桃太郎

kaph

第1話 プロローグ

「……っ!」


 一組の男女が武器を交える。はたから見れば、それはダンスのように見えるかもしれない。ただしそれは男にとっては失敗の許されない緊張感のある、しかし、女にとっては退屈でつまらないダンスだが。


 男は息をつく暇もなく横へ飛び転がっていく。動きを止めた先に待っているのは、死。女によって振るわれる一太刀が、己の命を奪わんと迫ってくる。男は、己の得物であったそれで時に受け流し、時に回避することで躱していく。


 男の技量も相当なものだが、それでもやはり疲れがたまっているのか攻撃の隙も見い出せずに、少しずつ後退していく。


 対して女は、刀を縦横無尽に振るっているにも関わらず、疲れている様子は微塵もない。むしろ、刀を振るうスピードは先程よりも増している。


「ふむ。どうした?もう後がないぞ?」

「…………」


 見れば、男の後ろは崖になっており、数十メートル下には川が流れている。左右は壁に囲まれており、まさに絶体絶命。どうやらいつの間にか男は誘導されていたようだ。


「もういい加減、諦めよ。貴様が余に勝つことはできん。」


 女はとどめを刺さそうと、男との距離を詰めていく。男は少し考える素振りを見せた後、何かを決意したように顔を上げた。


「……俺は、あきらめが悪いんでな。こんなところで死ぬわけにはいかないんだよっ!」


 女は最後のあがきかと思い、迎撃する構えをとった。しかし次の瞬間、男は女の方ではなく、つまり崖の方へ走り、そのまま崖下へ飛び降りていった。


 女はその行動に少しだけ目を見開くが、すぐに後を追って崖下を確認する。しかし、男の姿は見当たらない。隠れられそうな場所もないため、どうやらそのまま川に飛び込み、流されていったようだ。


「…………所詮は人の身、といったところか」


 女はわずかにその顔を歪めるが、すぐに元に戻し、踵を返して去っていった。




________東廷歴603年。これは、運命に抗う者の戦い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桃太郎 kaph @kalpha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ