第60話・処刑人の称号

 彼等にとって外敵を排除するのは当然の事ながら、裏切り者を死で裁くのは、さらに必要不可欠な事だ。それは見せしめでもあり、組織にとっての自戒の意味も込められているからだ。しかし、時折その行為が更なる裏切り者を生み出す事もあるのが、実態だった。ならば都市伝説に登場し、誰もが知る恐ろしい[黄昏の魔女]に[処刑人]という称号を背負って貰えれば、裏切り者を禁域区に行くようみちびき[処刑人]の手によって殺害してもらい、その亡骸なきがらは目立つ場所に晒してもらう。[処刑人]には裏切り者の近親者たちからの恨みを一手に負わせる事になるが、何か必要な物があれば、必ず手を貸すという契約を結ぶ。これが了承されれば、それぞれに組織を牛耳る者達にとってこれ程に有難いことはない。その説明を聞いているうちに、少し機嫌を悪くした様子のセラフィーノが、九埜より先に言葉を発した。


真日留まひるに、人間共の恨みを浴びせるのか」


 低く地を這うような声音こわね、今までは、やりたいように自分達の判断で殺してきた、だからこそ都市伝説になり得たのだ。それが、これからは[処刑人]としての義務になるとするなら、その名を冠する者としての覚悟をしなければならない。セラフィーノは、九埜を自由な身で居させたかった、永遠の中で気の向くままに生きていて欲しかった。だが、隣の彼女は小さく溜息を吐いただけで、そっと彼の手に自らの小さな手を重ねると、歌うような美しい声で、言葉を並べていく。


「コレで良いんだよ…食い扶持ぶちが新しく増えたとでも思えば、しかも大体の要求は叶えてもらえる。今まで散々喰い散らかしたからね、手を貸してやっても良いッスよ?」


 最後の一言が滅茶苦茶な上から目線だったが、九埜の言葉を聞いたセラフィーノが思わず苦笑した、その感情は周囲にも緩やかに広がる。これが[黄昏の魔女]か、と。提案をした忍も、一時セラフィーノの不機嫌さに冷や汗をかいた宗士も、ひたすらヒヤヒヤしていた迅も苦笑している。長谷寺だけがずっと笑顔のままだった、彼の元気な声が店内に響く。


「よかったねー、忍ちゃんっ!迅ちゃんお酒まだー?」


 確かに良い方向へ転んだが、長谷寺のこの空気をぶち壊す特技は何とかならないのかと多数の者が思った瞬間だった。また、微妙に張り詰めていた糸を断ち切り、普段通りの[REI]の雰囲気へと戻した瞬間でもあった。自分達が注文した酒が配られ、八人で乾杯をすると、透は酒を片手にカウンター内へ入っていく。今夜は[BillyBlack]の上位幹部連で席がほぼ埋まっている、大事だいじの収束と始まりを見届けた彼等から、酒の注文も飛び交いだして、笑い声も上がり始めた。そんな中、ハッとしたようにカクテルグラスを置いた九埜がセラフィーノに何かを耳打ちして席を離れる。テーブル席に居た全員の視線が頷いた彼に向いて、そのあと、九埜の動きを追った。


「忍くん、契約の儀式をやっときましょッス」


「…儀式?」


「真日留の魔法を見たいなら、今だぞ」


 九埜は、[黄昏の魔女]として[処刑人]の称号をいただくのなら、きちんとした手順でもって契約を結ばなければならないと、そう思ったのだ。不思議そうな目をしていた全員が、セラフィーノの言葉を聞いて納得したように頷く。魔女にとっての[契約の儀式]は、本来なら非常に特別なモノだ、当事者以外が見られる機会は、ほぼ無いと言えるだろう。しかし、彼女は他の魔女達とは生まれ持ったオーラの色が違う、神々の中でも最も恐ろしいとされる黄金のオーラの持ち主だ。どんな魔法を使おうとも、誰もそれを真似する事は出来ない。だからこそ、誰の前でも自らがおこなう[契約の儀式]をする事ができるのだ。都市伝説の[黄昏の魔女]が、御伽噺おとぎばなしでしか聞いた事が無いような魔法を使う、これには流石の長谷寺もキラキラと目を輝かせて注目している。





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