気になるあの子の気になる人は。
「ジン、生物移動だって!」
「まじか。」
隣の席の山田が教えてくれた。
「だりーな。3階かー。」
「1階上がるだけだろ。じじいかよ。」
「うっせ。だりーもんはだりーんだよ。」
と言いながら教科書を引き出して立ち上がる。
「ジンいこーぜ!」
篠田も来た。
「ジンー!2限の数学ノート貸して!」
その後ろから島崎。
「あー?またお前寝てたのかよ!しょうがねーなガリガリ君で手を打つぞ。」
「サンキュ!ガリガリ君な。」
そんないつもの授業と授業の間の10分間の光景。
廊下の窓から体育館の渡り廊下が見える。
2年生が体育館から帰って行く。
あ。ナナ!
ナナが見えた。女子の友達と二人で話している。
穏やかな顔をしたナナ。
なんだよ。普通に話せるんじゃん。
「ナーナー!」
俺は声をかけてみる。
ナナが気づいてこちらを向く。
あ!ナナめ!!
一瞬嫌そうな顔をして、何事もなかったかのように歩いて行ってしまった。
「ジン今の子知り合い?」
後ろで見ていたミカと、チュッパチャプスをくわえたサヤが声をかけて来た。
「ああちょっと。てか、知ってんのあの子?」
「知ってるも何も、去年くらいに有名だったよね?」
ミカがサヤに言う。
「そーそー。うちの担任の三浦と付き合ってるって。生徒の間で結構噂だったし!」
ーーーーーは?まじ?
「でも三浦、結婚したし、最近は噂きかなくなったけど。」
「なんか大人しそうな顔してけっこうやんのね。て思わなかった?」
「思った思った!」
俺はなんだかちょっとショックだった。
ーーーん?
ショックって、俺ナナのこと好きなのか…?
いやいや。
きっとこの「ショック」は
ナナが俺以外には普通の態度だってことにショックなだけだ。
それだけだ。
それだけ。
昼休み。
俺はなんだかナナが頭から離れない。
ナナと??体操のお兄さん三浦???
ナナはあんなさわやか系が好きなのか?
いやいや噂だし。たまたま一緒にいたところが噂になったんだろ。
ーーー?まてよ。
三浦って英会話担当だから基礎英語の1年と接点なくね…?
「ジンー!3組のやつらとうちのクラス16人で鬼ごっこしようぜ!」
「おう!」
「ジン早くー。みんな待ってるー!」
廊下から呼ぶミカの声。
今日はナナもピアノ弾かないって言ってたし。久々に鬼ごっこして遊ぶぜ!!
男女16人で鬼ごっこ。最初の鬼は篠田とミカの二人。
俺たちの間で鬼は陸上部のゼッケン(どっからかくすねて来た)をつける。
みんな一斉に走り出す。男女容赦無く全力で逃げる!
〜〜〜〜〜
で、俺は結局中盤にだるくなって5階の音楽室にたどり着いた。
静かな5階の廊下。
音楽室の後ろのドア。
ーーーーー!?
ナナがいる。
いや、正確にはピアノを背にして椅子に座っているジャージ姿の男の前に、ナナが立っている。
間違いなくあれは。
あの後ろ姿は。
確実に
俺は隠れるように音楽室の後ろのドアから様子を見ていた。
会話は聞こえないが、ナナがはっきり見える。
うつむいて三浦を見つめているナナ。
その顔は明らかに女の顔だ。
俺に向ける表情とは全くの正反対。
頬が赤く、目が優しい。
眉間のシワもない。
口角はへの字でもない。
まるでピアノを弾くときみたいな、穏やかで恋するようなーーーーー。
!?
三浦の左手が、ナナの右頬のほくろのある位置へ伸びた。
結婚指輪が光る左手が、ナナの頬を優しくつねる。
ナナの表情は少し困った顔に見える。
その顔を覗き見るかのように三浦の頭が斜めに傾く。
俺の心臓はなぜかすごくドキドキしている。
学園ドラマの撮影を覗き見ている気持ちだ…。
三浦が椅子から立って、ナナの肩をポンポンと叩いて、ドアへ向かう。
ナナは去って行く三浦の背中をずっと見つめたまま動かない。
ーーーはッッ!まずい!
三浦と鉢合わせるじゃねーか…!!
冷静に考えれば何もまずくない。
でも見てしまったことをナナに知られたくない。
見られないために、ナナが俺に嘘をついたことは明白だ。
俺は焦って階段まで戻って、
今、5階に向かっている様に装う。
しばらくして三浦が来た。
「おーなんだ金井。」
「んあ、ちょっとなー」
偶然を装う俺。
いつもと変わらない三浦の態度。
「お前らまた鬼ごっこしてんだろ?生徒指導課の城島先生に俺が怒られんだからなぁー。」
「へいへい。肝に銘じまーす。」
俺は適当な返事をして音楽室に向かった。
後ろのドアから見えるナナはピアノを弾いていた。
聴いたことがある曲。
これは
『CAN YOU CELEBRATE?』だよな。
俺でもわかる。
でもなんかーーーー。
なんか。
音がぐちゃぐちゃに聴こえる。
おいおい。
乱れすぎだろ、らしくない。
この流れで、音楽室に入れず。
核心に迫る勇気もない俺は、
俺は後ろのドアに寄りかかって聴いていた。
俺は若干の放心状態。
途中で音が止まった。
ーーーー?
「ふ…。うぅ…。」
小さくてききもらしそうなくらいの嗚咽。
「ううぅ…。」
……ナナが泣いている!
「あぁ…。」
まさかのまさかのそのまさかだ。
事情はどうあれ、学力底辺な俺でもわかる。
入江ナナの好きな人は、
いや…三浦は結婚してるし。
あの噂は噂だろ?
でも俺が三浦だったら…。
気がない女の頬っぺた触るか…?
そんなことより俺。
なんでこんな胸が痛てぇの?
なんでこんなドキドキしてんだーーーー?
俺の心も頭の中も
ナナの演奏と同じ
ぐちゃぐちゃだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます