第75話・多摩 靖樹

 嵐堂学園は、この巨大な学園都市の中で随一の暗黒街との繋がりを持っている。D組の生徒のほぼ全員が卒業後に、相川組傘下の様々な組織に所属することが決まっているのだ、現時点で組織下に属している者もいる。勿論、それ以外のマフィアやカルテル、ギャングに殺し屋、物騒極まりない人生を歩む彼等。今の彼等はクラスメイトという関係性で繋がっている者が多いが[BillyBlack]に所属できるほどの地位に登り詰めるまでは敵となる事もある、嵐堂学園卒業者同士が互いにしのぎを削り、学園は常に暗黒街と直結しているのだ。多くの組織の上層部員で構成されている[BillyBlack]のボスは、学園の生徒でもある斎賀 忍だ、そして彼にも暗黒街に顔のく独自のコネクションがある。だからこそ[BillyBlack]は巨大学園都市を囲うように点在する暗黒街を牛耳っていられる。[BillyBlack]傘下に入るまでには、友や親しい者、恋人や家族を失う者も当然いる、山のように。それでも彼等は[BillyBlack]を裏切らない、それがどれほど恐ろしい事かを知っているからだ。忍の立場を正確に理解していない生徒でも、彼等にとっては嵐堂学園生徒を牛耳るボスである。普段から俺様丸出しなボスの忍が、比較的フランクな話し方をしている事にクラスメイトたちは驚いた。


(コイツら…どんだけ生きてんだよ…)


 生徒の一人がスッと手を挙げたのを見て、長谷寺は何故か嬉しそうに笑むと、その生徒へ向かって指を差す。高山は馴染み深い彼の笑顔を目にすると、ヤレヤレといった様子でわずかに頭を横に振った。その笑顔は、高山が離れていたかすかなすきに長谷寺が間違えて、どこぞの書店から盗んできていた[良き教師になるための10の心得こころえ(小学校編)]という本に載っていた事を実行している姿だった。ストラーナにせがみ、簡単な翻訳ができる翻訳用プログラムが組み込まれた携帯端末を、長谷寺は手に入れていた。それを活用して本の内容を、かなり雑に、かつ物凄い都合の良い解釈でもって記憶に焼きつけ今に至る。意見のある生徒は手を挙げる、教師は生徒に分かりやすく意見を言える場を与える、間違いではない。が、長谷寺のソレはどうやっても[ごっこ遊び]の域を出ることなど無いだろうと、高山は確信しているのだ、それでも彼が楽しいならいだろう位の認識だ。


「はいっ!そこのっ!…えーと…あれ?多摩ちゃん!?」


 手を挙げたのは長谷寺や高山と同郷の魔物、[BillyBlack]の幹部であり、忍の側近、そして黒腕 飛鳥の親友、多摩たま 靖樹やすきだった。長谷寺の驚きように苦笑を浮かべると、覚えてくれていたのかと安堵すると同時に、久しぶりに会ったというのに相変わらずの人物だと彼は感じた。多摩 靖樹、彼はまだ物心がつくか付かないかの幼い頃に、黒腕 飛鳥と共にストラーナの人体実験の被験者となり、その副作用で色々と便利な身体になってしまったのだ。多摩は、黒腕とは違って寡黙で、失われてしまってしまった忍の左眼としての役割に徹している。言うまでもなく、黒腕よりも遥かに忠義心や側近としての心構えや役割に徹しているが、彼は知っているのだ。幼い頃から共に育ち、訓練を受け、ストラーナの訳が分からない実験にも積極的に参加した、黒腕と彼は盟友である、地獄や修羅場を共に乗り越えて今ここで生きている。そして、彼等が辛い思いをしていた時に、いつも側で優しく微笑んで甘い飴をくれて元気づけてくれていたのが長谷寺だった。その時の事を、彼等は忘れない。





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