第35話 強くなりたい

「お初にお目にかかります、ソレイユ様。旅の傭兵、ファルコ・ウラガ―ノと申します」

「ルミエール領主フォルス・ルミエールが嫡女ちゃくじょ――ソレイユ・ルミエールです。お話しはニュクスから伺っていますよ」


 状況が一段落着き、ソレイユは二槍の傭兵――ファルコと対面していた。

 あれから5人の女性達が地下室から救出された。幸いなことに命に関わる怪我は無かったが、盗賊達に尊厳そんげんを踏みにじられたことによる精神的なダメージが大きく、まともに口が利けない状態だ。少しでも安心してもらうために、今は同性であるウーとリスが側に付き添っている。

 現状、疲弊ひへいした5人もの女性を伴ってグロワールの街へ向かうことは難しいので、もう一人の傭兵――シモンが一足先にグロワールへと戻り状況を報告、女性達を保護するための人手を連れて戻って来る手筈てはずとなっている。その道中、街道に旅行者の護衛として置いて来たクラージュにも、ソレイユが状況を記した手紙を渡してきてもらう予定だ。


「ニュクスと互角に渡り合ったと聞きました。相当な腕前のようですね」

「生きるためにみがき上げてきた技術ですから。この二本の槍は、すでに体の一部のようなものです」

「その気持ちはとてもよく分かります。私もこの愛刀を振るう時は、武器を手にしているというよりも、腕そのものが延長されて、意のままに動いてくれるような、そんな感覚を得る時がありますから」

「その若さでそういった感覚に行きつくとは、流石はソレイユ様ですね」

「流石、ですか?」

 

 まるで以前から自分のことを知っているかのような口ぶりに、ソレイユは不思議そうに小首を傾げた。少なくともソレイユには、ファルコ・ウラガーノと過去に対面した記憶は無い。


 そんなソレイユの疑問に答えるように、ファルコは間を空けずに口を開いた。

 

「数々の武勇を持つ、剣聖けんせいフォルス・ルミエールきょう。その存在は、戦場に生きる我ら傭兵にとっても大きな憧れなのです。その娘であるソレイユ様も、相当な使い手であることが伝わって来た。余所者の勝手な感想で申し訳ありませんが、血は争えないなと、そう感じたものでして」

「そういうことでしたか。しかし、お褒めに預かり光栄ですが、私はまだまだ未熟者です。民を、故郷を守るためには今のままでは足りません。もっと強くなりたい、その欲求が尽きることはありません」

「ソレイユ様はきっと、どこまでも強くなれると思います。あなたには才があり、それを引き出さんとする向上心がある。そういう戦士はどこまでも強くなるものです。これは決してお世辞で言っているわけではありません。長らく傭兵として戦場を歩いてきた者として、まことの戦士を見極める目は持ち合わせているつもりですから」

「どこまでも強くなれるですか。これ以上ない、とても嬉しいお言葉です。ありがとうファルコ」

「勿体なきお言葉です」


 ファルコは敬意を表しこうべを垂れた。

 その表情はとても感慨かんがい深げで、ソレイユと対面出来たことを心から喜んでいるようだった。


「ソレイユ様。遠くにクラージュらしき騎士の乗った騎馬の姿が見えました。向こうの状況が落ち着き、合流に来たのかもしれません」

「分かったわ。直ぐに行く」


 去り際のソレイユへ、ファルコが傭兵らしく営業を投げかける。


「ここで出会ったのも何かの縁。傭兵の力が必要な際は、何時でも僕にご依頼ください。当面はグロワールを拠点に活動しておりますので」

「ありがとうファルコ」


 満更でもなさそうに、ソレイユは笑顔でそう答えた。

 強い正義感と、それを実行に移すだけの高い戦闘能力。ファルコ・ウラガ―ノという傭兵に、ソレイユは戦力としてとても強い魅力を感じていた。

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