路地裏の人形劇

散々外回りした日の夜の一杯は、この上なく上等な飲み物を胃に流し込んでいる気がするが、単なる缶ビールである。


「私は目が悪くてね。最近は専らラジオを聞いとるよ」


その目玉をくり貫かれた、どこか西洋風の色を醸し出す人形は、背中から伸びる紐を引っ張るとそう同じ台詞を繰り返す。

壊れた機械のように、錆び付いた歯車のように、ゆっくりとだが、動きを感じとることは出来る。だが、子どもたちに散々遊ばれ続けたその胴体には無数の傷と黄ばみがあり、とてもじゃないが、現代っ子が遊ぶ玩具ではないだろう。


「あー、そうですね。いやあ、知ってます?最近のスマホゲーム。無料でも結構面白いやつが多いんですよ。私なんかも目を悪くしてしまいましたよ…。いや、これはこれは失敬」


どこの住みかでも、独居人形はおしゃべりが多い。たまに外回りに来るリーマンと話したがる人形は多いのだ。

人形劇の芝居に捕まると、あっという間に時間が過ぎる。


「そろそろお暇しますよ」

「ああ、私は目が悪くてね…最近…は…」


その人形劇はネクタイを結び直す仕草とともに街の喧騒へとどこか寂しく消え失せていく。

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