第57話 罰
「フィエルテです」
「……入りなさい」
アマルティア教団暗殺部隊による王子暗殺未遂事件から二日後。
病床に
「……国内外の混乱は覚悟の上で、アマルティア教団の刺客の侵入とレーブの死を
僅か10歳の王子が教団と内通し、身内である王子たちの命を狙ったなどという真実を公表するわけにはいかない。国民に嘘をつくことは不本意だが、王国の未来を考えれば真実を歪めて発表する他ないのだ。
大陸の情勢が不安定なこの時期に、王室内に不和があったなどと知られてはいけない。此度の事件に関しては、真実が決して外部に漏れないように情報統制を徹底している。レーブ自身が騒動を起こしたのが王城ではなく、ビーンシュトック邸であったことは不幸中の幸いだった。王城内ならばシュトゥルム帝国側の人間であるゾフィーらに感づかれる可能性もあったが、直接現場を見られていない以上、誤魔化しがきく。聡明なゾフィーのこと、公表された情報を
「素晴らしい対応だ。流石はフィエルテだな」
我が子の仕事振りに
「……何を笑っておられるのですか? 王子が、家族が一人死んでいるのですよ」
「あれを家族と思ったことなど一度もない。最後の最後まで私に迷惑をかけおって、やはりあれは
「……
いつだって冷静なフィエルテが、レーブの名を出した時だけは怒りと悲しみに声を震わせていた。公務と事件の事後処理とに追われていたが、その間にも弟を
「……お前まで、私を
「……私は10年前のあの日から、ずっとあなたを軽蔑してきましたよ。あれ以降、過剰な反抗をしなかったのはあなたを許したからではない。国を思えばこそ、親子間で余計な衝突は避けるべきだと考えたからだ。愛想はとっくに尽きている」
「……王に対する
「好きなだけ粋がっているといい。まともに責務もこなせず、ただ死を待つだけのあなたに何が出来る? 医師が申しておりました、父上はもって一カ月程度の命であると。すでに
激しい怒りを宿していても、流石に病床の父に手を上げるような真似はしない。あくまでもフィエルテは、強く鋭い語気で実父の心へと斬りかかっていく。
「安心してください。あなたの犯した過ちは決して表に出ぬように徹底いたします。これ以上、余計な混乱を生むわけにはいきませんからね。あくまでもあなたは平時の王として、国民からは
「……」
フィエルテから発せられた最大限の皮肉を受け、トルシュ王は病んだ顔を屈辱に歪めていた。
「報告は済ませまたし、私はこれで失礼することとしましょう。多忙故に、直接顔を合わせるのはこれで最後とする所存。今後は報告があれば、文官か文書を通してとすることとします。父上とて、私のような憎らしい息子とはもう顔を合わせたくはないでしょう。次に父上の顔を拝むのは、
「フィエルテ!」
「……これまでも確執の大きかったシエルや姉さんは元より、真実を知った今、あなたを慕っていたペルルももうこの部屋へ寄り付こうとはしないでしょう。我ら兄弟一同、あなたの死に目に立ち会うつもりもありません。どうぞ一人孤独に最期をお迎えください。それこそがあなたの犯した過ちに対する罰です」
静かな口調とは裏腹に、フィエルテは感情的に荒々しく扉を閉め、トルシュ王の
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