第16話 異世界について

 オーブが風真を放置して紫依に訊ねる。


「他に質問は?」


「あの、私のあふれた力はどうなったのですか?隠れ里は無事ですか?」


 やっと本題が出たと思ったオーブは朱羅を指さして答えた。


「朱羅があふれた力を吸収した。あの辺の土地に目立った被害はないよ」


 その説明に紫依が慌てて立ち上がり朱羅に駆け寄る。


「お体は大丈夫ですか!?手足や指が吹き飛んだりしていませんか!?目はちゃんと見えていますか?内臓は損傷していませんか?」


 可愛らしい顔には不釣り合いな残酷発言がさり気なく入ったが誰も何も言わない。

 オーブは何も聞かなかったことにして紅茶をすすり、風真は視線をそらしてクッキーを口にした。


 一方で、残酷発言した本人は朱羅の指が五本あるか必死で確認しており、確認されている側は黙って紫依の好きなようにさせている。

 紫依は手足の指が全て揃っていることを確認すると、勢いもそのままに朱羅の瞳を覗き込んだ。そこで、動きが止まる。


「どうした?」


 朱羅の問いかけに紫依が首を傾げながら答える。


「瞳の色が違うような気がするのです。力があふれたとき……あの時は……水色、というかアイスブルーだったような……」


 その言葉にオーブが少し朱羅を睨んだ後、笑顔で紫依を見た。


「頭が痛いとか、何か思い出したとか、変わったことある?」


 質問に対して紫依が無表情のまま首を横に振る。


「頭は痛くありません。特に思い出したようなことはないです。そもそも何を思い出すのですか?」


 無表情で感情が見えない紫依にオーブが少し困ったように笑った。


「とりあえず、順番に説明するよ。まずは、こいつの瞳についてね。こいつの瞳は特殊で紫依も見たっていうアイスブルーの瞳。あの瞳は相手と目を合わせるだけで、相手の深層意識にリンクすることができるんだ。相手を操ることもできるし、記憶を引き出すこともできる」


「では、それで私の記憶を?ですが、私は思い出さないといけない記憶が思い当たりません……」


「そこは、これから説明するよ。ただ、あまりにも現実離れしているから信じられないかもしれないけど、いい?」


「信じるも信じないも、お話しを聞いてからでないと判断できません。まずは、お話ししていただけませんか?」


 紫依の意見にオーブが意外そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。


「じゃあ話すよ。そもそも、これが今回襲撃された原因でもあるんだけどね」


 そう言ってオーブが隣に視線を向けるが、朱羅は優雅に紅茶を飲みながらクッキーを食べている。


 まったく話す気がない様子の朱羅に、オーブは肩をすくめてから説明を待っている二人を見た。


「簡単に言うと、この世界とは違う異世界での話だ。向こうの世界はこの世界よりずっと科学が発展していて、そこには神と呼ばれる存在が全てを支配、管理している。そして、オレたちはその神と戦っているんだ」


 オーブの言葉に紫依が思わず言葉を挟んだ。


「神と戦うのですか?」


 自然を信仰して精霊や土地神とともに生きてきた紫依にとって、神と戦うということは信じられないことであり驚きの内容である。だが顔は無表情のままで、その驚きは伝わりにくい。


 オーブが軽く手を横に振りながら説明を続ける。


「神と言っても、この世界の神とは存在理由や成り立ちがまったく違うよ。ヒトの維持、管理が主な仕事で、ヒトが造った人工物だ」


「神を……人が造ったのですか?」


「そう。そして神は世界の秩序を守るために、自分に害なす者は徹底的に排除する。けど、どんなに排除しても神の考えに同意できないヒトはいる。そんなヒトたちが集まり独立軍ができた。そして何百年と対立を続けている」


 その年数に風真が軽くため息を吐いた。


「気の長い話だな」


「対立っていっても神に攻撃する手段がないからな。お互いに反発しあいながらも静観している状態だったんだ」


「どうして攻撃する手段がないんだい?」


「そもそも武器がない。いや、武器を作るという発想がない」


「は?どうして?」


 そこで今まで黙っていた朱羅が説明に入った。

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