第12歩目!「直談判!?」
昼下がり、一ノ瀬大学噴水前広場。
衣替えの時期で半袖を来ている学生も散見されるようになった。
物憂げに歩く一人の少女は地味なパーカーとジーパンに身を包んでいた。
「出町柳さん!話がある。」
「わ、私も!」
すっかり印象が変わってしまった百合を見て、少しだけ拓海と遥は驚いたが、すぐに百合だと気付き急いで呼び止めた。
「な、何よ。」
百合は慌てて表情を強めた。
「あのさ、良かったらウチの同好会入らない?」
「う、うん。あと私出町柳さんと友達になりたい。」
拓海と遥は少し緊張気味に語りかけた、特に遥は声が震えていて、拓海のTシャツを掴んでいた。
「何それ?同情?ふざけないでよ!あんた達と一緒にいるなんて絶対嫌だから!」
百合は一心不乱に走った。涙で前が見えにくい。私は本当に狡くて汚くて情けない。
そうしていると、自分より少し背の高い女の子にぶつかった。
謝ろうと顔を上げると最悪だ。最悪のタイミングで沙羅と遭遇してしまった。
「あ、久しぶりじゃない?何してたのよ。」
「そ、その...ごめんなさい。」
言葉が出ない。喉に引っかかかる。
「ま、アンタとの関係は終わりね。それじゃあ。」
「ちょっ!待てよ!それはあんまりだろ。別にデビューだって、オタクだっていいじゃないか!」
百合を追いかけた拓海は息を切らしていた。無理もない、最近は運動不足だ。
「は?アタシ別にそんな事で怒ってないわよ?」
「え?」
拓海と遥と百合、3人の声がハモる。
「あのねー、百合が嘘ついてた事にイラついてんのよ、いじめられた過去とかそんなのどうでもいい。嫌々合コンに参加してた事とか友達なら言えよって事、そんなにアタシ話しにくかった?」
ため息をついて、沙羅はどこか寂しそうに見える。
「それは、その...ごめんなさい。」
「あーもういい!何だかシラケちゃった。アンタ、サークルは抜けなさい。別に友達は解消しないわよ。でもアンタの居場所はアソコじゃない。じゃあね、次からちゃんとゼミ来なさいよ!」
やれやれと言った表情で背を向けた沙羅だか、スマホの着信を取り、「合コン!?行くいく!!」とすぐに走り出して行った。
沈黙を破るように拓海は開口した。
「とりあえず、場所変えない?」
ー
「マスター、店借りていいですかー?」
「あー、開店30分前には帰れよ。それからシフトの提出、頼むぞ。」
「拓海君、ここって?」
3人が入ったのは拓海のバイト先のバー。週3程度で拓海はバーテンダーのバイトをしている。白ひげを蓄えたマスターはそこそこ腕のいいバーテンダーらしい。
「その...ごめんなさい!本当に失礼な事した!」
百合は頭を深くさげ、平謝りした。許してもらえるかわからないけれど、とにかく謝罪するしかなかった。
優しく背中を叩かれたので顔を上げると二人は優しく微笑んでいた。
「うん。まぁあの時はかなりムカついたけどね。でももうやめにしよ。ウチの同好会入るでしょ?ね?遥。」
「うん。やっぱり私、出町柳さんと友達になりたい。せっかくオタク仲間なんだから。」
「どうして?そんなに優しくしてくれるの?私にあなた達と仲良く出来る資格なんて無いわよ。」
少し困ったような顔をして拓海はじっくり考える。
「いや、何だろう。なんでか分からないけどそうした方がいい気がしたんだ。実の所は俺もちょっと前までオタクの事引いてたからさ。そんなに人の事偉そうに言える立場でもないんだよね。」
「入学式の時の拓海君の顔引きつってたもんね。」
遥に茶化される拓海の顔は少し赤かった。百合はそれを見て拓海が遥のことを好きなんだろうと実感した。
よく考えてみてもいい答えの出なかった拓海は少し恥ずかしそうに頬を摩る。
「んー、まぁ結論を言うと俺がそうしたかったからかな!」
百合はピンと来た。
もうありのままの自分でいてもいいんじゃないのか。
「本当に私なんかでいいならよろしくお願いします。」
百合が震えて差し出した手を拓海と遥は力強く掴んだ。
裏でグラスを優しく吹いていたマスターは優しく微笑み呟いた。
「青春っていいね。」
少し大人で小洒落たジャズミュージックが店内を包んでいた。
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