34記憶の中

『これ、君のだろう。』


差し出されたストラップの付いた業務用の携帯電話を見て、

ハッとした。気付かれないように周りの様子を見た。

昔の夢を見ていた。

彼は、確か…


「珍しいな、疲れてんのか。どうせ毎夜姉さんに付き合わされてるんだろう。」

「気付いちゃいましたか、すみません。」

「構わないよ、着くまで寝てなさい。」

いえ、もう冴えてますと、膝にあるノートパソコンを開いた。

地図で所要時間を確認する。

「なかなか遠いですね。」

「霞ヶ関からなんてどこも遠いさ。」

業務用の携帯電話も今ではスマートフォンが支給されている。入ってすぐの頃は所謂ガラケーというものを渡された。

皆んなおんなじような機種だから分かりやすくストラップをつけていた。

姉妹三人でお揃いで買った、テーマパークの色違いのストラップ。

3つあって、どれにするか話し合ったとき、皆んなどれでもいいと言って、でもピンクは嫌だと私とハル子が言ったから、姉ちゃんのフユ子が何も言わずにピンクを使ってくれた。

何かと、お揃いを買いたがる一番上の姉は、両親がいない事を一番重く感じているのかもしれない。どんなカタチでもいいから繋がっていようとするのはありありと見えた。それは、姉に限らず、私も、真ん中の姉もそうたつた。

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