銀のムテ人 =第二幕=

わたなべ りえ

今までのおはなし

 銀のムテ人は、滅びゆく長命種族。

 霊山で祈る最高神官の尊き血を残すため、エリザは巫女姫として選ばれた。

 無機質な仕え人、厳しい霊山の掟の中、エリザは未熟さを露呈し、苦しむ毎日だった。

 ただひたすら、胸に秘めた最高神官へ恋心と、選ばれたのだという自負で、励む毎日だった。


 一見、完璧な最高神官サリサ・メル。

 実は、小心者の見掛け倒しで、エリザに恋をして選んでしまった、というとんでもない秘密を抱えていた。

 彼もまた、この霊山の縛られた生活に苦しみ、エリザという存在に癒しを求めていたのだ。


 二人は、密かに愛を育んでゆくが、所詮は制度で結ばれている・いつかは永遠の別れが待っている……という事実に、お互いの気持ちを確かめられないでいた。

 が、徐々に少年・少女から大人へと変わっていく間に、身も心も結ばれてゆく喜びを知り、やがて二人は「別れ」という未来を封印し、実際はありえない普通の結婚、その後の家庭を持つ夢に浸るようになる。

 巫女姫の仕え人であるフィニエルは、二人を応援しつつも、その後に不安を抱えるのだった。


 ムテの魔力を強める霊山の気の影響もあり、エリザは精神の均衡を保とうとして、無意識のまま、強い暗示の力を発し、様々な事件を起こすようになってしまった。

 想像妊娠騒ぎを起こし、その挙句、二人の愛の証である子供を産み育てている夢の中に逃げ込んでしまった。

 サリサは、夢の中へエリザを迎えに行き、現実に引き戻すことに成功したが、二人の秘密の逢瀬は、霊山の仕え人全員に知られるところとなった。


 その事実は、今まで死に絶えたように静かだった霊山の気に乱れを起こし、祈りの日々に、徐々に影響を与え始めた。

 そのような最中、エリザに月病みの年が終わり、巫女姫としての資格がなくなったことが判明、山を降りることとなる。

 エリザは、故郷に「癒し」という本来の夢を叶えることとなったのだ。


 いつかは訪れる日ではあったが、突然のことにサリサは動揺し、「祈り所でエリザは過ごせない」と熱心に訴えるフィニエルを押し切り、エリザを故郷には返さず、祈り所の闇に閉じ込め、五年後に再び巫女姫の任につかせることを決意する。

 その決断は、霊山の制度に最も沿っていたが、同時に、エリザを自分のものだけにしたい、というサリサのわがままでもあった。


 二人は愛を確かめ合い、別れた。

 サリサは先の最高神官が決めた掟を捨て、自分らしく生きる為に霊山の改革を決意し、エリザは愛を信じて厳しい祈り所の日々を乗り越え、再び霊山に戻ることを誓う。


 ……のだが。





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