ソ・ラ・ノ・ツ・バ・サ
とろろん
第1翔 再開ハ突然ニ
プロローグ
青年ハ此ノ青空ニ恋ヲシタ―
青年ハ白キ雲ニ憧レタ―
青年ハ最愛ノ人ヲ乗セル翼ヲ願ッタ―
そして青年は-
1945年3月21日―
「敵機撃墜!」
無線から叫び声が聞こえる。
ぐるぐると回る高度計、水平儀は右に左に暴れている。
瞬間無線で彼を呼ぶ声が聞こえる。
「―・・・6番!後方敵機!」
高度4000m
彼は後方を振り返ると翼前方を真っ赤に染めながら敵、グラマンF6Fが彼の機体に襲い掛かる。
肉眼で見える弾丸、尾を引く煙が彼の駆る飛行機に降り注ぐ。
「・・・ッ!」
彼は咄嗟に操縦桿を手前に精一杯引き上げラダーペダルを目一杯左に踏み込む。
機体は錐揉み状態に入り、F6F《グラマン》は射線に捉えることが出来ず彼の操縦する機体の前に出る。
照準器に敵を捕らえ彼は喰らいつく。F6Fは必死に回避行動を取る。上に下に、右に左に―
彼は、左手に握る取っ手を握り締める。すると体を揺さぶるように、20mm機銃が羽から飛び出してゆく。
蒼、赤、黄―色それぞれの弾丸が先ほどまで襲っていたF6Fに降り注ぐ。
数発命中したのだろう。黒い煙を吐きつつF6Fは海面へと落ち行く。墜ちていくのを確認し、彼は違うF6Fに狙いをつける。狙いをつけたF6Fは彼の駆る機体より高度が低く彼は急降下し、F6Fに近づく。次のF6Fは友の乗る零戦を襲うF6F。バリバリと翼を赤く染め、6本の筋が友を襲う。
彼はF6Fを照準器に捉え、左親指にある7.7mm機銃発射ボタンを押す。
F6Fは気づいたのだろう。急旋回をして回避行動を取る。
しかし彼にはすべて見えていたのだろうか。咄嗟にF6Fを追撃し、20mm機銃を叩き込む。
唸るエンジン音を裂く様な音を奏でながら、発射される弾は吸い込まれるように、F6Fを襲う。
瞬間F6Fは真っ二つに割れ、パイロットが脱出する。
追われていた友は大丈夫かと彼は視線を移すと、別の敵と交戦していた。
安堵し再度辺りを見渡し、旋回に入る瞬間
バリバリバリ!
後ろに付いていたのだろうか。F6Fが機銃を乱射しながら彼の駆る機体に突っ込んでくる。
左手で握るスロットルレバーを手前に下げ、目の前に迫った瞬間操縦桿を左に倒す。相手は彼の機体の前に滑り込むようにして飛び込んでくる。スロットルレバーを奥に押し込むようにして出力を上げる。大柄な機体が照準器を埋め尽くすほど接近しボタンを左親指で押す。7,7mm機銃が命中し燃料だろうか、白い煙を吐く。F6Fも降るスロットルで逃げる。彼は止めといわんばかりに20mm機銃を叩き込む。
黒煙を吐いたF6Fは海面に突き刺さるようにして落ち行く。黒く残された、敵が吐いた煙だけが残る。辺りを見渡すと白、黒、茶色の筋や、ぐるぐると回る飛行機、飛行機雲。大空というキャンバスがあるとするならば、筆を滑らしたかのようとでもいうのだろう。
しかしその中では数多の友や「敵」と呼ばれるものたちの命の駆け引き。そしてその駆け引きに負けたものが遺していく最後の叫びなのかも知れない筋は、青空には似て藻に付かぬ、悲痛なものなのかもしれない。
「編隊指揮官機ヨリ各機、空戦ヤメ全機集レ」
指揮官から無線が入る。直ぐに交戦空域から離脱し指揮官機へと向かう彼は、遺していった筋を感慨そうに見つめながらその場を去る。
集合したのは11機、何とか無事全員生き残った彼の部隊は帰還方向北北東へ進路を取る。
指揮官機より無線が会った以降全く無線が口を開かない。
「故障か・・・」
彼はそう呟くと、燃料の残量を確認し編隊を組む。
そして2番機、3番機に手を振る
「我ノ後ニ続ケ」
意味を理解したのだろう。深く何度も頷き、彼の左右後方に付く。
安心したのだろうか、ほっと溜息をつくと、手袋、顔が汗でずぶ濡れなのに気づく。
腕で汗を拭うと再び操縦桿を握り締める。
どれ位飛んでいただろうか、陸地が見えてくる。周りには桜島、開聞岳が顔をのぞかせる。
指揮官機が右にバンク角※を取る。着陸態勢に入るのだろう。
高度計では1000を指す。それからゆっくりと高度と速度を落とす。指揮官機が風防を空け、彼の方を向き口を大きく開ける。
彼は指揮官を見ると「貴官カラ降リヨ」と口を開いていた。彼は頷き速度を絞りながらゆっくりと降りる。
主脚(車輪)を下ろし、フラップを下げる。主脚が下がったか確認するため、彼は翼を見ると、羽に赤い棒があがっていた。計器盤を確認すると速度は70ノット(130km)を指す。フラップを最大に下げゆっくりと地面に降り立つ
キュ!
大きなタイヤが空転するような音とともにガクンとする振動が体を襲う。
すぐさまブレーキをゆっくりかけ飛行場の外れにある
ゆっくりとすべての計器の針が止まり、エンジンを切る。護衛任務が終わった彼はようやく大きく溜息をつく。
彼はゆっくりと腰を上げ彼の翼を降りる。
今彼が自らの足を付く。此の青空の下、すべてがまだ始まりとは知らずに。
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