第58話・死を司る者、罪を司る者

 夕闇の中を、それぞれ会話をしながら八人でBAR[REI]に辿り着いた。吉川と透が、ようやく慣れた場所に帰って来れたと安堵したのもつかの間、店内にいる客層を見て逆方向へ逃げ出したい気持ちでいっぱいになったのだった。そこには[BillyBlack]の幹部たちの姿がある、彼等は、今日廃ビルに突入してきた幹部連よりも上に位置する者達だ、ほぼ全員が亜型や、別の世界ページで生まれ育った魔物達である。


 彼等に対して下からの報告は勿論あったのだが、何の為にいるのかと言うと、今回の件で起こった事と次第を、新参者が意図して巻き込んだ長谷寺たち本人はどう思ったかを聞こうという事で、彼の住処すみかである[REI]までやって来たのだ。せかいの創造主の恋人で[BillyBlack]のボス・斎賀 忍、幸嶋の恋人である広域指定暴力団相川組傘下の黒柳組組長・黒柳くろやぎ 宗士そうし、他にも常に忍の周りにいる側近たちが雁首がんくび揃えて待っていれば、普通の人間より少しは頑丈で戦闘力があるといっても足はすくむ。まさか[BillyBlack]のボスが来ているとは思わなかった長谷寺は、驚きの声を上げた。


「あれ!?なんで忍ちゃんがいるのっ?」


「自分の胸に聞いてみろ」


「んー…えー…?…あ、美術のジュギョーでライフル使ったのがダメだったとか?」


 ここで出てくる問題が授業で使ったライフル銃なところを見ると、それより遥かに重い罪だろう虐殺ぎゃくさつを、派手にやらかしているのは全く問題無いモノとしてとらえている事がうかがえる。もし誰かに[バサバサ殺しすぎだ]と言われたとしても、迅に言われた[殺す人間は選べ]という約束は破っていないと、彼は自信を持って答えるだろう。カウンター内の迅はそう思っていたし、実際、長谷寺はその約束をシッカリと守っているつもりでいる。自分の攻撃を避けられるメンバーは除いて、人間である吉川と幸嶋のことは黒腕に守って貰うよう伝えていた。首を傾げる長谷寺を見て、忍は長く深い溜息を吐く。カウンターにひじをついてグラスの中の酒を飲むと、呆れたように言葉を漏らした。


「あのなぁ…確かに奴等はテメェの敵だったろうが……あー、もういい。面倒くせぇ」


 殺しの数を減らせと言ったところで、長谷寺はきっと[なんで?]を只管ひたすら繰り返すのだろうと、予想がついてしまった。そもそも、[モールテ]を司る妖魔神になりたてホヤホヤの自分から、彼が自覚しているかは怪しいが[クリミーネ]を司る神域SS階級の中でもトップクラスの大物邪神に、言えることなど特にない。高山にも同じような事が言える、黒腕は[BillyBlack]の幹部だ。亜型である幸嶋と、人間である吉川を守った行為に関しては多少乱暴だったとしても問題無いと結論づけられる。


 乱暴な虐殺事件にはなったが場所は禁域区だった、入った者が悪いと、この世界ページに存在する誰もが言うだろう。人型の姿でいる喰闇鬼之始祖氏くろやぎのしそうじこと黒柳 宗士は、フッと笑みを浮かべて椅子から立ち上がり、九埜を見詰めてから一礼した。不思議そうに小首を傾げ、チラリとセラフィーノを見上げたが、彼は自分を見上げる愛しい者の金糸のような髪を優しく撫でるだけだ。顔を上げた宗士は、深紅の唇で弧を描くと口を開いた。


「貴女が私の恋人を守ってくれたと報告をうけた、私は此処ここにあまりいないからね…とても感謝しているよ、有難う」


「ぁ、ああ、いえ、どういたしましてッス」


 そう、喰闇鬼一族総帥の彼が此処ここにいたのは、結果的に幸嶋も守る事になった九埜に対して、感謝の言葉を直接伝えたいと思ったからだ。たとえ不老不死だとしても、愛する者が傷付けられるなど、彼にとっては耐え難いものなのだ。宗士は、長谷寺たちに向かって椅子に座るよううながした、彼等には…というよりも、九埜には、まだ聞きたい事がいくつかあった。それは、これからの暗黒街にとって必要な問いでもあるのだ。





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