周りの村人達がざわつき始めた。


 村が滅びかけた原因の張本人が目の前に居る。だが助けて貰った恩がある。しかしまた敵が来るかもしれない。


 涼は村人のざわつきに戸惑いを隠せなかった。


 自分の言葉の意味を理解せずに村人に話しかけようとした時、リーナが割って入ってきた。


「すみません。アタシ達は旅のものでして、食料を買い次第ここを立とうと思っているのですが」


「あ、ああ君達は命の恩人だ。どれでも好きなだけ持っていってくれ」


「ありがとうございます」


 村人の言葉に笑顔で礼を述べるとリーナがこちらを引っ張って行く。


「なにすんだよ」


「アンタね、言ってる言葉の意味解ってるの!?」


 物陰に連れて行かれ怒鳴られる。


「なにがだよ」


「この状況はアンタが作り出したの、望む望まないは別にしてもアンタのせいなの。それを自慢げに話すなんて何がしたいの?」


 そう言われてようやく自分の行いに気が付いた。


 浮ついていた心が沈み、目に見えて落ち込む俺を見てリーナが少し言いすぎたかと声を掛ける。


「まぁ別にアンタが望んでこの状況を作った訳じゃないのはアタシ達は解ってる。村の人も村を助ける為に動いたアンタを心から恨んでいる人も居ないと思う。だからね、今はちょっと大人しくしてなさい。それが村の人達の為にもなるから」


 肩を叩き「あの戦いの中で女性を庇い続けたのは立派だったと思うわよ」と言い残しリーナは村へと戻っていった。


 日が暮れ始める頃、食料を調達し俺達は村を後にした。


 道中はリーナが場を明るくしようと色々と喋っていたがあまり内容は覚えていない。


 夕食の内容もそうだった、昨晩と違い夜空が暗く見える。


 朝起きるとレオが素振りをしていたので、何となくまた近くで見ていた。


 素振りが終わるのを見て声をかける。


「毎朝精が出るな」


「もう日課になってるからね」


 笑顔で答えてくれたレオに対して口が動いてしまう。


「あんなに強いのに毎日やってるんだな」


 それにレオが汗を拭きながら答えた。


「僕なんてまだまだだよ。昨日の敵もあんなに強かったんだから」


「そうか?あれだけ強いんだ、やらなくたって強いさ」


 頭の何処かで「止めろ」と思っていても口が動き続ける。


「あーあ、俺もお前位に強かったらなー。突然力が目覚めたり、お前みたいに才能あれば良いのになー」


 その言葉を聴いてレオが手を止めた。


「リョウは自分で何か努力をしようとか、そういう思いはないの」


 冷たく言われた言葉に思わずたじろぐ。


「い、いや、だって俺にはそんな才能ないし」


「……そうか」


 言い訳にもなっていない俺の言葉にレオは着替えを始めた。


「ごめん。なんか、俺ちょっと変みたいだ」


 自分が言い始めた事に情けなくなり、今更の謝罪を述べる。


「いいよ、気にしてない」


 そう言うレオはこちらを向いてはくれなかった。


 歩いていく中、俺とレオは言葉を交わさず、リーナが何かあったのかと双方に聞くもどちらも答えなかった。


 そんな空気の中、目的の町へと着いた。

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