くちびるは君色に染めて

カゲトモ

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「素敵なリップですね」

「え、あぁ、ありがとう」

 ニッと結ばれた唇には落ち着いたプラム色。赤いリップがよく似合うと思っていたけれど、サリナさんには深い色がよく似合うようだ。白い肌がより際立って見える。

「この間誕生日プレゼントでもらって」

「おや、そうだったのですか。それはそれはおめでとうございます」

「あはっ、またひとつ歳を取っただけなんだから、お祝いなんてしないでよ」

「どうかそんなこと言わないで。またひとつ歳を重ねられると言うことは、それだけでとても素晴らしいことなのですから」

「そんなこと言ってくれるの?」

「もちろんです。サリナさんがこの世に生まれて来てくれたことに、それからこの一年が素敵なものとなりますように」

 乾杯、と自分のグラスをサリナさんのグラスに近づけた。同じマルガリータの入ったグラス、俺のはサリナさんから頂いたものだ。

「ありがとう」

 今度はそう言ってグラスを傾けた。

 仕事帰りの出で立ちで来店したサリナさんはマルガリータを二杯オーダーすると『マスターも付き合ってくれない?』と突然言い出した。てっきりもう一人がすぐに来るのだと思っていたのに。

『一杯だけでいいから、ね?』

 そう言って片方を差し出した。

 たまにご馳走してくださるお客様もいるけれど、サリナさんからは始めてだ。まぁ、いつもアイハさんと来ていたし、一人で来店するのも初めてだから、ちょっと心細かったとか? 別に理由は何でもいいんだけど。

「マルガリータってこんなに美味しかったんだね」

「おや、初めてでしたか」

 二人が来店した時はいつも作っていたと思ったけど。

「アイハは良く飲んでいたけど、あたしはこれが初めて」

「そうでしたか、それは良かった」

 いつも一緒に来ていたアイハさんは、去年の暮れに結婚した。それからは一度も顔を見ていない。きっと新婚生活が忙しいのだろう。仕事は辞めないと話していたから。

「こんなに美味しいならもっと早くに知っていたら良かったなぁ」

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