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「不思議でも綺麗でもなく、怖くも楽しくもない。その辺の石ころみたいにどこにでも転がっているような話」

「そのお話、私に教えてもらえますか?」

「面白くないですよ?」

「それを決めるのは読者ですよ」

「ふふふ、そう、そうかもしれません。そうですね、タイトルはこのカクテルと同じ、スイートメモリーにしましょうか。ちょっとキラキラし過ぎているような気もしますが。まぁある意味、僕にとってはキラキラしていましたから、丁度いいかもしれません。主人公はごく普通の男で、凄く楽しいことも凄く苦しいことも特に経験せずに大人になったような人間です。そんなしょうもない男がある日、天女に出会うんです。この世のどんな美女よりも綺麗で素敵で、男には手の届かないような高嶺の存在でした。でも神様はとても気まぐれで、その男と天女を出会わせてくれたんです。出会うことのできた男と天女は仲良くなりました。けれど」

「けれど?」

「天女と男は一緒になることは出来ません」

「おや、どうしてですか?」

「天女と人間の男では存在が違うからです。愛を囁き合っても、肌を重ねても帰る場所が違うから。だから男は天女と一緒になれるように努力しました。仕事も頑張り、容姿も天の世界に近づけることが出来ました。出来ましたが、やっぱりどうしても一緒になる事は出来ません」

「男はどうしたのです?」

「男は・・・男は全て捧げて天女を迎える事にしました。自分の全てを賭けてでも一緒になりたかったから・・・」

「・・・そのラストは?」

「天女は男の手を放し、最後に罪作りな微笑みだけを残して天へ消えました」

「男は最後、どうなったのでしょう?」

「一人、この世界に取り残されてしまいました。今はどうしていいのか分かりません。ただ思うことは」

「思うことは・・・?」

「どうかこんなにも天女を想った自分の事を忘れないで欲しい、と」

 空になったグラスに零れたのは一筋のメモリー。それは緩やかに曲線を描いて、すぅっとコースターに吸い込まれてしまった。

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