R・P・L(ロール・プレイング・ライフ)

ちびまるフォイ

第二の人生は毛むくじゃら

RPLサービスが始まって、しばらく経った。

今じゃみんな自分の体を付け替えて毎日を楽しんでいる。


「明日の休日はどこへ行こうかな~~」


平日は学校の関連でオリジナルの体にならなくちゃいけないが、

休日はRPLから与えられている体になって出かけられる。


「男の体じゃ入りずらいクレープ屋さんもいいなぁ。

 あ、でもチャラ系の体を使ってクラブとかにも挑戦してみたいなぁ」


「なにがRPLだ、まったく! くだらんっ」


父親はふんと鼻を鳴らした。


「いいか、人間というのは親から授かった体があるんだ。

 それをRPLなどとかいう、人工体でとっかえひっかえなどと……」


「そういうけどさ、別の人間になりたいときだってあるんだよ。

 友達に会いたくないときにも使えるし、

 なにより、別の人間として生活する楽しさには代えがたいよ」


「わしゃ、お前ほど人間関係に困っとらんっ」


「でもこないだも婚活パーティに行ってたじゃん。

 めちゃくちゃ人間関係に飢えてるじゃん」


「あれはちがうっ! ちがうんじゃ!」

「……再婚したいんじゃないの?」


「わしゃ結婚なんてもうまっぴらだ。

 だが、女は好きだ。お金をかけずにちやほやされたい」


「ますます、RPL使った方がいいような……。

 最近じゃ高齢者もRPLで若い体を使ったりしてるのに。

 イケメンの体になればもっとモテるよ?」


「くだらん」


相変わらず、父親との話は平行線のままだった。

離婚してからというものますます頑固になった気がする。


石のようになった父親を放って置いて、

俺はお気に入りの長身モデル体に着替えて街に出た。


「おい、あの子……」

「ステキねぇ、モデルさんかな」

「声かけて来いよ」「ムリだって」


街に出ると、みんなの熱い視線が心地よく刺さる。

RPLサービスでは準備された体を使うこともできるけど、

自分なりにカスタマイズすることもできる。


顔や肩書きをカスタマイズした別の自分に成り代わることができる。


ブサイクで生まれた人間が味わうことのない羨望浴びて

心の底から生きていてよかったと思える。


さんざん別人ライフを楽しんだあと家に帰ると、

父親がテレビの前でじっとニュースを見ていた。


「何見てるの?」

「おい、これ見ろ」


ニュースではRPLサービスの本社が襲撃された映像が流れていた。

理由はよくわからないが、悪い人が会社のほかの体を破壊しようとしていたらしい。


『別人になるなんて、現実逃避だ!! 人間の否定だぁ!!』


犯人は警察に取り押さえながらも主張を続けていた。

多くの死傷者を出したことで、この事件は問題となった。


『えーー、昨今たいへんな賑わいを見せておりますRPLですが

 わが国では所持できる体を1つとすることに可決されました』


この件で火をつけられた政治家はあれよあれよと法律を決めてしまった。

もともと、RPLの体を使っての犯罪行為はあったことも背景にあった。


「お前、さっさといらない体は捨てておけよ」


父親はそら見たことか、といった顔で告げた。

使える体が1つになってしまうと、

もう高齢者の体を使って老人ホームに潜入したりすることも

もう子供になって年甲斐もなくかくれんぼに興じたりもできなくなる。


「はぁ……ホント、悪いことに使ったやつ許せん……」


RPLで購入した体を1つ1つ捨てていく。

中にいは1度しか変えたこともない体もあった。


そして、最後の1つ。

お気に入りだったモデル体型の女の体。


「楽しかったなぁ……思えば、これが一番なっていたんだっけな……」


毎日退屈だった日常を変えてくれたのはこの体だった。

別人になる楽しさを一番感じさせてくれた体だった。


ふと、頭の中で考えがよぎった。



――本当に、オリジナルの体で生き続けるべきなのか?



今、俺の手の中にある体は間違いなく成功者の体。

ちやほやされ、誰もが憧れるような生活が手に入る。


普通とブサイクを足して人望を削ったような俺の人生。

どちらを生き選ぶべきなのか。


これまでの自分や家族を捨てて新しい自分になるのか。

これまでの自分の人生のレールを守るのか。


「ううう……やっぱりこっちだ!!」


俺は1つの体を選んだ。


 ・

 ・

 ・


あの日、体を選んだときからもう家には帰っていない。


別の体には別の戸籍に名前、歴史も設定されているから

もう元の家族や元の家とは絶縁したも同然。


それでも……。


「やっぱり、この体になってよかった」


一番、等身大でいられるのがこの体だった。

男のくせにだとか、競争しかない男社会には向いていない。


俺はこの女の体での第二の人生に大満足だ。


「父さん、もう会えないけど、私はずっと幸せです」


私は新しい自分として生きると決めた。

新しい人生への第一歩を踏み出した。


踏み出した先に、ちょうど捨て犬に目がいった。


「わぁ♪ かわいい~~!!!」


前までの自分なら迷わず黄色い歓声などあげなかった。

女の体になってから自分を素直に出せている気がする。


『 ひろってください 』


犬が書いたような汚い字と対照的につぶらな瞳で可愛い柴犬。

見ているだけで癒される。


「ああ~~ん、もうかわいい!! めっちゃかわいい~~!!」


やすりのように体の隅々まで子犬をあてがってこすりつける。

こんなに可愛い地球上の生命がいるなんて。


よく見ると、子犬も嬉しそうに顔をニヤけさせていた。



「わしゃ、やっぱりこの体になって正解だったぜ。

 若い女の子の体に好き放題触れるなんて最高じゃ!!」



聞き覚えのある語尾に言葉を失った。



「と、父さん……!?」

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