第10歩目!「狂い始めた歯車」
ゴールデンウィークが終わり、通常授業が再開する。
講義堂には大勢の学生が勉学に励み...と言いたいところだが、生徒の数は疎らで五月病の煽りを受けていた。
しかしながら模範的な生徒である拓海と遥の二人は出席していた。
「はぁ。」
頬杖をつき、ため息を漏らす遥。見慣れない様子に拓海は恐る恐る質問を投げかけた。
「どうしたの遥?今日1日元気ないよね。」
「実は昨日でキュン恋が終わっちゃったの。キュン恋ロスで。」
「あ、なるほど。そういい事ね。ははは...」
拓海は拍子抜けと共にそっと胸を撫で下ろした。
「何だったと思ったの?」
「いやぁ、今日ゼミだから。アイツら嫌なのかなって。」
「あ、そうだった。はぁ。」
今度は机に突っ伏してしまった遥を見た拓海は己の失態を悔やみ、昼食を奢る事にした。ゼミナールは遥にとって心底、居心地の悪い場所だ。拓海は同性の友人が何人か出来たのはいいものの、遥は最初の授業の件もあり、女性陣とは険悪だ。
ー
ところが、二人が予想していた状況とは正反対、遥の周りにはゼミ生の女性陣が取り巻いていた。
「木津さん!前から思ってたんだけど可愛いよね!仲良くしてね!」
「ほんと、あの嘘つき女がこないだ失礼な事言ったわよね。気にしないで。せっかくゼミ友なんだしみんな仲良くしようね。」
「あ...うん。よろしくね。」
驚いた拓海はすぐに他のゼミ生に事情を聞いた。
「片山津君、これどういう事?」
「あー、何か百合ちゃんトラブったらしいよー。なんか合コンの場で暴言吐いたり、そんで高校時代の友人から大学デビューだってバレたらしいよ。そんな事よりさ、山城って遥ちゃんと付き合ってるん?」
「つ、付き合ってないよ。」
結局その日は出町柳 百合は現れる事は無かった。
自分たちにあんな失礼な態度をとった人間だ。拓海はざまぁみろと思う反面、百合の事が少し気がかりでもあった。
ー
4限であるゼミナールを終え、陽が落ち始めた放課後、遥は部室のソファに突っ伏していた。
「はぁぁぁぁ。疲れたよ。拓海君。」
「よく頑張りました!良かったじゃん、友達たくさん出来て。」
「うん、まぁね。なんかでも違うんだよね。拓海君みたいに落ち着かない。それに出町柳さんが可哀想。」
拓海はゴクリと息を呑む、これはもしかして、遥が自分の事を意識しているかもしれない。
「拓海、違うからね!遥ちゃん♡コイツはただのお人好しなだけよ。で、何があったの?」
大きな胸をプルっと揺らし、拓海に嫌らしい視線送る通称乳...凛子。
「凛子さん...実は」
一連の事情を話した拓海はハッとしたように、凛子とショッピングモールに出掛けた際、アニメショップから出てきた百合を見かけた事を思い出した。
「うむ、恐らくそれは大学デビューと言うやつだ。実に下らない。己の立ち振る舞いは自由だが、他人に対して無礼な態度をとる輩の事など気にするな。」
「私もそう思うわ。自業自得よ。それに遥ちゃん泣かした相手なんて絶対許せないわ。」
裕美は珍しく怒りの表情を見せ、凛子もそれに同調する。二人とも部員の事を大切にしているようだ。
「でもさ、大事なのは2人がどうしたいかだよネ☆2人はどうなの?俺っちはどんな決断でも尊重するよっ!キラッ☆」
光国はおどけて言うが、その言葉にはいつも核心を突く何かがある。
拓海と遥は目を合わせ、何かを共有したかのように頷いた。
ー
百合は自宅で好きだったアニメキャラのポスターをゴミと一緒にまとめていた。
「百合、明日は大学サボっちゃダメよ。せっかく大学入って友達できたんでしょ?いい歳して下らないフィギュアなんて捨てちゃいなさい。」
「うん。」
力の無い、返事をする百合の姿は高校時代の彼女の様だった。
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