第22話「夢のカーチェイス。」

古場と夢橋が戻ろうとしたとき、


「あれ、下田さん?」


会議室から出てきた下田と鉢合わせた。


「夢橋さん、古場さん、、。」


ビクッとして二人を見た。


「どうしたの?」


「あ、眠れなくて少し外の空気を吸ってこよう、かなって。」


「そう、長居しないようにね」


夢橋はそう言ってすれ違い、会議室へと戻っていった。


古場もそれに続く。


扉を閉める時、デッキの入り口の通路の下田が見えた。


「ん?」


デッキ入り口からの月明かりに照らされ、古場は下田の手に黒い四角いものが見えたような気がしたが、


「亮、何やってるの?」


という夢橋の言葉にその疑念はかき消されてしまった。






______翌朝。


結局あまり眠れなかった古場は薄いながらも太陽光を浴びながらあくびをしていた。


「もう8時か、、。」


植草はまだ来ていない。予定では本日の午後までには到着するという話ではあったが古場は不安だった。


そもそも父親を説得し無理やりここに来ることなどできるのだろうか?


そんな疑問が頭の中を駆け回る。


隣の山中も同じ思いではあるのだろうが口にはしようとせず、その代わりに


「金田さん、大丈夫かな?」


と言った。


昨日倒れた後結局一度目覚めたものの頭痛と半身麻痺のせいでまともに動けず寝たきりだった。


無理やり動こうとする金田に山中は、


「今は俺たちに任せてください。治ったその時に俺たちを助けてください。それでも遅くはありません。」


となだめたのだった。


「大丈夫だと思いたいが、いったい何なのか金田さんが知っていても教えてはくれなさそうだし、そもそも金田さん自身が具体的に状況を把握しているのかも怪しい所ではあるな。」


「確かに、今思い出したけど、この間俺の家にいたときに金田さんの手が痙攣みたいなのしてたな。それをごまかしたんだから多分どうにかなると思ってたのか、隠したのか、、。」


「そういやそんなことあったな。」


古場には金田が強がりであるということは分かり切っていた。だからこそそんな行動をとって隠していたとしてもなんら不思議はなく、だからこそ早めに聞いておくべきだったという後悔もあった。


「とりあえず希さんに逐一確認しとけば大丈夫だろ。」


そう言う古場を山中はやはり驚いた目で見ている。


「お前ってほんとお人好しだよな?」


「それは、いい意味か?悪い意味か?」


「、、両方、だな。」


山中は笑って肩をすくめる。


「でも多分、あの人は、いい人だ。まぁ本当かどうかは何とも言えんが。」


「そうか、お前がそういうなら俺もあの人の事を信用するさ。やけに怖いけどな。」


そんなことを話していた時自動ドアが開けられる音がした。


「か、金田さん。寝てなくていいんですか?」


古場には少しばかりふらついているようにも見える。


「ああ、とりあえずは問題ない。恐らく激しい運動を急激にしなければ問題ない。すまんな。」


「気にしないでくださいよ、俺たちは仲間としてやってるんですから。」


金田は少し汗をにじませながらも笑う。


「やはりまだ来ないか?植草は。」


金田は古場を見て言った。


「ええ、まだ。予定では今日来るとは思うんですが。」


「なら荷物の準備はしておけよ。あとヘリの音で感染者がその方向へ行く可能性もある。その場合の対策も考えないといけない。」


「それなら車を使いましょうよ、俺がやったみたいに。」


山中は滑走路の遠くで未だ何かに群がる感染者達を見ながら言う。


「しかしそれでは誰かが囮にならなければいけない。却下だ。」


金田はばっさり切り捨てた。


「だからといってあの焦げたフードコートみたいにうまくいくんですか?あれは感染者達の動きを誘導できたからこそできたものでしょう?」


「まぁ、それは否定はできないが、車で誘導なんてな、、。」


金田は腕を組み唸る。


そこへ下田が伸びをしながらデッキへやってきた。


「ああ、皆さん。おはようございます。どうしたんですか?こんな時間に集まって?」


「未歩ちゃん、それが、、、。」


問題点を山中が下田に説明をすると、


「じゃあ、車で誘導するんじゃなくて、車で轢いちゃうとかはダメなんですか?」


と首をかしげながら言った。


「え?」


三人が呆気にとられて下田を見つめる。


「え、って。感染者達をひいちゃえば誘導する必要も無いんじゃ、、?」


「いや、いやいやいや。そこじゃなくて、、。また大胆な、、。」


金田でさえも半分引いている、車でではなく。


「だってだれがやるのさ?さすがに人を轢きながら運転できる人間なんて、、。」


「ワタシたぶんできますよ?」


その言葉に場の空気は再び凍り付いた。


「え、どうして、、?」


「ワタシ実は運転が凄い得意なんです。実は父の仕事の関係で違法ですが車によく乗ったので。」


どんな仕事かという質問を古場は飲み込む。


「轢く、というよりはかすめさせる、という言い方が正しいと思います。確かに何かに乗り上げながらアクセル踏んでもうまく走れないのでニアミスでうまく倒せれば行けると思います。」


三人が絶句しながら顔を見合わせる。


その表情は驚愕なのか、呆れなのか。


数時間後、下田の言うことが本当か確かめるために空港の滑走路の感染者達から離れたところで検証をすることとなった。


「あなた達はどうしてそう毎回ぶっ飛んだことをしようとするのかしら、、。」


夢橋はこめかみに手を当て首を横に振っている。


「誘導ではなくまさか吹っ飛ばすという作戦は俺たちが出したわけじゃないですよ、、。」


山中は半分自棄になりながら下田が自分の父の車に乗るのを見ている。


「内の親父が聞いたらどう思うんだろう。車で感染者をニアミスで吹っ飛ばしたよって。」


「多分お前が病院に連れていかれるだろうな。こっちの。」


古場はそういって頭を人差し指で叩く。


「それは勘弁、黙っておこう。」


両手を小さく上げて山中は笑う。


エンジン音が聞こえ下田がアクセルを踏んだようで車は前に進みだした、のだが______


いくらか加速した段階で車はマフラーから薄い白煙を吹きながら、キュルキュルとタイヤと地面がこすれる音を辺りに響かせながら180度ターンをし古場達のもとへ戻ってきた。


それをいくらかの方向で何回か試し、10回を超えるころには下田は車を手足のように操っていた。


「おい、悠介。」


「なんだ、亮。」


どちらも感情の籠らないまなざしであっちこっちへ動く車を追いながら口を開く。


「俺は夢を見てるのか?」


「奇遇だな、俺もそう思ってたところだよ。」


「よかったな悠介、もしお前の親父さんがタイヤを見れば納得してくれるかもしれないぞ。」


「ああ、でもそれ以前にそれをやっているのが俺の年下の女の子と言ったらまた病院だよ。」


最早金田に至っては半分口を開けながら呆然としている。


「金田さんがさっきから口を開いていなようだけれど、、?」


夢橋もあきれ顔をしながら二人に言う。


「俺たちって、こないだまで死にそうだったよな?」


「ああ、死の淵にいて泣き出しそうだったな。」


「どうしてこうなってしまったんだ?どこかで道を間違えたか?」


「強いて言えば間違ったのは下田さんに検証を許したところだろうな。」


車を近くに止めて下田は出てきた。


「多分これなら余裕だと思います。感染者をまず転ばせて空港の端まで行き、小さなターンを繰り返してある程度の感染者を転がします。それで一気に加速して植草さんのヘリに乗れば大丈夫で、、てあれ?」


下田は感情の抜けた目をする4人を見て戸惑っていた。




「とりあえずふざけているようだけれど実行可能な策がこれしかなさそうね。」


その後会議室に戻って話し合いをしたがうまいこと案は出すことが出来なかった。


そうして午後になる前には準備が整い、古場がリュックサックを背負う頃に頭上からとある音がしてきた。

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