第77話・Destino

 冷や汗を流しながら、多摩は普段の溜まり場であるBAR[T&S]に呼ぶ人物達の名前を思い浮かべる。長谷寺 紫陽花、高山 晃一、九埜くの 真日留、セラフィーノの存在がピックアップされた。彼等は、この世界ページの住人たちにとって、史上初にして最大級のイレギュラーなのだ。長谷寺に関しては、せかいの創造主でさえ手を焼くほどの人物なのだから、それを踏まえて誰もが彼等を知りたがっている。いくら命を危険に晒すことには慣れていると言っても限度がある、彼等はそこに立っているだけで危険なのである、厄介な出来事に巻き込まれる事態を避けるため、敵に回さずに済むよう動くためには何が必要なのか、早急に更なる情報収集をする必要があった。


 長谷寺が起こした[校舎崩落事件]から二日後、金曜の夜を迎えたBAR[REI]に、多摩がリストアップした四人が集まって既に五時間、彼等は─というより主に長谷寺が気持ちよく酔って直近の殺しや盗みについて、声をひそめる事なく明るく楽しげに話していた。九埜は、そんな彼の話に相槌あいづちを打ちながら、時折ふと思い出したように[処刑人]として刑を執行した、何処どこの誰とも分からない存在の話をはさんではわらっていた。他の客も大勢いる、自分たちは何も知らないとわんばかりに、その一角だけを視界から外して只管ひたすらに仕事をしているのは、酒城兄弟である。


 迅も透も流石さすがに学んだ、このたった二日間で、家族を殺された者が復讐する為に来店していたのだが、帰ってきた長谷寺へ殺気を向けた途端、可哀想な復讐者の身体は真っ二つになった。高山が持つ底無しの彼への執着心を利用して味方につけようとした者は、それが気に入らなかった高山自身の一蹴りでミンチになった。九埜に色目を使った客達は、セラフィーノが操る轟々ごうごうと渦巻く風のやいばによって、何千枚という数に横へスライスされてしまった。そして店で起こった、この全ての後片付けをしたのが迅や透だったのだ。


彼等の残酷さや強力さは広まっているはずであるのに、そう二人は考えたが、暗黒街よりも学園都市の中心部に住む、限られた情報しか得られない人間たちなら、こういう事態にしかならない事を知らないだろうという結論に達した。わざわざ危ない場所にやって来て、弱肉強食の世界に飛び込んだ事を知らず行動する。そこまで自分たちが世話をしてやるすじもない、この一帯を縄張りとしている彼等からすれば同じ学園都市内に住む者ではあるが、単なる余所よそ者だ、それが兄弟の答えだった。


 この場にいる客たちは毎日飲みに来る[REI]の常連ばかりだ、近場に住んでいる者が殆どであるから、密かに四人の話を聞きつつ手帳に書き込みながら酒を飲んでいた。この五日間で[REI]で得た情報を売ることを生業とする者も出始めている。黒腕だけは彼等がくる前も後も変わりない客のままだったが、今日はこのあとの予定に乗る気でいる。九埜が何杯目か分からないカクテルを注文しようと、カウンターのほうへ上体を向けたとき、丁度ドアが開かれベルが鳴った。四人以外の表情が凍りつく、身動きも出来ない、そこに居たのは[BillyBlack]ボスの側近中の側近、暗黒街や、その付近に住んでいる者なら知らぬ者はいない、多摩 靖樹だ。長谷寺は彼の姿を視界にとらえると満面の笑みで立ち上がって駆け寄って行くが、九埜とセラフィーノは状況をよく理解していない様子で小首を傾げている。多摩は、自分の元へ駆け寄ってきた長谷寺に柔らかな微笑みを向けると、一礼して口を開いた。


「お迎えに上がりました、紫陽花さん、晃一さん、九埜さん、セラフィーノさん」





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