第7話 対戦

 侵入者を撃退するために森の中を三人一組で動いている人たち全員が狼煙を確認した。そして、三人一組の中の一人が数枚の札を取り出して呪文を唱え出した。暗闇と木の陰で侵入者の姿は見えないが、草を踏む音で位置は把握している。


 そこに今度は色が違う狼煙が夜空を駆け抜けた。


 各地で呪文を唱えていた人たちが一斉に札を投げつける。札は侵入者に張り付き、暗い森の中で白い札だけが浮かんでいるという不気味な光景がいたる場所で発生した。


 札を侵入者に投げつけた男が仲間の一人に声をかける。


「これで侵入者が何者であろうと動けない。早く捕縛を……」


「わかっている。すぐに終わらせ……」


 と、そこまで言って仲間の男は絶句した。白い札を付けた侵入者が今までと変わらない速度で歩いているのだ。


 そのことに気が付いた男が叫ぶ。


「は、早く結界で捕縛しろ!ダメなら術を使え!」


 札を投げた男の言葉に応えるように、仲間の男が念を込めながら言霊を飛ばすが、侵入者の動きは止まらない。


仲間の男は顔を青くして叫んだ。


「こいつらには結界も術も効かない!なんだ、こいつらは!?結界も術もすり抜ける!魂がないのか!?」


「まさかっ!?」


 取り乱す男二人に対して、木の上に身を潜めていた三人目の仲間の男が冷静に言った。


「ならば直接攻撃するまでだ。おまえたちも攻撃方法を切り替えろ」


 三人の中で指揮官役の男が弓を構えて照準を合わせる。


「凍れ!」


 札が付いた矢を男が放つ。矢は目標物に当たったが、突き刺さることはなく弾き飛ばされた。一応、矢が当たった場所には小さな氷塊が付いているので札の効果はあったらしい。だが、それだけで侵入者の歩みに変化はない。


「くそっ!」


 侵入者がゆっくりと月明かりの下へ出てくる。


「何者だ?」


 緊張した男たちの視線の先にいたのは、肌色一色の目も口もないマネキンだった。

一定の間隔で淡々と複数のマネキンが歩いてくる光景は不気味だが、妖怪や幽霊など異形のモノを相手にしてきただけあって三人の男たちに動揺した様子はない。


 指揮官がどう対処するか考えていると、マネキンたちが右手を男たちに向けた。


「なんだ?」


 男たちが右手に注目すると、手は一瞬で機関銃に変わった。


「退避!」


 指揮官の指示と同時に銃声が響く。男たちはバラバラに木陰に隠れると、そっとマネキンがいる方を覗き見た。


「どれだけいるんだ……」


 木々の隙間から満月の光が降り注ぎ、マネキンの肌が光を反射している。その数は見える範囲だけで十数体。それが屋敷を目指して、ゆっくりと歩いてきている。


 指揮官が侵入者には聞こえないように二人の男に念話で話しかけた。


『敵の数が多すぎる。罠に誘い込んで一網打尽にするしかない。各人、できるだけ敵を罠のところまで連れて来い。場所は東の八だ』


 指揮官の指示に二人の男が頷き、素早く散った。


 マネキンからの銃撃を避けながら、それぞれが囮となって数体のマネキンをおびき寄せていく。その途中で、術を使って火や風など様々な攻撃をしたが、傷一つ付けられなかった。


 こうして男たちは三人で十数体のマネキンを罠がある場所に集めた。二人の男が罠の付近でマネキンとの距離を計っていると指揮官の声が響いた。


「離れろ!」


 指示通り二人の男が頭上にある太い枝に飛び移ってその場から離れる。


 二人が離れたことを確認した指揮官は小刀で近くにある縄を切った。すると仕掛けられていた罠が外れて、マネキンの足元が崩れた。

 落とし穴の下には鋭く尖った竹槍がそびえ立ち、頭上からは大小の岩が容赦なく降ってきた。そして、とどめとばかりに時間差で札が落とし穴の中で爆発して、岩で蓋をされた落とし穴から黒煙が上がった。


 相手への配慮が一切感じられない罠は、相手が人間や獣であれば即死するぐらいの威力がある。岩は隙間なく落とし穴に入り込み、動くものはなく静寂が周囲を包んだ。


「よし、次の場所に……」


 と、指揮官が言いかけた時、小さく岩が崩れる音がした。その音を敏感に拾った男たちがかまえながら振り返る。そこに光線と今までにない大きさの爆発音が響いた。


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