新入社員研修のエロ本の話

 新入社員にはしばらくの間、研修なるものが存在して、それはある種、学生気分を徐々に取り除いていく期間であったりもするわけだ。その期間は企業によってまちまちだと思うのだけれど、どうも、僕の働いている会社は研修が大好きなようで、半年ほど毒にも薬にもならぬことをやらされた。


 僕は働く気力が最初から無かったため、だらだらと研修しながらお金を貰える環境は嫌いじゃなかった。けれども反面、他の意欲的な同期の皆様は、早く働きたくて仕方ないらしく、出世したいやら第一線で活躍したいとか、僕はその情熱的な感情の熱気でくたばる寸前にまで追いやられたりもした。


 そんな高等な彼らとやる研修の中で、もっとも苦痛だったのがグループワークだった。

 グループワークとは読んで字のごとく、4~6人のパーティを組み、一緒に知恵と勇気を振り絞り、大いなる課題に立ち向かっていく壮大な物語のことだ。


 で、このパーティなのだけれど、どの班にもジョブが分け与えられ、そのジョブは主に3つあり、文系、理系、体育会系に別れることになる。

 ちなみに役職としては、


 ①文系

 進行役。なんか知らんがやたらリーダーシップを取りたがる。二人以上いると厄介なことになる勇者タイプ。

 

 ②理系:書記。無言でデータを取るのが生きがい。口が縫われたのかしゃべることはない。異常な眼鏡率。魔法使いタイプ。

 

 ③体育会系

 うるさい。やかましい。隙あらば部活の話をしだす。武道家タイプ。


 ちなみに僕は、なるべく邪魔にならないようにどうでもいい仕事して、みんなの意見を肯定するマシーンタイプだった。


 それで、グループワークをたくさんやってきたのだけれど、一番ひどいパーティ編成の時があった。

 魔法使い三人、武道家一人、僕、という編成。

 こうなると、必然的に進行役は武道家か僕どちらかがやるしかないのだ。もちろん僕はやる気がないので、結果的に武道家が進行係になった、


 しかし、これがなかなかに酷いものだった。

 

 武道家は部活をこよなく愛する人種なのか、とにかく合宿の話や先輩のしごき、はたまたプロテインの話をするのだ。話を聞いているだけなのにプロテインを飲まされた気分にさえなったほどだ。


 ちなみに課題は、新しい商品を提案するというシンプルかつ難しいもので、悲しいことに、このパーティ編成だとブレストなど出来たものじゃない。そもそも喋っているのは武道家だけだった。


 あーでもない、こーでもないと一人盛り上がっている武道家であるが、結局のところテーマは決まらない。ただ、時間が進み発表の日が近づくばかりだ。

 流石にまずいと、僕もいくつか案を出すのだけれど、武道家の正拳突きで潰されるのがオチだった。


 ある日、武道家がエロ本の話をし始めた。

 パーティの中には女性もいるのだけれど、彼のエロ本へのパッションは性別の壁を越えてしまうようで、でかい声でエロ本の話を楽し気にするのだ。


 今日も駄目だなと、半ばあきらめかけていた。ところが、急に彼はコンビニエロ本問題について話し始めた。


 コンビニエロ本問題とは、子供や女性、さらには東京五輪に向けての外人への配慮を考え、コンビニからエロ本を撤去するべきだ。とどっかの偉い方々が議論している問題のことだ。


 武道家はこの問題に目をつけ、クレーム対策できる商品を提案するというのだ。

 その気になる商品の内容だが、見る位置によって視覚を遮断できるシートというものだった。簡単に言えば、子供の身長ではエロ本の表紙は見えないけれど、大人の目線なら見えちゃう。というものだった。


 いや、それ導入するコスト考えたら、撤去したほうが早くね? とか、女性と外人から表紙見えるから意味なくない? とか思ったけれど、何故か女性陣には好評のようで反論する余地はなかった。何より時間がなかったから、僕も「それはすばらしい案だ」と賛同するしか道はなかった。


 そうして、ようやくパワーポイントで発表資料の作成へと移ることが出来た。

 すると、武道家はキャッチコピーを決めようと言い出した。なんでも、資料の1ページ目に大々的に載せて、アピールをしたいのだそうだ。

 

 もちろん、こんな提案をするのだから、彼にはとっておきの考えがあるようで、例のごとく正拳突きで提示されたキャッチコピーはこれまたすごいものだった。


 子供と女性に優しい社会を作ろう!


 僕は噴出しかけた。笑いをこらえるのに必死だった。

 さすがに勘弁してくれ、これを一枚目に出すだなんて羞恥プレイもいいところだ。だいたい成人男性には厳しい社会でいいのだろうか。


 しかし、これも女性陣に好評だった。僕も首肯せざる得ない。


 結局、発表は散々なものだった。

 もちろん、あげていった問題点を突っ込まれ、グループ内は微妙な空気が流れたままパーティを解散することとなった。


 武道家はいま何をしているだろう? きっと、彼なら成長してエロ本の撤去を阻止できるに違いない。

 もし、コンビニのエロ本にみょうちきりんなカバーが被っていれば、きっと、武道家の成果だ。頑張れ武道家! 負けるな武道家!


 ちなみに、今年の1月にイオングループが全店舗の成人向け雑誌の販売を中止したそうだ。くそう、間に合わなかった!


 

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